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やっぱり顔か

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 何だかんだで、爽子さんとの話し合いはつつがなく終わりました。以降、大雅くんと顔を合わせるのは控えるようにするそうです。だけど僕ら二人の進展を知らせるために、彼女とLIMEを交換するようになりました。

 ついでにと言うか、会社同士で末長いお付き合いを約束されたので結果オーライですかね…。親父が聞いたら、泣いて喜びそうだ。
 爽子さんと別れて、大雅くんを迎えに行きました。こう言う場所に似つかわしくないスパッツ型の水着を履いて、全力でプールを往復している筈です。多分、周りのカップル達が引いていると思うんですけど。
 カップルと言えば、ちょっと物欲しそうな女性から何度か声をかけられそうになりましたよ。最近マスクをつけていないので、ちょいちょいこう言う事が起こります。ごめんさないね、他を当たって下さい。
 クイックターンでプールの壁を蹴った大雅くんに、声をかけようとしたところ…。逆に、後ろから肩を掴まれて声をかけられました。振り返ると、そこには思いもしなかった懐かしい顔が。
 「…雄太くん?八尋、雄太くんだよね。まさか、こんな所で遭うなんて…」
 「○○さん…(※作者が名前を考えていない訳ではありません)」
 驚きました。小学生の頃、海で溺れた僕を助けてくれたライフセーバーさんです。元、ってつけた方がいいでしょうね。大学卒業と同時に、東京の会社で就職したと聞きましたから。上京して十年は経つので、話し方も不自然さのない標準語です。でも所々、福岡弁のイントネーションが残っているかな。
 「雄太くん、すぐに分かったよ。ずいぶんと背は伸びたけど、顔立ちは全然変わってないねぇ。それに、その声!あの頃から男の子にしては高かったけど、まさか今でも声変わりしてないなんて」
 「やだなぁ。声の事は、言いっこなしですよ。これでも、結構コンプレックスなんですから…」
 変わってないと言えば、目の前の○○さんの方が全く変わっていない。当時のままのイケメンさんで、多少日焼けが薄くなったくらいかな。当時大学生だったから、三十路はゆうに超えている筈なんだけど…。若っかいなぁ。
 職場にノー残業デーが浸透して給料が目減りしたので、空いた時間で監視員のアルバイトしてるらしいですよ。ほとんど何もしないで、結構なお給料がもらえるボロいお仕事らしい。大雅くんもそうだったけど、採用の基準はやっぱり顔かな…。
 「いやぁ、失礼。でも本当に雄太くん、ちっとも変わっていないよ。当時から、整った顔立ちはしていたけど。今はそう、まるで王子様みたいだ…って言われない?」
 「…」
 とても大きな人だと思っていたけど、僕の身長が伸びたので今はそこまで変わらない。そして、僕が大人になったからこそ分かったのだろうけど…。
 ホモだな、この人は。顔に書いてある。多分、子供の頃に会った時から。当時から、僕の事をそう言う目で見ていたかは分かんないけど…。だけど今は、明らかに僕と関係を持ちたそうに見ているのが分かる。
 「…僕なんて。ちっとも、王子様なんかじゃありません。見た目なんて、何も関係がない。本当の王子様ってのは、○○さんみたいに…。誰かのために動けて、助ける事が出来る人を言うんですよ。そして僕は最近、そう言った人に巡り会う事が出来ました。ちょっとだけ、ゴミ捨て場の臭いの漂う王子様ですけど…」
 「…雄太くんは、その『王子様』と一緒に生きて行きたいと思うんだね?」
 「えぇ…」
 そこまで言うと、○○さんは軽く微笑んで僕の肩を叩いてきた。勘のいい人だから、今プールを全力で泳いでいる人物がそれだと悟られたんじゃないかな。
 去り際に、彼とまた連絡を取り合えるようLIMEを交換して帰った。何だか今夜、めっちゃLIME交換するなぁ。そう言う日だろうか。

 さて、今度こそ本当に用事は終わりだ。いい加減プールの中の大雅くんを引き上げて、僕たちの家に帰るとしよう…。
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