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第28話 困惑する依頼
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「それでクスリの売上が無くなったから、地廻りのヤクザへの上納金が用意出来ないと激怒してるんだよ」
薬物の販売はどこの国の犯罪組織にとって主要な収入源だ。自分の縄張りで商売を許す代わりに、上納金を要求するのは当然であろう。
そして、彼らは上納金の滞納は決して許さないものだ。必ずケジメを要求される。最悪の場合は自分の命だ。
だから、売人は激怒しているのであろう。
「お前さんの彼女なんだろ?」
「ああ、だから何とかしてやりたいんだけど……」
「けど?」
「俺の兄貴が警官やってるんだよ」
「だから、それがどうした?」
「揉め事を起こすと兄貴に迷惑がかかっちまう……」
「お兄ちゃんが好きなんだ?」
「ちょ。 か、か、関係ねぇよ」
大串が顔を真っ赤にしてしどろもどろに成ってしまった。ディミトリはニヤニヤしている。
「お前の子分にやらせれば良いじゃないか?」
「コイツラは顔が知られているから使えない」
大串は彼女を迎えに行く時に、自分では無く子分に行かせたのだそうだ。
その時に、クスリ云々を聞いてきたのだそうだ。
「いや、若森ならこの手の話に慣れているような気がしてな……」
「何で、そう思うのよ…… 俺は品行方正な男子中学生だぜ?」
ディミトリはすっとぼけた事を言い出した。
元々、中身が三十五歳という事も有り、中学生とは話が合わないので関わらないようにしていたのだ。
だから、真面目な中学生のふりをしているのだった。
「お前が家に来たことが有っただろ?」
「ああ」
追跡装置の所在を確かめる為に、大串の家を利用させて貰ったのを思い出していた。
上半身に有るのか、下半身に有るのか分からなかったからだ。
軍に居た頃なら検査機器で直ぐに判明する。だが、今はそうではない。
ディミトリは知恵と工夫で事態を乗り切って来たのだ。
「あの後に警察が家に来て、お前のことを根掘り葉掘り聞いていったぞ?」
「へえ」
「何やったんだよ」
「お前には関係ない。 俺の事には構うなと言ったはずだが?」
「品行方正とやらの中学生を、警察が調べるわけがあるかい」
「……」
大串は屋上のフェンスまで行ってディミトリを手招きした。
ディミトリが大串が示す方向を見ると白い普通車が停まっている。中には二人組の男が座っていた。
ポケットからスマートフォンを取り出し、カメラ機能を使ってズームアップしてみた。
監視対象が学校内に居ることに安心しているのか、呑気にあくびをしているのが見える。だが、二人共初めて見る顔だ。
(違う部署の奴か?)
ディミトリにずっと張り付いている二人組とは違っていたのだ。
「ずっと、アレに見張られていて動きが取れねぇんだよ」
「どこの警察だって言ってた?」
「え?」
「最初に所属・名前・階級を名乗るのは警官の義務なんだよ」
「いや、覚えてねえよ」
「……」
「あれからずっと見張られているし、こっちは迷惑してるんだよ」
「……」
「お詫びの代わりにお願いの一つくらい聞いても良いだろう?」
「ちっ」
確かに警察らしきものに見張られていては何も出来ない。うっかりすると大串も連れて行かれるだろう。
彼が警戒するのも分かるような気がした。
「で、何をすれば良いんだ?」
「金を届けて欲しい……」
「金?」
「ああ、駄目にした薬の売上分の金だ」
普通、薬の売人は商売道具を多く持つことは無い。摘発されるのを警戒してるのもあるし、売人が薬に手を出すのを防止する目的も有った。
だから、売上金の総額自体は大して無いものだ。それでも子供の目線からは大金であろう。
「要するに大串のフリをして、売人に金を渡せって事か?」
「ああ」
「結構な金額になるだろう」
「ああ、金なら用意する……」
「……」
「二百万程度だ。 俺の小遣いでどうにでも出来る」
ディミトリは自分の境遇が馬鹿らしくなって来るのを感じていた。二百万程度と言い切る中学生がいるのに、こちらは小遣いをやりくりしながら凌いでいるのだ。
「タダじゃやらないぞ?」
「十万くらいならお前にやるよ」
ディミトリは目を剥いてしまった。どこの国でも金持ちのボンボンは価値観が違うものだ。
まるで違う世界に生きているようなのだ。
それでも、ディミトリは引き受けるつもりだ。
(そうか…… その売人をどうにかすれば、二百万が手に入るのか……)
ディミトリは密かな企みを思いついていたのだ。
薬には興味無いが、金には大いに関心がある。渡航費用の一部に出来る。
「金の受け渡し場所はどこだ?」
大串は川沿いにある倉庫を言ってきた。使っていた会社が潰れて無人なのだそうだ。
ディミトリはスマートフォンで地図アプリを呼び出して場所の確認をしてみた。周りに人家は無く、中小の工場が多い場所だ。
夜間には無人になっている事だろう。
「それで金の渡しはいつやるんだ?」
「今夜だ」
随分といきなりの予定でディミトリは面食らってしまった。
「それは駄目だ。 俺には用がある」
「え?」
「塾が有るんだからしょうがないだろ」
もちろん嘘だ。ディミトリは受け渡し場所の下見に行くつもりなのだ。
行き当りばったりで実行しても、上手くいかないのは知っているつもりだ。これまでにも散々痛い目に遭っている。
「金額が大きいから引き出しに時間が掛かると言えば良いだろ?」
「ああ、分かった……」
今度は武器も有るし下準備の時間も有る。上手く行きそうだった。
薬物の販売はどこの国の犯罪組織にとって主要な収入源だ。自分の縄張りで商売を許す代わりに、上納金を要求するのは当然であろう。
そして、彼らは上納金の滞納は決して許さないものだ。必ずケジメを要求される。最悪の場合は自分の命だ。
だから、売人は激怒しているのであろう。
「お前さんの彼女なんだろ?」
「ああ、だから何とかしてやりたいんだけど……」
「けど?」
「俺の兄貴が警官やってるんだよ」
「だから、それがどうした?」
「揉め事を起こすと兄貴に迷惑がかかっちまう……」
「お兄ちゃんが好きなんだ?」
「ちょ。 か、か、関係ねぇよ」
大串が顔を真っ赤にしてしどろもどろに成ってしまった。ディミトリはニヤニヤしている。
「お前の子分にやらせれば良いじゃないか?」
「コイツラは顔が知られているから使えない」
大串は彼女を迎えに行く時に、自分では無く子分に行かせたのだそうだ。
その時に、クスリ云々を聞いてきたのだそうだ。
「いや、若森ならこの手の話に慣れているような気がしてな……」
「何で、そう思うのよ…… 俺は品行方正な男子中学生だぜ?」
ディミトリはすっとぼけた事を言い出した。
元々、中身が三十五歳という事も有り、中学生とは話が合わないので関わらないようにしていたのだ。
だから、真面目な中学生のふりをしているのだった。
「お前が家に来たことが有っただろ?」
「ああ」
追跡装置の所在を確かめる為に、大串の家を利用させて貰ったのを思い出していた。
上半身に有るのか、下半身に有るのか分からなかったからだ。
軍に居た頃なら検査機器で直ぐに判明する。だが、今はそうではない。
ディミトリは知恵と工夫で事態を乗り切って来たのだ。
「あの後に警察が家に来て、お前のことを根掘り葉掘り聞いていったぞ?」
「へえ」
「何やったんだよ」
「お前には関係ない。 俺の事には構うなと言ったはずだが?」
「品行方正とやらの中学生を、警察が調べるわけがあるかい」
「……」
大串は屋上のフェンスまで行ってディミトリを手招きした。
ディミトリが大串が示す方向を見ると白い普通車が停まっている。中には二人組の男が座っていた。
ポケットからスマートフォンを取り出し、カメラ機能を使ってズームアップしてみた。
監視対象が学校内に居ることに安心しているのか、呑気にあくびをしているのが見える。だが、二人共初めて見る顔だ。
(違う部署の奴か?)
ディミトリにずっと張り付いている二人組とは違っていたのだ。
「ずっと、アレに見張られていて動きが取れねぇんだよ」
「どこの警察だって言ってた?」
「え?」
「最初に所属・名前・階級を名乗るのは警官の義務なんだよ」
「いや、覚えてねえよ」
「……」
「あれからずっと見張られているし、こっちは迷惑してるんだよ」
「……」
「お詫びの代わりにお願いの一つくらい聞いても良いだろう?」
「ちっ」
確かに警察らしきものに見張られていては何も出来ない。うっかりすると大串も連れて行かれるだろう。
彼が警戒するのも分かるような気がした。
「で、何をすれば良いんだ?」
「金を届けて欲しい……」
「金?」
「ああ、駄目にした薬の売上分の金だ」
普通、薬の売人は商売道具を多く持つことは無い。摘発されるのを警戒してるのもあるし、売人が薬に手を出すのを防止する目的も有った。
だから、売上金の総額自体は大して無いものだ。それでも子供の目線からは大金であろう。
「要するに大串のフリをして、売人に金を渡せって事か?」
「ああ」
「結構な金額になるだろう」
「ああ、金なら用意する……」
「……」
「二百万程度だ。 俺の小遣いでどうにでも出来る」
ディミトリは自分の境遇が馬鹿らしくなって来るのを感じていた。二百万程度と言い切る中学生がいるのに、こちらは小遣いをやりくりしながら凌いでいるのだ。
「タダじゃやらないぞ?」
「十万くらいならお前にやるよ」
ディミトリは目を剥いてしまった。どこの国でも金持ちのボンボンは価値観が違うものだ。
まるで違う世界に生きているようなのだ。
それでも、ディミトリは引き受けるつもりだ。
(そうか…… その売人をどうにかすれば、二百万が手に入るのか……)
ディミトリは密かな企みを思いついていたのだ。
薬には興味無いが、金には大いに関心がある。渡航費用の一部に出来る。
「金の受け渡し場所はどこだ?」
大串は川沿いにある倉庫を言ってきた。使っていた会社が潰れて無人なのだそうだ。
ディミトリはスマートフォンで地図アプリを呼び出して場所の確認をしてみた。周りに人家は無く、中小の工場が多い場所だ。
夜間には無人になっている事だろう。
「それで金の渡しはいつやるんだ?」
「今夜だ」
随分といきなりの予定でディミトリは面食らってしまった。
「それは駄目だ。 俺には用がある」
「え?」
「塾が有るんだからしょうがないだろ」
もちろん嘘だ。ディミトリは受け渡し場所の下見に行くつもりなのだ。
行き当りばったりで実行しても、上手くいかないのは知っているつもりだ。これまでにも散々痛い目に遭っている。
「金額が大きいから引き出しに時間が掛かると言えば良いだろ?」
「ああ、分かった……」
今度は武器も有るし下準備の時間も有る。上手く行きそうだった。
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