コリン坊っちゃまの秘密の花園

あきら

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男の子に女の子

気に入らない結末を一つ変えられる権限

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 男の子に女の子、遊びに出よう
 月が明るく、まるで昼のよう
 輪回しをしよう 大声を出そう
 楽しみたい人、こっちだよう
 嫌な人は置いてくよう
 夕食なんか忘れよう
 眠りなんか忘れよう
 通りで君の友達が待ってるよう

 みなさんこんばんは。コリン・クレイヴンです。正式に、父アーチボルトの嫡子と認定されました。そして、今晩は次期頭首である僕のお披露目を兼ねた舞踏会です…。
 よくもまぁ、こんなド田舎に人を集めたものだね。これもまぁ、父の権力と財力の賜物であろうが。出会う人出会う人が、微笑んで僕に挨拶をして来る。僕も笑みを返し続けたが、そろそろ表情筋の限界だよ。
 何人ものご令嬢から、ダンスの誘いを受けたが…。どれも、丁重にお断り申し上げた。ダンスは、苦手だと言って。いや、これはマジで申し上げておりますよ。
 ふと屋敷の窓から、庭園の方を見渡していたら…。何だかもういいやって気になって、バックレちゃった。みなさんへのご挨拶は、お父様に任せておこう。さんざん放置されたんだから、このくらいの意趣返しはいいよね。
 庭園の東屋の方に、ディコンがいた。一人寂しく笛を吹いていたが、僕に気づいて会釈をする。相変わらず、林檎のように赤い顔をして。そう、僕はまた「メアリー」の…。一人の女性と、言い換えようかな。女性の姿をして、ここにやって来たんだ。
 「踊って下さいますわね?」
 「お・おおお、おれ…(ダンスなんざァ、踊れませんよ)」
 「僕もだよ。だけど、いいじゃないか。音楽に合わせて、適当に動いてりゃ形になるから」
 人生なんてのも、そんなもんだと僕は思う。そうして二人、見つめ合って手を取って…。屋敷から流れる音楽に合わせ、飽きる事なく踊っていた。本当に、本当に楽しい時間だった…。
 足を止めて、昼間のような月明かりの下でキスをした。
 「…学校に、行ってみようと思ったんだ。あれだけ、嫌がってはいたけど。ロンドンに下宿を借りて、そこから通おうと思っている…」
 「そ・そ、そうですか。寂しくなりまさァ…」
 「君も、来てくれはしないかい…?僕一人では、生活が成り立たないから。そして…君自身も、学校に行ってもらおうと思うんだ。同じくロンドンにある、執事養成学校だよ。ゆくゆくは屋敷に戻った際、君には片腕として働いてもらおうと思う」
 「???そ、そんな。おれなんかっ…」
 「嫌かい?だけれど、前にも言ったっけ。僕は、君の能力を高く買っているよ。軽く教えたら、読み書きもあっと言う間に理解してしまったし…。ここは、君の才能を発揮するに相応しい場所ではない」
 「…」
 「冷えてきたね。そろそろ、家の中に入ろうか。その…今日は、君の小屋で泊まってもいいかなぁ?」
 そうして二人、もう一度唇を重ね合った。その夜は、お楽しみだったかって?さてねぇ。読者のみなさんの、ご想像にお任せするよ。
 
 さて、それから数日が経った。僕たちがロンドンへ経つのに、もう幾日も残ってはいない。身の回りの整理をすっかり済ませてしまって、なぜだか足は例の庭へと向かっていた。何となく、ここにも別れを告げなければと思ったのだね。
 庭園の机の上に、一通の手紙が置かれていた。母からの手紙を思い出して、何となく不吉な気持ちになる。手紙の差出人は、他ならぬディコンからであった。
 「親愛なるコリン坊っちゃま
 おれなんかのために、お気遣いを頂いてありがとうございます。
 学校へ行くと言う話、本当に心が躍りました。
 だけれど申し訳ない事に、謹んでご辞退を差し上げたいと思います。
 勉強が嫌だとか慣れない都会が不安だとか、そう言う事ではないです。
 坊っちゃまは、初めてお会いした時から本当にお優しくして下さいました。
 おれは、本当に嬉しかった。この世に生を受けて、初めて幸せを実感しました。だけれど、このまま坊っちゃまの優しさにただ甘えている訳には行かぬと思うのです。
 人間の幸せには、定量と言うものがございます。おれは、その定量を遥かに超える幸せをあなたから頂きました。
 どうか坊っちゃまは、その優しさをおれ以外の人たちに与えて下さい。そして何より、自分自身のためにも優しさを向けて下さい。
 屋敷には、おいとまを頂きました。無理を言って、旦那さまには他の就職先を紹介して頂きました。
 今日の馬車で、おれは旅立ちます。坊っちゃまも、慣れない土地でお身体を崩さないようご自愛下さいませ。学校での新生活、陰ながら応援しております
  心からの愛を込めて
  ディコン・ウェブスター」

 涙が流れ続けて、とどまる事はなかった。
 そうかそうか。人生とは、つまりこんなものなんだな。コリン・クレイヴンは、最愛のディコンとここでお別れ。両者は、二度と相まみえる事はありませでした。めでたしめでたし…。
 そんなので、納得出来るか!言い忘れていたが、僕には気に入らない結末を一つ変えられる権限があるのだよ。
 「うっ、うぅぅぅぅ…。馬を、出せぇぇぇぇ!」

 これまた、紳士としては些か恥ずべき大声で言い放った。庭園の外にいる使用人の一人か二人に、届いていたなら幸いだ。
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