11 / 13
男の子に女の子
気に入らない結末を一つ変えられる権限
しおりを挟む
男の子に女の子、遊びに出よう
月が明るく、まるで昼のよう
輪回しをしよう 大声を出そう
楽しみたい人、こっちだよう
嫌な人は置いてくよう
夕食なんか忘れよう
眠りなんか忘れよう
通りで君の友達が待ってるよう
みなさんこんばんは。コリン・クレイヴンです。正式に、父アーチボルトの嫡子と認定されました。そして、今晩は次期頭首である僕のお披露目を兼ねた舞踏会です…。
よくもまぁ、こんなド田舎に人を集めたものだね。これもまぁ、父の権力と財力の賜物であろうが。出会う人出会う人が、微笑んで僕に挨拶をして来る。僕も笑みを返し続けたが、そろそろ表情筋の限界だよ。
何人ものご令嬢から、ダンスの誘いを受けたが…。どれも、丁重にお断り申し上げた。ダンスは、苦手だと言って。いや、これはマジで申し上げておりますよ。
ふと屋敷の窓から、庭園の方を見渡していたら…。何だかもういいやって気になって、バックレちゃった。みなさんへのご挨拶は、お父様に任せておこう。さんざん放置されたんだから、このくらいの意趣返しはいいよね。
庭園の東屋の方に、ディコンがいた。一人寂しく笛を吹いていたが、僕に気づいて会釈をする。相変わらず、林檎のように赤い顔をして。そう、僕はまた「メアリー」の…。一人の女性と、言い換えようかな。女性の姿をして、ここにやって来たんだ。
「踊って下さいますわね?」
「お・おおお、おれ…(ダンスなんざァ、踊れませんよ)」
「僕もだよ。だけど、いいじゃないか。音楽に合わせて、適当に動いてりゃ形になるから」
人生なんてのも、そんなもんだと僕は思う。そうして二人、見つめ合って手を取って…。屋敷から流れる音楽に合わせ、飽きる事なく踊っていた。本当に、本当に楽しい時間だった…。
足を止めて、昼間のような月明かりの下でキスをした。
「…学校に、行ってみようと思ったんだ。あれだけ、嫌がってはいたけど。ロンドンに下宿を借りて、そこから通おうと思っている…」
「そ・そ、そうですか。寂しくなりまさァ…」
「君も、来てくれはしないかい…?僕一人では、生活が成り立たないから。そして…君自身も、学校に行ってもらおうと思うんだ。同じくロンドンにある、執事養成学校だよ。ゆくゆくは屋敷に戻った際、君には片腕として働いてもらおうと思う」
「???そ、そんな。おれなんかっ…」
「嫌かい?だけれど、前にも言ったっけ。僕は、君の能力を高く買っているよ。軽く教えたら、読み書きもあっと言う間に理解してしまったし…。ここは、君の才能を発揮するに相応しい場所ではない」
「…」
「冷えてきたね。そろそろ、家の中に入ろうか。その…今日は、君の小屋で泊まってもいいかなぁ?」
そうして二人、もう一度唇を重ね合った。その夜は、お楽しみだったかって?さてねぇ。読者のみなさんの、ご想像にお任せするよ。
さて、それから数日が経った。僕たちがロンドンへ経つのに、もう幾日も残ってはいない。身の回りの整理をすっかり済ませてしまって、なぜだか足は例の庭へと向かっていた。何となく、ここにも別れを告げなければと思ったのだね。
庭園の机の上に、一通の手紙が置かれていた。母からの手紙を思い出して、何となく不吉な気持ちになる。手紙の差出人は、他ならぬディコンからであった。
「親愛なるコリン坊っちゃま
おれなんかのために、お気遣いを頂いてありがとうございます。
学校へ行くと言う話、本当に心が躍りました。
だけれど申し訳ない事に、謹んでご辞退を差し上げたいと思います。
勉強が嫌だとか慣れない都会が不安だとか、そう言う事ではないです。
坊っちゃまは、初めてお会いした時から本当にお優しくして下さいました。
おれは、本当に嬉しかった。この世に生を受けて、初めて幸せを実感しました。だけれど、このまま坊っちゃまの優しさにただ甘えている訳には行かぬと思うのです。
人間の幸せには、定量と言うものがございます。おれは、その定量を遥かに超える幸せをあなたから頂きました。
どうか坊っちゃまは、その優しさをおれ以外の人たちに与えて下さい。そして何より、自分自身のためにも優しさを向けて下さい。
屋敷には、おいとまを頂きました。無理を言って、旦那さまには他の就職先を紹介して頂きました。
今日の馬車で、おれは旅立ちます。坊っちゃまも、慣れない土地でお身体を崩さないようご自愛下さいませ。学校での新生活、陰ながら応援しております
心からの愛を込めて
ディコン・ウェブスター」
涙が流れ続けて、とどまる事はなかった。
そうかそうか。人生とは、つまりこんなものなんだな。コリン・クレイヴンは、最愛のディコンとここでお別れ。両者は、二度と相まみえる事はありませでした。めでたしめでたし…。
そんなので、納得出来るか!言い忘れていたが、僕には気に入らない結末を一つ変えられる権限があるのだよ。
「うっ、うぅぅぅぅ…。馬を、出せぇぇぇぇ!」
これまた、紳士としては些か恥ずべき大声で言い放った。庭園の外にいる使用人の一人か二人に、届いていたなら幸いだ。
月が明るく、まるで昼のよう
輪回しをしよう 大声を出そう
楽しみたい人、こっちだよう
嫌な人は置いてくよう
夕食なんか忘れよう
眠りなんか忘れよう
通りで君の友達が待ってるよう
みなさんこんばんは。コリン・クレイヴンです。正式に、父アーチボルトの嫡子と認定されました。そして、今晩は次期頭首である僕のお披露目を兼ねた舞踏会です…。
よくもまぁ、こんなド田舎に人を集めたものだね。これもまぁ、父の権力と財力の賜物であろうが。出会う人出会う人が、微笑んで僕に挨拶をして来る。僕も笑みを返し続けたが、そろそろ表情筋の限界だよ。
何人ものご令嬢から、ダンスの誘いを受けたが…。どれも、丁重にお断り申し上げた。ダンスは、苦手だと言って。いや、これはマジで申し上げておりますよ。
ふと屋敷の窓から、庭園の方を見渡していたら…。何だかもういいやって気になって、バックレちゃった。みなさんへのご挨拶は、お父様に任せておこう。さんざん放置されたんだから、このくらいの意趣返しはいいよね。
庭園の東屋の方に、ディコンがいた。一人寂しく笛を吹いていたが、僕に気づいて会釈をする。相変わらず、林檎のように赤い顔をして。そう、僕はまた「メアリー」の…。一人の女性と、言い換えようかな。女性の姿をして、ここにやって来たんだ。
「踊って下さいますわね?」
「お・おおお、おれ…(ダンスなんざァ、踊れませんよ)」
「僕もだよ。だけど、いいじゃないか。音楽に合わせて、適当に動いてりゃ形になるから」
人生なんてのも、そんなもんだと僕は思う。そうして二人、見つめ合って手を取って…。屋敷から流れる音楽に合わせ、飽きる事なく踊っていた。本当に、本当に楽しい時間だった…。
足を止めて、昼間のような月明かりの下でキスをした。
「…学校に、行ってみようと思ったんだ。あれだけ、嫌がってはいたけど。ロンドンに下宿を借りて、そこから通おうと思っている…」
「そ・そ、そうですか。寂しくなりまさァ…」
「君も、来てくれはしないかい…?僕一人では、生活が成り立たないから。そして…君自身も、学校に行ってもらおうと思うんだ。同じくロンドンにある、執事養成学校だよ。ゆくゆくは屋敷に戻った際、君には片腕として働いてもらおうと思う」
「???そ、そんな。おれなんかっ…」
「嫌かい?だけれど、前にも言ったっけ。僕は、君の能力を高く買っているよ。軽く教えたら、読み書きもあっと言う間に理解してしまったし…。ここは、君の才能を発揮するに相応しい場所ではない」
「…」
「冷えてきたね。そろそろ、家の中に入ろうか。その…今日は、君の小屋で泊まってもいいかなぁ?」
そうして二人、もう一度唇を重ね合った。その夜は、お楽しみだったかって?さてねぇ。読者のみなさんの、ご想像にお任せするよ。
さて、それから数日が経った。僕たちがロンドンへ経つのに、もう幾日も残ってはいない。身の回りの整理をすっかり済ませてしまって、なぜだか足は例の庭へと向かっていた。何となく、ここにも別れを告げなければと思ったのだね。
庭園の机の上に、一通の手紙が置かれていた。母からの手紙を思い出して、何となく不吉な気持ちになる。手紙の差出人は、他ならぬディコンからであった。
「親愛なるコリン坊っちゃま
おれなんかのために、お気遣いを頂いてありがとうございます。
学校へ行くと言う話、本当に心が躍りました。
だけれど申し訳ない事に、謹んでご辞退を差し上げたいと思います。
勉強が嫌だとか慣れない都会が不安だとか、そう言う事ではないです。
坊っちゃまは、初めてお会いした時から本当にお優しくして下さいました。
おれは、本当に嬉しかった。この世に生を受けて、初めて幸せを実感しました。だけれど、このまま坊っちゃまの優しさにただ甘えている訳には行かぬと思うのです。
人間の幸せには、定量と言うものがございます。おれは、その定量を遥かに超える幸せをあなたから頂きました。
どうか坊っちゃまは、その優しさをおれ以外の人たちに与えて下さい。そして何より、自分自身のためにも優しさを向けて下さい。
屋敷には、おいとまを頂きました。無理を言って、旦那さまには他の就職先を紹介して頂きました。
今日の馬車で、おれは旅立ちます。坊っちゃまも、慣れない土地でお身体を崩さないようご自愛下さいませ。学校での新生活、陰ながら応援しております
心からの愛を込めて
ディコン・ウェブスター」
涙が流れ続けて、とどまる事はなかった。
そうかそうか。人生とは、つまりこんなものなんだな。コリン・クレイヴンは、最愛のディコンとここでお別れ。両者は、二度と相まみえる事はありませでした。めでたしめでたし…。
そんなので、納得出来るか!言い忘れていたが、僕には気に入らない結末を一つ変えられる権限があるのだよ。
「うっ、うぅぅぅぅ…。馬を、出せぇぇぇぇ!」
これまた、紳士としては些か恥ずべき大声で言い放った。庭園の外にいる使用人の一人か二人に、届いていたなら幸いだ。
0
あなたにおすすめの小説
嫁がされたと思ったら放置されたので、好きに暮らします。だから今さら構わないでください、辺境伯さま
中洲める
BL
錬金術をこよなく愛する転生者アッシュ・クロイツ。
両親の死をきっかけにクロイツ男爵領を乗っ取った叔父は、正統な後継者の僕を邪魔に思い取引相手の辺境伯へ婚約者として押し付けた。
故郷を追い出された僕が向かった先辺境グラフィカ領は、なんと薬草の楽園!!!
様々な種類の薬草が植えられた広い畑に、たくさんの未知の素材!
僕の錬金術師スイッチが入りテンションMAX!
ワクワクした気持ちで屋敷に向かうと初対面を果たした辺境伯婚約者オリバーは、「忙しいから君に構ってる暇はない。好きにしろ」と、顔も上げずに冷たく言い放つ。
うむ、好きにしていいなら好きにさせて貰おうじゃないか!
僕は屋敷を飛び出し、素材豊富なこの土地で大好きな錬金術の腕を思い切り奮う。
そうしてニ年後。
領地でいい薬を作ると評判の錬金術師となった僕と辺境伯オリバーは再び対面する。
え? 辺境伯様、僕に惚れたの? 今更でしょ。
関係ここからやり直し?できる?
Rには*ついてます。
後半に色々あるので注意事項がある時は前書きに入れておきます。
ムーンライトにも同時投稿中
ジャスミン茶は、君のかおり
霧瀬 渓
BL
アルファとオメガにランクのあるオメガバース世界。
大学2年の高位アルファ高遠裕二は、新入生の三ツ橋鷹也を助けた。
裕二の部活後輩となった鷹也は、新歓の数日後、放火でアパートを焼け出されてしまう。
困った鷹也に、裕二が条件付きで同居を申し出てくれた。
その条件は、恋人のフリをして虫除けになることだった。
僕の恋人は、超イケメン!!
刃
BL
僕は、普通の高校2年生。そんな僕にある日恋人ができた!それは超イケメンのモテモテ男子、あまりにもモテるため女の子に嫌気をさして、偽者の恋人同士になってほしいとお願いされる。最初は、嘘から始まった恋人ごっこがだんだん本気になっていく。お互いに本気になっていくが・・・二人とも、どうすれば良いのかわからない。この後、僕たちはどうなって行くのかな?
6回殺された第二王子がさらにループして報われるための話
さんかく
BL
何度も殺されては人生のやり直しをする第二王子がボロボロの状態で今までと大きく変わった7回目の人生を過ごす話
基本シリアス多めで第二王子(受け)が可哀想
からの周りに愛されまくってのハッピーエンド予定
(pixivにて同じ設定のちょっと違う話を公開中です「不憫受けがとことん愛される話」)
借金のカタで二十歳上の実業家に嫁いだΩ。鳥かごで一年過ごすだけの契約だったのに、氷の帝王と呼ばれた彼に激しく愛され、唯一無二の番になる
水凪しおん
BL
名家の次男として生まれたΩ(オメガ)の青年、藍沢伊織。彼はある日突然、家の負債の肩代わりとして、二十歳も年上のα(アルファ)である実業家、久遠征四郎の屋敷へと送られる。事実上の政略結婚。しかし伊織を待ち受けていたのは、愛のない契約だった。
「一年間、俺の『鳥』としてこの屋敷で静かに暮らせ。そうすれば君の家族は救おう」
過去に愛する番を亡くし心を凍てつかせた「氷の帝王」こと征四郎。伊織はただ美しい置物として鳥かごの中で生きることを強いられる。しかしその瞳の奥に宿る深い孤独に触れるうち、伊織の心には反発とは違う感情が芽生え始める。
ひたむきな優しさは、氷の心を溶かす陽だまりとなるか。
孤独なαと健気なΩが、偽りの契約から真実の愛を見出すまでの、切なくも美しいシンデレラストーリー。
【完結】社畜の俺が一途な犬系イケメン大学生に告白された話
日向汐
BL
「好きです」
「…手離せよ」
「いやだ、」
じっと見つめてくる眼力に気圧される。
ただでさえ16時間勤務の後なんだ。勘弁してくれ──。
・:* ✧.---------・:* ✧.---------˚✧₊.:・:
純真天然イケメン大学生(21)× 気怠げ社畜お兄さん(26)
閉店間際のスーパーでの出会いから始まる、
一途でほんわか甘いラブストーリー🥐☕️💕
・:* ✧.---------・:* ✧.---------˚✧₊.:・:
📚 **全5話/9月20日(土)完結!** ✨
短期でサクッと読める完結作です♡
ぜひぜひ
ゆるりとお楽しみください☻*
・───────────・
🧸更新のお知らせや、2人の“舞台裏”の小話🫧
❥❥❥ https://x.com/ushio_hinata_2?s=21
・───────────・
応援していただけると励みになります💪( ¨̮ 💪)
なにとぞ、よしなに♡
・───────────・
異世界にやってきたら氷の宰相様が毎日お手製の弁当を持たせてくれる
七瀬京
BL
異世界に召喚された大学生ルイは、この世界を救う「巫覡」として、力を失った宝珠を癒やす役目を与えられる。
だが、異界の食べ物を受けつけない身体に苦しみ、倒れてしまう。
そんな彼を救ったのは、“氷の宰相”と呼ばれる美貌の男・ルースア。
唯一ルイが食べられるのは、彼の手で作られた料理だけ――。
優しさに触れるたび、ルイの胸に芽生える感情は“感謝”か、それとも“恋”か。
穏やかな日々の中で、ふたりの距離は静かに溶け合っていく。
――心と身体を癒やす、年の差主従ファンタジーBL。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる