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海へ、行きたいな
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雪兎とのカップル成立が学校中に知れ渡ったので、女子から告白される事もなくなった…。
と思いきや、未だにちょいちょい呼び出しを受ける機会はあるよ。裏庭とかに連れ出されて、決闘でも始めるのかと思ったら…。
「初めて見た時から、一ノ瀬くんの事が好きでした(過去形)。でも伊勢嶋くんと、どうぞお幸せにね」
とか、そんな感じ。文字通りの、告白だね。わざわざそれを、おれに伝える意味があるのかと思うけど。自分自身の、精神的な区切りのためには必要なのかな…。
どっちみち、こちらとしても断る理由を毎回考える必要は無くなった。めでたし、めでたし…なのかな。
みなさんこんにちは。一ノ瀬蒼12歳、ホモです。今日は学校の行事で、バレエ鑑賞にやって来たのですよ。市内の芸術劇場に、有名な劇団が来たからって。この手の気取った行事、大好きだよねこの学校。
バレエなんざ、内容も分からないし退屈で仕方ない…。と言いたい所ですが、実は有名どころはたいがい知ってるんですよね。姉ちゃんが昔、体力をつけるためにちょっとバレエ教室に通ってたんですよ。
そのうち体調が悪化したので何年も通っていた訳ではありませんが、バレエの世界には引き込まれてしまったようで。家でよく、なんたら劇団のなんたら公演みたいなDVDを鑑賞させられました。
なんで、バレエの知識についてはそこら辺の小学生に負けない自信があった…筈なんですが。この日の演目は、ちょっと今まで見た事も聞いた事もないものでした。もともと交響曲としては有名だったけど、バレエとしてはあんまり演じられる事がなかったんですって。
分からないなりに、ざっと内容をまとめるとこんな感じ。主人公が美しい娘に恋をして、母親から無理難題を申し付けられました。ここら辺、かぐや姫みたいな話やね。2つ目までは何とかなったけど、3つ目の課題が黄泉の川を泳ぐ白鳥を射って殺しなさいみたいな内容でした。だいぶ端折るけど、結局無理だったんで現世に戻されましたみたいな話。ここら辺、日本神話みたいやね。
暗いなぁ。もっと明るくて、有名な演目なら良かったのに。まぁ劇団の方々も、小学生相手だけに演じてる訳でもないしね。まぁでも、いいか。話がどうであれ、雪兎と隣同士の鑑賞だから。特に誰かにコネを使った訳でもなく、出席番号順で並んだ結果だよ。初めて、出席番号に感謝したわ。
今日は六年生だけの行事だから、お邪魔虫の梢もいない。せいぜい甘いムードの中で、大人同士の鑑賞会を楽しませてもらおう。差し当たって、暗闇に紛れて手は繋がせてもらいました。当然ながら、指と指を絡め合う恋人繋ぎってやつね。周りの連中にはバレてるかもだけど、知ったこっちゃあるかい。
いやもう手を繋ぐだけに飽き足らず、あんな所やこんな所まで触り合ったりとか?ゆ、雪兎くん。可愛い顔して、意外と大胆な…!なんつってね。
そんなこんなで、二人の時間を楽しみながら…。頭の片隅の方で、ふと思ったんだ。こんな立派な舞台、姉ちゃんにも生で鑑賞させてやりたかったなって。いやむしろ、舞台に立たせてやりたかったな。流石にプロの劇団は無理でも、バレエ教室の発表会とかで。周りの娘に負けない、綺麗な衣装を着せてさ。母さんも、きっとそれを見て喜んだ事だろう。
そう考えてたら、何だか…。舞台の方で、本当に姉ちゃんが踊ってるような気がしてきた。いや、これは雪兎の能力の産物じゃなくてね。舞台に感情移入するうち、おれの想像力が暴走し始めたとかそんなんだと思う。
ただ、そのイメージとしての姉ちゃん…。由香里姉ちゃんの表情は、暗くて虚無だ。どうにも、楽しくて踊っていると言う感じではない。義務って言うのか…罰?何の罪かは知らないけど、大いなる存在に無理やり踊らされてますみたいな感じ。生と死の狭間にあるというこの川で、未来永劫ずーっとずーっと踊らされてるのかな。あり得ないけど、そんな風に考えたら…。
途端に涙が溢れ出て、どうにも止める事が出来なくなった。何だこりゃ。実際に姉ちゃんが亡くなった時も、泣きゃしなかったってのに。いや、その時に限らず…。物心ついた時から、人前で泣いたって記憶がない。泣かない事が「男らしい」と思っていたけど、もっと小まめに泣いておけば良かったかも。
何せ、涙も鼻水も次から次へと溢れ出てきて止まりゃしねぇ。すでにもう姉ちゃんがどうとかは離れて、今までの人生の嫌な事や悲しい事が一気に押し寄せてるんだって気がしてきた。
「あお君?…どうしたの?大丈夫?」
雪兎が気づいて、ハンカチを手渡してくれる。何となく、事情は察したのだろう。嫌だな。こんな情けない表情、雪兎にだけは見られたくなかった。でも、見られたのが雪兎で本当に良かった。そのまま、座席から立ち上がってそっと外へと連れ出してくれたんだ。
舞台の外の、待合室?で座って、だいぶ涙は落ち着いて来たけど…。
「…帰りたくねぇな。周りから、何て言われるやら。おれ、めっちゃ舞台に感激して泣いてたみたいじゃん?」
「あはは。いいじゃん、それはそれで。でも、あお君が帰りたくないって言うなら…。フケちゃう?このまま。学校をサボるなんて、生まれて初めてだけど…。いいよね。今日は、課外授業だし。途中までは、参加したんだし」
「…いいのか?雪兎は、それで」
「いいよ。お母さんに頼んで、体調を崩したとか何とか適当な言い訳してもらうから。それじゃ、今日はもう帰っちゃう?」
「…何となく、家にも帰りたくねぇな。その、うみ…」
「え?何て?うーみゅ?」
「何でちょっと、あざとく言うんだよ。その、うみへ…。海へ、行きたいな」
と思いきや、未だにちょいちょい呼び出しを受ける機会はあるよ。裏庭とかに連れ出されて、決闘でも始めるのかと思ったら…。
「初めて見た時から、一ノ瀬くんの事が好きでした(過去形)。でも伊勢嶋くんと、どうぞお幸せにね」
とか、そんな感じ。文字通りの、告白だね。わざわざそれを、おれに伝える意味があるのかと思うけど。自分自身の、精神的な区切りのためには必要なのかな…。
どっちみち、こちらとしても断る理由を毎回考える必要は無くなった。めでたし、めでたし…なのかな。
みなさんこんにちは。一ノ瀬蒼12歳、ホモです。今日は学校の行事で、バレエ鑑賞にやって来たのですよ。市内の芸術劇場に、有名な劇団が来たからって。この手の気取った行事、大好きだよねこの学校。
バレエなんざ、内容も分からないし退屈で仕方ない…。と言いたい所ですが、実は有名どころはたいがい知ってるんですよね。姉ちゃんが昔、体力をつけるためにちょっとバレエ教室に通ってたんですよ。
そのうち体調が悪化したので何年も通っていた訳ではありませんが、バレエの世界には引き込まれてしまったようで。家でよく、なんたら劇団のなんたら公演みたいなDVDを鑑賞させられました。
なんで、バレエの知識についてはそこら辺の小学生に負けない自信があった…筈なんですが。この日の演目は、ちょっと今まで見た事も聞いた事もないものでした。もともと交響曲としては有名だったけど、バレエとしてはあんまり演じられる事がなかったんですって。
分からないなりに、ざっと内容をまとめるとこんな感じ。主人公が美しい娘に恋をして、母親から無理難題を申し付けられました。ここら辺、かぐや姫みたいな話やね。2つ目までは何とかなったけど、3つ目の課題が黄泉の川を泳ぐ白鳥を射って殺しなさいみたいな内容でした。だいぶ端折るけど、結局無理だったんで現世に戻されましたみたいな話。ここら辺、日本神話みたいやね。
暗いなぁ。もっと明るくて、有名な演目なら良かったのに。まぁ劇団の方々も、小学生相手だけに演じてる訳でもないしね。まぁでも、いいか。話がどうであれ、雪兎と隣同士の鑑賞だから。特に誰かにコネを使った訳でもなく、出席番号順で並んだ結果だよ。初めて、出席番号に感謝したわ。
今日は六年生だけの行事だから、お邪魔虫の梢もいない。せいぜい甘いムードの中で、大人同士の鑑賞会を楽しませてもらおう。差し当たって、暗闇に紛れて手は繋がせてもらいました。当然ながら、指と指を絡め合う恋人繋ぎってやつね。周りの連中にはバレてるかもだけど、知ったこっちゃあるかい。
いやもう手を繋ぐだけに飽き足らず、あんな所やこんな所まで触り合ったりとか?ゆ、雪兎くん。可愛い顔して、意外と大胆な…!なんつってね。
そんなこんなで、二人の時間を楽しみながら…。頭の片隅の方で、ふと思ったんだ。こんな立派な舞台、姉ちゃんにも生で鑑賞させてやりたかったなって。いやむしろ、舞台に立たせてやりたかったな。流石にプロの劇団は無理でも、バレエ教室の発表会とかで。周りの娘に負けない、綺麗な衣装を着せてさ。母さんも、きっとそれを見て喜んだ事だろう。
そう考えてたら、何だか…。舞台の方で、本当に姉ちゃんが踊ってるような気がしてきた。いや、これは雪兎の能力の産物じゃなくてね。舞台に感情移入するうち、おれの想像力が暴走し始めたとかそんなんだと思う。
ただ、そのイメージとしての姉ちゃん…。由香里姉ちゃんの表情は、暗くて虚無だ。どうにも、楽しくて踊っていると言う感じではない。義務って言うのか…罰?何の罪かは知らないけど、大いなる存在に無理やり踊らされてますみたいな感じ。生と死の狭間にあるというこの川で、未来永劫ずーっとずーっと踊らされてるのかな。あり得ないけど、そんな風に考えたら…。
途端に涙が溢れ出て、どうにも止める事が出来なくなった。何だこりゃ。実際に姉ちゃんが亡くなった時も、泣きゃしなかったってのに。いや、その時に限らず…。物心ついた時から、人前で泣いたって記憶がない。泣かない事が「男らしい」と思っていたけど、もっと小まめに泣いておけば良かったかも。
何せ、涙も鼻水も次から次へと溢れ出てきて止まりゃしねぇ。すでにもう姉ちゃんがどうとかは離れて、今までの人生の嫌な事や悲しい事が一気に押し寄せてるんだって気がしてきた。
「あお君?…どうしたの?大丈夫?」
雪兎が気づいて、ハンカチを手渡してくれる。何となく、事情は察したのだろう。嫌だな。こんな情けない表情、雪兎にだけは見られたくなかった。でも、見られたのが雪兎で本当に良かった。そのまま、座席から立ち上がってそっと外へと連れ出してくれたんだ。
舞台の外の、待合室?で座って、だいぶ涙は落ち着いて来たけど…。
「…帰りたくねぇな。周りから、何て言われるやら。おれ、めっちゃ舞台に感激して泣いてたみたいじゃん?」
「あはは。いいじゃん、それはそれで。でも、あお君が帰りたくないって言うなら…。フケちゃう?このまま。学校をサボるなんて、生まれて初めてだけど…。いいよね。今日は、課外授業だし。途中までは、参加したんだし」
「…いいのか?雪兎は、それで」
「いいよ。お母さんに頼んで、体調を崩したとか何とか適当な言い訳してもらうから。それじゃ、今日はもう帰っちゃう?」
「…何となく、家にも帰りたくねぇな。その、うみ…」
「え?何て?うーみゅ?」
「何でちょっと、あざとく言うんだよ。その、うみへ…。海へ、行きたいな」
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