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ランボルギーニになった事を覚えています

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 職場を後にして、スーパーで買い物をしつつマンションに向かいました。東京って、どこも物価が高いですよね…。同級生の友人は駅構内のスーパーしか最寄りがないそうで、そこよりはマシだと思いますが。

 時刻はすでに、日付が変わるかどうかって位です。アルバイトは基本22時までのシフト、通称「遅番」なんですよね。学業との両立を、優先した結果ですが。割増賃金も相まって、なかなか馬鹿に出来ないお給料ですよ。以前は朝までの深夜勤務もあったそうですが、そこまではなかなかねぇ…。
 マンションからは大学へも職場へも歩いて通える距離なので、快適に暮らしています。東京に来てからこっち、通勤ラッシュとは無縁の生活なんですよね。入試の時、ちょっと巡り合ったくらいかな?
 言ったと思いますが、学生の身分としてはなかなかに贅沢なマンションに暮らさせてもらっています。立地も去る事ながら、玄関に滝流れてますからね。本来は、ちょっと立派なオフィスに勤めているビジネスパーソンが結婚前に暮らす所ですよ。実家が、お金持ちなのかって?まぁ、そうですね…。
 うちの親父は、九州でもちょっと名のしれた塗装会社の社長です。無学ながら才覚のある彼は、サラリーマン時代からメキメキと営業成績を伸ばしていたのだそうで。ある程度お金が溜まった時点で退職し、自らの会社を設立。経理事務として雇った母親と、そこで結婚しました。
 しばらく爪に火を灯すような生活をしていましたが、持ち前の商才を活かし次々と大型の受注を得る。僕も小学生時代、急に高級住宅街に引っ越しして車がランボルギーニになった事を覚えています。外壁塗装と太陽光発電の事業を双角に、昨年四月には福岡証券取引所に上場致しました。僕が、絶賛浪人生やってた頃ですね。
 繰り返しですが、僕の卒業後はどうなるんだろう。親父は何も言いませんが、どこかの企業で何年か修行をさせたいんだろうなぁ。そこから実家に戻って親父を手伝いながら、ゆくゆくは社長に…?元号を二つほど勘違いしたような、古臭い体質の会社ですよ。あんな、我が強そうな営業マンどもを取りまとめるの?考えるだに、恐ろしい。だからって、他に何をしたいって事もないなぁ…。
 例のゴミ捨て場の前を、通りかかりました。今日も、深夜にゴミを捨てた輩がいたようです。ここ、福岡じゃなくて東京ですよって教えて差し上げたい。だけど、イケメンが倒れているような事はありませんでした。
 ちょっとだけ、期待しなかったと言えば嘘になります。だけど、これが当然。彼は彼の人生を歩んでいるのだろうし、僕もいい加減現実見なきゃ…。そう考えて、マンションの玄関に向かいました。

 そこに、大雅くんが倒れていました。カードキーがないので、中に入れなかったようです。マンションの住人が、遠巻きに彼を避けて通り過ぎていました。この人、どこかで倒れていないと気がすまないのかな。
 ちょっとだけ、予想しないでもありませんでした。差し当たって、友人を介抱するような振りをして自室に上げないと…。
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