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第44話 保健室監視
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アオイのアパート。
ディミトリはアオイの話を聞いていた。ストーカー男の事故を調査しているという男の事を相談されていた。
「背後関係を調べるって…… 何か怪しい所があるの?」
「私の住所と勤務先をどうして知っていたのかを調べて欲しいの」
「妹さんの住所とかは知られているの?」
「ええ、最初は妹の所に行って次に私の所に来たと言っていた……」
「名刺とか貰った?」
「これがそう……」
アオイはディミトリに名刺を一枚見せた。街中の名刺屋で一番安い値段で作ったような奴だ。
そして、書かれている会社の名前は聞いたことも無い物だった。
(うん、怪しい……)
「ネットで検索しても該当する会社は無かったわ」
アオイは自分でも色々と調べてみたが分からなかったそうだ。会社の電話番号に掛けて見ると相手の男に繋がるのは確認していた。
(電話の転送サービスだろうな……)
事務所すら持てない弱小企業が、電話番してもらう為に電話代行サービスを利用する事が多い。
この男もそのサービスを利用しているのだろう。
「ストーカー男の家族が知っていたとかじゃないの?」
「妹のことが有って、私の家族も男の家族も離散してしまったわ」
「じゃあ、住所を辿って来たとか……」
「私の実家は更地になってしまっているし、母以外に私達の状況を知っている人はいないかったはず……」
妹が拉致監禁された上にレイプ被害に会った事でアオイの両親は離婚。アオイの母親は自分の実家に帰ってしまっている。
今では半年に一度くらいしか連絡は取り合わないそうだ。父親の現況は不明。
ストーカー男の実家も同じ様に離散してしまっている。だから、接点はどこにも存在しないはずだ。
だから、ストーカー男が死亡しても気にかける人間はいない事になる。
ところがストーカー男は出所して暫くしてから会いに来たらしい。どうやってアオイ姉妹の居場所を知ったのかは不明だった。
「死んでからも付き纏うなんて……」
アオイは嘆いてしまっていた。
「その調査男は頻繁に接触してくるの?」
「明日、会いたいと言ってきたの……」
「ふむ……」
アオイは次の日の昼間に、問題の調査男とファミレスで待ち合わせをしてるという。
「話すことは無いと言えば良いんじゃない?」
「電話で何度も言ってるけど諦めてくれないのよ……」
「病院の院長とか大人の男の人に説得してもらうとかは駄目かな?」
「そうなると、再び妹の事件の事を話さなければ成らなくなるのよ……」
「うーん、それはアカリちゃんが可愛そうか……」
「ええ……」
「分かった。 相手の素性を調べてから対処する方法を考えようか……」
ディミトリは不承不承に引き受けた。その代わりにディミトリの指示で会うよう言った。
相手は妹の事件の事で、恐喝しようとしているのかも知れないと考えたのだ。それならば『大人の話し合い』が出来る。
だが、今は相手の考えがまるで分からない。
(とりあえずは、相手の事を調べないことには始まらないからな……)
会う時にはディミトリが用意するセカンドバッグを持っていくように伝えた。
セカンドバッグには盗聴器とピンホールカメラを仕込んでおくのだ。それをディミトリに電話で転送してもらう。
これで人相や車のナンバーなどを押さえておこうと思ったのだ。
セカンドバッグの底に穴を開けて、そこから外が見えるようにした。ここにカメラを仕込むのだ。
バッグはメモを取り出すふりをした時に机の上に置けば良い。後は適当に話を繋げれば相手の顔を押さえることが出来る。
それを自宅で用意しておいて、次の日に登校の途中で渡した。
セカンドバッグは祖母のお古を使いまわしだが、古臭いデザインがアオイには不満だったみたいだ。
見た瞬間に『むぅ……』とういう表情を浮かべていたのだ。彼はこの表情の意味を熟知している。
ディミトリにも女の子の気を引きたくてプレゼントした事ぐらいはある。
皆、一様に同じ表情を浮かべた。結果は……聞かないでやって欲しい。
普通の中学生を演じるディミトリは学校でその様子を監視する事にしていた。まさか、学校を休むわけにもいかないのだ。
昼休みの終わり辺りで、頭痛を理由に保健室に入っていった。ベッドで休ませてもらう振りをしながらも、実は布団を被ってスマートフォンで動画を受信していたのだった。
相手の調査男は人当たりの良さそうな男だった。髪も生活な感じで短くしている。今どきの青年風だ。
だが、眼付は駄目だった。ディミトリの言うところの嘘付きの目だ。目が泳いでいるような印象を受ける相手は嘘付きなのだ。
(ふん…… ご同類か……)
送られてくる動画を見ながらディミトリは鼻先で笑ってみせた。
自分に似たような奴を見つけた時の彼の癖だ。
(……アレレ?)
中継された映像を暫く見てから、ディミトリは相手が見知った顔である事に気が付いた。
そして、思わずニッコリとしながら呟いた。
「やあ、久し振りだね…… 水野クン……」
その顔は、かつて若森忠恭の祖母から『自費出版』代金をだまし取った男だった。
ディミトリはアオイの話を聞いていた。ストーカー男の事故を調査しているという男の事を相談されていた。
「背後関係を調べるって…… 何か怪しい所があるの?」
「私の住所と勤務先をどうして知っていたのかを調べて欲しいの」
「妹さんの住所とかは知られているの?」
「ええ、最初は妹の所に行って次に私の所に来たと言っていた……」
「名刺とか貰った?」
「これがそう……」
アオイはディミトリに名刺を一枚見せた。街中の名刺屋で一番安い値段で作ったような奴だ。
そして、書かれている会社の名前は聞いたことも無い物だった。
(うん、怪しい……)
「ネットで検索しても該当する会社は無かったわ」
アオイは自分でも色々と調べてみたが分からなかったそうだ。会社の電話番号に掛けて見ると相手の男に繋がるのは確認していた。
(電話の転送サービスだろうな……)
事務所すら持てない弱小企業が、電話番してもらう為に電話代行サービスを利用する事が多い。
この男もそのサービスを利用しているのだろう。
「ストーカー男の家族が知っていたとかじゃないの?」
「妹のことが有って、私の家族も男の家族も離散してしまったわ」
「じゃあ、住所を辿って来たとか……」
「私の実家は更地になってしまっているし、母以外に私達の状況を知っている人はいないかったはず……」
妹が拉致監禁された上にレイプ被害に会った事でアオイの両親は離婚。アオイの母親は自分の実家に帰ってしまっている。
今では半年に一度くらいしか連絡は取り合わないそうだ。父親の現況は不明。
ストーカー男の実家も同じ様に離散してしまっている。だから、接点はどこにも存在しないはずだ。
だから、ストーカー男が死亡しても気にかける人間はいない事になる。
ところがストーカー男は出所して暫くしてから会いに来たらしい。どうやってアオイ姉妹の居場所を知ったのかは不明だった。
「死んでからも付き纏うなんて……」
アオイは嘆いてしまっていた。
「その調査男は頻繁に接触してくるの?」
「明日、会いたいと言ってきたの……」
「ふむ……」
アオイは次の日の昼間に、問題の調査男とファミレスで待ち合わせをしてるという。
「話すことは無いと言えば良いんじゃない?」
「電話で何度も言ってるけど諦めてくれないのよ……」
「病院の院長とか大人の男の人に説得してもらうとかは駄目かな?」
「そうなると、再び妹の事件の事を話さなければ成らなくなるのよ……」
「うーん、それはアカリちゃんが可愛そうか……」
「ええ……」
「分かった。 相手の素性を調べてから対処する方法を考えようか……」
ディミトリは不承不承に引き受けた。その代わりにディミトリの指示で会うよう言った。
相手は妹の事件の事で、恐喝しようとしているのかも知れないと考えたのだ。それならば『大人の話し合い』が出来る。
だが、今は相手の考えがまるで分からない。
(とりあえずは、相手の事を調べないことには始まらないからな……)
会う時にはディミトリが用意するセカンドバッグを持っていくように伝えた。
セカンドバッグには盗聴器とピンホールカメラを仕込んでおくのだ。それをディミトリに電話で転送してもらう。
これで人相や車のナンバーなどを押さえておこうと思ったのだ。
セカンドバッグの底に穴を開けて、そこから外が見えるようにした。ここにカメラを仕込むのだ。
バッグはメモを取り出すふりをした時に机の上に置けば良い。後は適当に話を繋げれば相手の顔を押さえることが出来る。
それを自宅で用意しておいて、次の日に登校の途中で渡した。
セカンドバッグは祖母のお古を使いまわしだが、古臭いデザインがアオイには不満だったみたいだ。
見た瞬間に『むぅ……』とういう表情を浮かべていたのだ。彼はこの表情の意味を熟知している。
ディミトリにも女の子の気を引きたくてプレゼントした事ぐらいはある。
皆、一様に同じ表情を浮かべた。結果は……聞かないでやって欲しい。
普通の中学生を演じるディミトリは学校でその様子を監視する事にしていた。まさか、学校を休むわけにもいかないのだ。
昼休みの終わり辺りで、頭痛を理由に保健室に入っていった。ベッドで休ませてもらう振りをしながらも、実は布団を被ってスマートフォンで動画を受信していたのだった。
相手の調査男は人当たりの良さそうな男だった。髪も生活な感じで短くしている。今どきの青年風だ。
だが、眼付は駄目だった。ディミトリの言うところの嘘付きの目だ。目が泳いでいるような印象を受ける相手は嘘付きなのだ。
(ふん…… ご同類か……)
送られてくる動画を見ながらディミトリは鼻先で笑ってみせた。
自分に似たような奴を見つけた時の彼の癖だ。
(……アレレ?)
中継された映像を暫く見てから、ディミトリは相手が見知った顔である事に気が付いた。
そして、思わずニッコリとしながら呟いた。
「やあ、久し振りだね…… 水野クン……」
その顔は、かつて若森忠恭の祖母から『自費出版』代金をだまし取った男だった。
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