ハズレスキルで世界革命

鈴磁星 龍襲

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#6 レオリの作戦

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 まず、俺がやるべきこと。
 それは、子どもたちにルールを作り、そして色んなことを教えてやることだ。

 そうだな……第一のルールは……どうするか。

 逃げないことか?

 ここの子どもたちは、酷い扱いを受けてきた。
 ろくな教育も受けられない。聞かされる言葉は中身のない、ゾッとするような罵詈雑言。
 食事だってまともじゃないし、ちゃんと太陽の光を浴びたのは、あの時計台以来。

 ……足が曲がってしまっている子どもがいるんだ。きっとクル病、あるいはそれに近い、太陽光の欠乏に起因する病に冒されている。

 なのに、こんな酷い世界で、皆いつかは自分の両親が迎えに来てくれる、受け入れてくれていると信じている。

 ……きっと信じられるものを、他に知らないから。

 この状態で、地獄の世界の檻が簡単に開けられると知られてしまったら?

 答えは明確。
 皆、自分勝手に逃げ出してしまうだろう。自分の家へ帰ろうと。

 それでは駄目だ。

 誰もこの不当な虐待に異議を唱えていない。
 つまりは地上の人間は全て敵だ。
 きっと、血の繋がった両親さえも。

 非力な子どもを殺すのに、誰が手間取るか?

 運良く陽の下に出られても、あっという間に人生おしまいだ。
 偉人様が何人この施設に籠もっているのかもわからない、日の目を見る前に、死んでしまうかも。

 それに、外に出られることを周知したとして、俺もリマも殺される。

 もしかしたら、ここに残る皆も連帯責任として殺されてしまうかもしれない。
 そして檻はもっと強固な物に変えられて、これからは本当に逃げ出せないまま永久に武器生成スキルが捕らわれ続けて、未来が無くなる。

 自分が助かるには、皆で協調しなければならない。だから、彼らが自分の意思で逃げないように縛る必要があった。


 だけど、俺一人じゃ時間がかかる。外に出て、ひとりひとりに説きには行けない。それを見た誰かが咄嗟に出て、連鎖するだけ。
 それに、今言っても全員が守ってくれるか怪しいし。

 …………もう少し、信用を得てから話したほうがいいかな。

 そうだな。

 皆の信用を得るには……。

 先導の力を示し、頼られる人間になるしかない。

 かつて彼らが両親に与えられた愛と同等の、いいや、もっと、深い愛を俺が与える。

 生まれつきの能力で差別せず、人として接してやる。
 飢えているものを、与えられるべきものを、俺があげるんだ。

 子どもたちに、普通の権利を。

 さすれば、彼らは俺を信じてくれる。

 彼らを信じ、彼らを想うのを示し続けていれば、必ず……。




 変わり映えのない夕食。
 今日もリードとリーフィスに挟まれて、残飯を貪る。

 すごく悲しいことなんだけど、ずっと食べてると慣れるもんなんだよな。今じゃ机も舐められる。誰が舐めたかもわからんのに。


 しばらく過ごしてわかったことなのだが、リーフィスは、数字が理解できるようであった。しかも、十五辺りまでは数えられる。
 それどころか、指折りを活用し、五を五個まで貯められる。自分で進数を発見したみたいだ。
 十七を表すときには、五が三個と、二個と彼は言う。
 つまり指を使えば、実質二十五個まで数えることができる秀才だった。

 この年は、まだ十でいっぱいいっぱいなんじゃないのか?
 彼が地球に生まれたのならば、彼は天才と呼ばれていただろう。


 俺は自分の残飯をこっそりポケットに詰める。

 リーフィスもリードも、腹を満たすのに夢中で俺の不審な挙動には気が付いていない。

 ……これぐらいで、いいか。

 掬った残飯を運ぶ先を、ポケットから口に戻して、隣を見る。やっぱり、バレてはいないようだ。バレたところで、何もないんだが。

「なあ、リーフィス」

「なあに?」

「算数を教えてほしい……って頼んだら、やってくれるか?」

「いいけど……レオリは、ぼくよりも頭いいでしょ? さんすう、もうわかるんじゃないの……?」

「俺にじゃなくて、皆に教えてほしいんだ」

「あ! リードも教えてほしい!」

 横で貪るのに必死だと思っていたが、しっかり聞き耳立ててたか。
 リードが振り向く。
 その目はキラキラと輝いていて、この残酷な暮らしぶりを思わせぬほど純粋で美しい。

 残飯を握りしめた両手を口につっこみ、両頬をパンパンにし、ごくんと大きな嚥下の音を響かせる。その後リーフィスと俺を慕うように、じぃっと黙って見つめる。
 ……リードだけじゃない。俺たち二人の会話を聞いていた周りの子も、目を輝かせてこちらを見ている。

 凄く注目されている。俺は人の目が沢山向けられることにはもう慣れてるけど、リーフィスはそうじゃない。
 もじもじと恥ずかしがって、手を組み、俯いてしまう。

 しかし、子どもたちがこれほどまでに算数に興味を示すとは……。

 もしかして……。

「もし俺が、文字を教える先生になるっていったら、皆聞いてくれるか?」

 こちらを見つめる子どもたちに問う。

 リーフィスとの会話を聞いていた周囲が静まり返っていたぶん、より遠くまで声が届いたようで、背中を向けていた子どもたちが一斉に振り返った。

 声を聞いていなかった子どもにも、他の子が教えてやって、周りの注目が更に強まり続けて……なんと全員が、俺に視線を向ける。

「聞きたい……」
「教えてほしい!」

 一人、声をあげた。
 するとたちまち他の子どもたちも、手を挙げ、懇願する。
 これほどまでに好奇心旺盛とは……。

 そっか……。
 何も教えてもらえない、辛いことの繰り返しの今。
 勉強に飢えているんだ。
 本当なら、彼らはこれから色々なことを学ぶ歳。
 なのにその権利すら奪われて、ここにいる。
 知りたいと願うのも、当然か。

 それに、閉じ込められ、直接遊べる時間も今の飯の時間しかないという少なさ。
 外部から新しく情報が追加されることもない。
 会話は日々摩耗するように減っているのを思い出した。
 腹だけでなく、慰み物にも飢えている。
 数字を知れば、文字を知れば、一人でも皆とでも、遊びの範囲が広がる。

 勉強って、そもそも嗜好品だしな。

 食堂がざわざわどよめく。

 関心は嬉しいが、偉人様に知られては面倒なことになりそうだ。

「みんな、静かに! 聞いてくれ、勉強をすること、偉人様には秘密だぞ!」

「まもる!」
「取られたくないもん!」

 次々に約束の言葉で答えると、しっかりと口をつぐみ、静かになった。
 静かすぎて、逆に怪しまれそうだが……俺が偉人が怖くて黙るようになったとでも言っとけば、納得するだろうし、奴らも静かな空間のほうが気に入るだろう。

「わかった。これから、毎日、ちょっとずつ教えてあげる。俺……レオリと、リーフィスと、リードで」

「え、リードも?」
「うん」

 リードはぽかんとする。
 戸惑うのも仕方がない。今の彼女は、なんにも知らないから。
 だけど彼女なら、いつもそばにいるから、長い時間教えることが出来る。彼女が一足先に皆よりも賢くなれば、他の子に分け与えるようになれる。だから、彼女も先生として加え入れた。

 リードも的の仲間入り。じわじわと注目されて、次第に恥ずかしくなってきたようでリーフィスと同じように顔が桃色になっていって、ついに下を向いてしまった。

「というわけで、明日から始めようと思うから、楽しみにしていてくれ。今日は、明日のために沢山食って、沢山寝てくれ!」

 子どもたちは、はーい! と元気よく返すと、言われたとおり食事に勤しんだ。

 一方のリーフィスリードは、カチンコチンに固まったまま。

「……ごめんな、巻き込んじゃって。やっぱり、先生はやめるか? 俺一人でやろうか?」

「い、いや! ぼくも先生、やるよ」

「リードも……! みんなに教えたい、それに、レオリからお勉強教えてもらいたい! そしたら、みんなあたまがよくなって、いろんなこと出来るようになってたのしいし……いじんさまも、愛してくれるかも。でしょ、レオリ、リーフィス?」

 リードとリーフィスが互いを見合い、うんうんと頷いた。

 ……悪いけど、一番最後の願いは、叶わないだろうな。だけど、今ここで言うべきでない。俺は罪と知りながら、そうだな、と肯定した。





 夜。子どもの寝る時間。

 閑静で冷たい檻の中、俺はランタンシールドを壁に立て掛け、その明かりでポケットに詰め込んだ残飯をちぎっては丸めて塊にして、床に並べる。

 今日の正面はリーフィス。

 両隣の子は、もう寝ている。きっと起きているのは、俺と、彼だけ。
 彼は、ダンゴの生成作業と、柔らかな薄青の光を放つランタンシールドを不思議そうに眺めている。

「レオリ、それなに?」

「ダンゴだな。明日からの算数の授業に使うのさ」

「じゃあ、その明かりはなあに」

「ランタンシールドだな。扉を急に開けて、相手をびっくりさせる武器」

「ぼくもらんたんしるど、ほしいな……」

「お子さまは夜寝ないと駄目だから、駄目だ。でも灯りがほしいなら、ほら、ちょっとだけ貸そう」

 手を突っ込んで、光をちぎって投げた。
 リーフィスは目を丸くしてそれを受け取り、部屋の端に置いた。

 発現した炎とかそういう現象は、武器という物扱いらしい。
 突然見せて目を眩ませるのが目的のこのシールドの中の光は、明かり以外の何物でもない物体になっている。
 触ってもなんにも起きないし、火種にもならない。ちぎれるのは謎だが。

 多分、ランタンシールドの炎は敵にばら撒き焼き殺すもの、って考えれば……こうは出来なくなるんだろうな。

 リーフィスは、光に照らされ程よい明るさになった天井をぼんやり眺めて、いつの間にか寝てしまった。夜更かししたい訳じゃなくて、ただ暗いのが嫌だっただけか。


 ……いくら心が大人といっても、体がこれでは、あまり夜更かしするのはよくないと直感的だが感じる。

(同年代は魔剤だか何とか言って、カフェイン飲料をドバドバ飲んで夜更かししまくっているらしい。死ぬ前は色んなとこで学生を見かけたが、明らかに眠そうだし疲れてるし、それで眠いと思ってまた魔剤をドバドバ飲んで……って感じだったし。つまり、体の耐久力が、心と同等だったとしても……まだ夜更かしはやめておいたほうがいいということだ。夜更かしが普通と言われても、これだけは流石に遠慮させてもらう)

 いや、どの体であろうが夜更かしは禁物か?

 うーん、まだ文字の表とか、小道具をどう作るかから考えなきゃいけないんだが……。
 いつ誰が死ぬか、いつ誰が病に伏せるかわからない、時間は無いのだが……。

 おっと、あくびが。

 そうだな、俺が倒れたら元も子もないか。俺も寝よ。

 うん、無理のない計画的な行動を心掛けないと。
 教える立場として……。
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