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15. 終章・光の庭 ①
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彼は約束の時間ぴったりに来た。背広を着ている。仕事をしていたのかもしれない。
そんな、この際どうでもいいことが頭の中を走っていく。ああ、一体何をどうやって話せばいいのだろう。
私、なんで呼び出しちゃったのだろう。鬼塚さんの言葉に当てられたのかなあ。
でも、今更引き返せない。私は彼を見据えると言った。
「わざわざ休みの日に来てもらって悪かったわ。お父様に言われた件をそろそろはっきりさせておこうと思って」
榛瑠は何も言わない。
「あなたとの婚約の件だけど、受けることにする」
胸が破裂しそうにドキドキする。榛瑠は相変わらず無言だ。
「いろいろ思うところもあるでしょうけど、婚約する以上は誠意を示してもらうわ。醜聞とか困るし。もちろん私も気をつけます。それに、お父様ともお話しされているとは思うのだけれど、私の夫になるということで将来会社を継ぐ可能性が大きくなると思う。というか、そうなるでしょう。その辺でいろいろ言いたいことは収めてもらえればと思う。悪くない条件のはずなんだけど?」
榛瑠は黙ってこっちを見ていた。何よ、なんか言いなさいよ。
わかってるわよ、格好つけて言ってはみたけど、会社あげるから他の女と手を切って私と結婚しなさいってことよ。……だって、しょうがないじゃない。結局ここ以外落とし所なんてないんだもの。
涙出てくる。なんて格好悪いのだろう。でも、いい。それでも、いい。それでも、失くすのは、もう嫌。
榛瑠がゆっくり口を開くのがスローモーションのように見えた。思わず目を瞑る。
「一花、綺麗だね」
はい?
目を開け彼を見る。榛瑠はニコニコして立っていた。
何を言っているのこの人?からかってるの?……人の一大決心をなんだと!
私が文句を言おうと口を開きかけた時、彼は私に近づいて腰に両腕を回して持ち上げた。
何!?
私は抱え上げられながら混乱して榛瑠の顔を見下ろす。
榛瑠は相変わらず美しく微笑んで言った。
「綺麗だけどね、お嬢様、愛の告白はもうちょっと可愛い方が私の好みだな」
「……告白なんてしてないもん」
「今の、プロポーズじゃないの?」
「そうだけど……」顔から火が出そう。「だって、お父様が三カ月っていうし、とりあえず……」
ああ、私のバカ!この後に及んで何を。榛瑠の肩に置いた手に思わず力が入る。
「ああ、あれ、嘘ですよ」
「え?うそ⁉︎」
「そう、彼が勝手に提案しただけ。私はその場で断ってある」
「じゃあ、なんでわざわざ私に……」
私にそんな事を?
「あなたに少し行動させようとしたんでしょう。結構、短気な人だしね」
お父様のバカ!本気で焦ったのに!
「で、どうする?」
「何がっ」
つい、言葉が強くなる。
「さっきの一花の提案だよ。保留にするの?」
「え……」
私は榛瑠を見る。彼も私を見る。
私は榛瑠の首に両腕回して顔を埋めた。
「保留にしない」
声は小さかった。ちゃんと聞こえたかわからない。
榛瑠はぎゅっと私を抱きしめた。
「一花」
そう、甘い声で私の名をため息のように呼ぶと、私を下におろした。
恥ずかしくて顔をみられない。榛瑠はそんな私の顔を両手で包んで上を向かせる。
キスされる。優しくて、でも逃れられない。
「待って」私はなんとかキスの合間に言う。「まだ返事をもらってないわ」
「あなたの望むように、お嬢様」
そう言ってまた抱きしめられてキスされる。
甘くて、崩れ堕ちそうだった。でも、そんな言葉を聞きたいんじゃない。
聞きたい言葉は違う。涙目が滲む。
「一花、答え合わせをしよう」
榛瑠が私を抱きしめながら囁く。
「なんのこと?」
「いつか言った問題の答え。当てたら教えてあげるよ」
いつかの答え?榛瑠が私を好きかどうか?
そんなのわかんない。当てる前に教えてよ。そういう間にもまたキスされる。
どんどん深く甘くなっていく。
容赦なく、私を夢中にさせる。
もう、耐えられない!私は吐き出すように言った。
「きっと私のこと好きだと思うわ」だって、だって。「榛瑠の大事なお嬢様だもの!」
「正解」
優しく榛瑠は微笑むと、泣きそうになっている私の目元にそっとキスしてぎゅっと抱きしめた。
「愛してるよ、一花」
私も榛瑠をふるえる手で、でも力を込めて抱きしめる。
ああ、帰ってきた。ふいにそう思った。
私のもとに私の悪魔みたいな天使が、帰ってきたの。
そんな、この際どうでもいいことが頭の中を走っていく。ああ、一体何をどうやって話せばいいのだろう。
私、なんで呼び出しちゃったのだろう。鬼塚さんの言葉に当てられたのかなあ。
でも、今更引き返せない。私は彼を見据えると言った。
「わざわざ休みの日に来てもらって悪かったわ。お父様に言われた件をそろそろはっきりさせておこうと思って」
榛瑠は何も言わない。
「あなたとの婚約の件だけど、受けることにする」
胸が破裂しそうにドキドキする。榛瑠は相変わらず無言だ。
「いろいろ思うところもあるでしょうけど、婚約する以上は誠意を示してもらうわ。醜聞とか困るし。もちろん私も気をつけます。それに、お父様ともお話しされているとは思うのだけれど、私の夫になるということで将来会社を継ぐ可能性が大きくなると思う。というか、そうなるでしょう。その辺でいろいろ言いたいことは収めてもらえればと思う。悪くない条件のはずなんだけど?」
榛瑠は黙ってこっちを見ていた。何よ、なんか言いなさいよ。
わかってるわよ、格好つけて言ってはみたけど、会社あげるから他の女と手を切って私と結婚しなさいってことよ。……だって、しょうがないじゃない。結局ここ以外落とし所なんてないんだもの。
涙出てくる。なんて格好悪いのだろう。でも、いい。それでも、いい。それでも、失くすのは、もう嫌。
榛瑠がゆっくり口を開くのがスローモーションのように見えた。思わず目を瞑る。
「一花、綺麗だね」
はい?
目を開け彼を見る。榛瑠はニコニコして立っていた。
何を言っているのこの人?からかってるの?……人の一大決心をなんだと!
私が文句を言おうと口を開きかけた時、彼は私に近づいて腰に両腕を回して持ち上げた。
何!?
私は抱え上げられながら混乱して榛瑠の顔を見下ろす。
榛瑠は相変わらず美しく微笑んで言った。
「綺麗だけどね、お嬢様、愛の告白はもうちょっと可愛い方が私の好みだな」
「……告白なんてしてないもん」
「今の、プロポーズじゃないの?」
「そうだけど……」顔から火が出そう。「だって、お父様が三カ月っていうし、とりあえず……」
ああ、私のバカ!この後に及んで何を。榛瑠の肩に置いた手に思わず力が入る。
「ああ、あれ、嘘ですよ」
「え?うそ⁉︎」
「そう、彼が勝手に提案しただけ。私はその場で断ってある」
「じゃあ、なんでわざわざ私に……」
私にそんな事を?
「あなたに少し行動させようとしたんでしょう。結構、短気な人だしね」
お父様のバカ!本気で焦ったのに!
「で、どうする?」
「何がっ」
つい、言葉が強くなる。
「さっきの一花の提案だよ。保留にするの?」
「え……」
私は榛瑠を見る。彼も私を見る。
私は榛瑠の首に両腕回して顔を埋めた。
「保留にしない」
声は小さかった。ちゃんと聞こえたかわからない。
榛瑠はぎゅっと私を抱きしめた。
「一花」
そう、甘い声で私の名をため息のように呼ぶと、私を下におろした。
恥ずかしくて顔をみられない。榛瑠はそんな私の顔を両手で包んで上を向かせる。
キスされる。優しくて、でも逃れられない。
「待って」私はなんとかキスの合間に言う。「まだ返事をもらってないわ」
「あなたの望むように、お嬢様」
そう言ってまた抱きしめられてキスされる。
甘くて、崩れ堕ちそうだった。でも、そんな言葉を聞きたいんじゃない。
聞きたい言葉は違う。涙目が滲む。
「一花、答え合わせをしよう」
榛瑠が私を抱きしめながら囁く。
「なんのこと?」
「いつか言った問題の答え。当てたら教えてあげるよ」
いつかの答え?榛瑠が私を好きかどうか?
そんなのわかんない。当てる前に教えてよ。そういう間にもまたキスされる。
どんどん深く甘くなっていく。
容赦なく、私を夢中にさせる。
もう、耐えられない!私は吐き出すように言った。
「きっと私のこと好きだと思うわ」だって、だって。「榛瑠の大事なお嬢様だもの!」
「正解」
優しく榛瑠は微笑むと、泣きそうになっている私の目元にそっとキスしてぎゅっと抱きしめた。
「愛してるよ、一花」
私も榛瑠をふるえる手で、でも力を込めて抱きしめる。
ああ、帰ってきた。ふいにそう思った。
私のもとに私の悪魔みたいな天使が、帰ってきたの。
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