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第48話 御伽噺を信じる者
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廃工場。
ディミトリとアオイの二人は、目的の金を手に入れたので廃工場に戻ってきた。
水島は椅子に縛られたままグッタリとしていた。
『起きろ!』
ディミトリは水野たちを襲撃した時に被っていたマスクで声を掛けた。声も同じ様に変声アプリで変えている。
アオイは少し離れた壁際で、手を後ろに回して座っていた。一見すると拘束されているように見える。
「!」
目を開けた水野はマスクを被った男に気がつくと驚愕していた。そして、縛られた身体を捻るようにしながら必死に逃げようとしている。しかし、結束バンドで両手両足を椅子に固定されているので自由にならない。
「て、テメエはっ!」
「解けっ!」
「ぶっ殺してやるっ!」
ディミトリは暴れる水野を革バットで殴りつけた。鈍い打撃音が室内に響き渡る。
『金はどこにある?』
「知らねぇって言ってるだろ!」
ディミトリは革バットで水野を殴りつけた。水野の口から歯がこぼれ落ちた。奥歯が折れたのであろう。
『ちゃんと質問に答えろ』
「いえ、知りません……」
ディミトリは革バットで水野を殴りつけた。
『金庫の鍵は持っているのに金庫の場所は知らないっていうのか?』
「え?」
ここで、水野はマスクの男が自分の独り言を知っている訳に気が付いた。目をパチパチしながら視線が泳いでいるのが分かる。
ひどく動揺しているのであろう。
『もういい…… お前が嘘付きだってのは良く分かった』
ディミトリはディバッグの中身を水野に見せた。そこには金の札束が詰まっていた。
「え?」
『台所に有ったよ……』
「知っているのなら……」
水野は俯いている。どうやら万事休すだと思い知ったようだ。だが、肝心の話はこれからだった。
アオイの件を片付けなければならない。金だけだったら身柄を拐う必要が無いからだ。
『で、この女は誰だ?』
「知らねぇよ!」
ディミトリは再び革バットで水野を殴りつけた。ここからが肝心な部分だ。彼の希望を打ち砕く必要がある。
そうしないと本当の事を話さないであろう。
『ちゃんと質問に答えろ』
「知りません」
『そう、それで良い。 だったら、何で一緒に居たんだ?』
「……」
水野は黙り込んだ。どこまで話して良いのかを思案しているのであろう。だが、それもディミトリの計算の内だ。
「その人は妹のストーカー男の事で、私の周りをウロツイて居たんです」
アオイが打ち合わせどおりに言ってきた。
『そのストーカー男の仲間なのか?』
「いいえ……」
『なら俺の質問に答えていない事になる…… 何故、この女と一緒に居たんだ?』
「ストーカー男は死ぬ前に、この女と待ち合わせをしていると言っていた」
『で?』
「きっと、この女が轢き殺したんだ」
『俺は質問に答えろと何度も言っている。 何でこの女と一緒に居たんだ?』
「いや、脅して金づるにしようかと……」
やっと、アオイに付きまとっていた理由を言った。ディミトリが考えた通りの陳腐な理由だった。
実に詰まらない男だと眉をひそめてしまっている。
『この女とストーカ男が待ち合わせしていたと、他に誰が知っている?』
他に知っている者は居るのかと尋ねる。居るのならソイツもついでに始末してやろうと考えていた。
「いや、俺しか知らないと思います……」
『そうか……』
「あの、もう二度と兵部さんに付き纏いしません。 勘弁してください……」
『そうか……』
「はい……」
『まあ、俺にはどうでも良い事だ』
ディミトリは水野の結束バンドをペンチで切ってやった。逃がす為にだ。
『じゃあ、これからは巧く逃げる事だな……』
「え?」
『公園で女と待ち合わせしてから、何日経っていると思ってるんだ?』
「え?」
『どうして金庫に有るはずの金を俺が持っていると思うんだ』
「……」
『大山ならとっくに釈放されたよ』
もちろん嘘だ。だが、気を失っていた水野にはバレないはずだ。
『大山も神津組も、お前が金を横領したと思っている……』
「ちょ!」
『そう、思わせるように工作しておいた』
「なんて事をしてくれたんだ!」
『お前らは悪戯が過ぎたんだよ……』
「金をかっさらったのはお前だろうがっ!」
『知らない男に拉致されて金を奪われました…… そんな眠くなりそうな御伽噺を誰が信じるんだ?』
「大山なら信じてくれるはず……」
『スジモンの拷問がエグい事は知らない訳じゃないだろ』
「……」
『耐えられるのかね?』
「くっ……」
『ふん……』
ディミトリは頭の後ろで、マスクを固定していたバンドを緩めた。
「それに大山って奴なら神津組が連れて行ったぜ?」
被っていたマスクを取りながら言った。
「小僧……」
水野は自分を脅していたのが、童顔の小僧だと知って驚いていた。だが、直ぐに顔を真っ赤にして激怒しはじめた。
しかし、直ぐに怪訝な表情になった。
「あれ? お前って……」
どうやら若森忠恭である事に気が付いたようだ。
それと時を合わせるかのように、後ろに手を組んで座っていたはずのアオイが、手を払いながら立ち上がってきた。
呆けた顔で二人を見比べた水野は、ここに至ってようやく気が付いた。
「お前らはグルだったのか!」
水野はディミトリに掴みかかろうと一歩踏み出した。ディミトリはナイフをチラつかせて見せた。
彼はナイフを見て怯んだ。自分は手ブラの状態だからだ。しかも、これから神津組から逃げる算段をしないといけない。
ディミトリの言う通り金を取られてしまったなど信じてもらえないだろう。喧嘩などしている場合では無いのだ。
「クソっ!」
ディミトリは無言でナイフで追い払う仕草をしてみせた。水野はがっくりと肩を落として出口に向かおうとしていた。
だが、机の上に置かれたナイフが水野の目に止まった。すると、水野の怒りが爆発したようだ。
水野は机の上に有ったナイフを掴んだ。そして、そのままディミトリに向かって突進してきた。
次の瞬間。
ドンッ
背中から銃を取り出したディミトリは躊躇せずに引き金を引いた。水野の胸に穴が開き血が吹き出し始めた。
「え?」
相手が銃を持っているとは思いもしなかった水野は目を見開いている。
向かってきた勢いは、弾丸の衝撃で相殺され、水野は膝から崩れ落ちていった。
手を引くつかせる水野を見下ろしながら、ディミトリはもう一発撃った。今度は頭だ。
頭の中身を床に撒き散らして水野は絶命した。
「ワザとナイフを置いたんでしょ?」
アオイは意地悪く聞いてきた。ここ何日かの付き合いで、彼は丸腰の相手を撃たないと考えていたのだ。
事実そのとおりだ。だから、顔を晒してまで水野がナイフを持つように仕向けたのだ。
きっと、水野は諦めずに再びアオイ姉妹を脅してくるに違いないからだ。ならば、始末してしまうのが手っ取り早い。
ディミトリは人を殺すことに罪悪感は無い。だが、殺人を楽しんでいる訳でも無い。
お互いに闘いの中で死ぬのなら、納得出来るのだと考えている。だから、丸腰の相手に弾丸を放つ事はしない。
そこが、殺人犯と兵士の違いであろうと考えているのだ。
「さあ?」
ディミトリはニヤリとして笑い返した。
ディミトリとアオイの二人は、目的の金を手に入れたので廃工場に戻ってきた。
水島は椅子に縛られたままグッタリとしていた。
『起きろ!』
ディミトリは水野たちを襲撃した時に被っていたマスクで声を掛けた。声も同じ様に変声アプリで変えている。
アオイは少し離れた壁際で、手を後ろに回して座っていた。一見すると拘束されているように見える。
「!」
目を開けた水野はマスクを被った男に気がつくと驚愕していた。そして、縛られた身体を捻るようにしながら必死に逃げようとしている。しかし、結束バンドで両手両足を椅子に固定されているので自由にならない。
「て、テメエはっ!」
「解けっ!」
「ぶっ殺してやるっ!」
ディミトリは暴れる水野を革バットで殴りつけた。鈍い打撃音が室内に響き渡る。
『金はどこにある?』
「知らねぇって言ってるだろ!」
ディミトリは革バットで水野を殴りつけた。水野の口から歯がこぼれ落ちた。奥歯が折れたのであろう。
『ちゃんと質問に答えろ』
「いえ、知りません……」
ディミトリは革バットで水野を殴りつけた。
『金庫の鍵は持っているのに金庫の場所は知らないっていうのか?』
「え?」
ここで、水野はマスクの男が自分の独り言を知っている訳に気が付いた。目をパチパチしながら視線が泳いでいるのが分かる。
ひどく動揺しているのであろう。
『もういい…… お前が嘘付きだってのは良く分かった』
ディミトリはディバッグの中身を水野に見せた。そこには金の札束が詰まっていた。
「え?」
『台所に有ったよ……』
「知っているのなら……」
水野は俯いている。どうやら万事休すだと思い知ったようだ。だが、肝心の話はこれからだった。
アオイの件を片付けなければならない。金だけだったら身柄を拐う必要が無いからだ。
『で、この女は誰だ?』
「知らねぇよ!」
ディミトリは再び革バットで水野を殴りつけた。ここからが肝心な部分だ。彼の希望を打ち砕く必要がある。
そうしないと本当の事を話さないであろう。
『ちゃんと質問に答えろ』
「知りません」
『そう、それで良い。 だったら、何で一緒に居たんだ?』
「……」
水野は黙り込んだ。どこまで話して良いのかを思案しているのであろう。だが、それもディミトリの計算の内だ。
「その人は妹のストーカー男の事で、私の周りをウロツイて居たんです」
アオイが打ち合わせどおりに言ってきた。
『そのストーカー男の仲間なのか?』
「いいえ……」
『なら俺の質問に答えていない事になる…… 何故、この女と一緒に居たんだ?』
「ストーカー男は死ぬ前に、この女と待ち合わせをしていると言っていた」
『で?』
「きっと、この女が轢き殺したんだ」
『俺は質問に答えろと何度も言っている。 何でこの女と一緒に居たんだ?』
「いや、脅して金づるにしようかと……」
やっと、アオイに付きまとっていた理由を言った。ディミトリが考えた通りの陳腐な理由だった。
実に詰まらない男だと眉をひそめてしまっている。
『この女とストーカ男が待ち合わせしていたと、他に誰が知っている?』
他に知っている者は居るのかと尋ねる。居るのならソイツもついでに始末してやろうと考えていた。
「いや、俺しか知らないと思います……」
『そうか……』
「あの、もう二度と兵部さんに付き纏いしません。 勘弁してください……」
『そうか……』
「はい……」
『まあ、俺にはどうでも良い事だ』
ディミトリは水野の結束バンドをペンチで切ってやった。逃がす為にだ。
『じゃあ、これからは巧く逃げる事だな……』
「え?」
『公園で女と待ち合わせしてから、何日経っていると思ってるんだ?』
「え?」
『どうして金庫に有るはずの金を俺が持っていると思うんだ』
「……」
『大山ならとっくに釈放されたよ』
もちろん嘘だ。だが、気を失っていた水野にはバレないはずだ。
『大山も神津組も、お前が金を横領したと思っている……』
「ちょ!」
『そう、思わせるように工作しておいた』
「なんて事をしてくれたんだ!」
『お前らは悪戯が過ぎたんだよ……』
「金をかっさらったのはお前だろうがっ!」
『知らない男に拉致されて金を奪われました…… そんな眠くなりそうな御伽噺を誰が信じるんだ?』
「大山なら信じてくれるはず……」
『スジモンの拷問がエグい事は知らない訳じゃないだろ』
「……」
『耐えられるのかね?』
「くっ……」
『ふん……』
ディミトリは頭の後ろで、マスクを固定していたバンドを緩めた。
「それに大山って奴なら神津組が連れて行ったぜ?」
被っていたマスクを取りながら言った。
「小僧……」
水野は自分を脅していたのが、童顔の小僧だと知って驚いていた。だが、直ぐに顔を真っ赤にして激怒しはじめた。
しかし、直ぐに怪訝な表情になった。
「あれ? お前って……」
どうやら若森忠恭である事に気が付いたようだ。
それと時を合わせるかのように、後ろに手を組んで座っていたはずのアオイが、手を払いながら立ち上がってきた。
呆けた顔で二人を見比べた水野は、ここに至ってようやく気が付いた。
「お前らはグルだったのか!」
水野はディミトリに掴みかかろうと一歩踏み出した。ディミトリはナイフをチラつかせて見せた。
彼はナイフを見て怯んだ。自分は手ブラの状態だからだ。しかも、これから神津組から逃げる算段をしないといけない。
ディミトリの言う通り金を取られてしまったなど信じてもらえないだろう。喧嘩などしている場合では無いのだ。
「クソっ!」
ディミトリは無言でナイフで追い払う仕草をしてみせた。水野はがっくりと肩を落として出口に向かおうとしていた。
だが、机の上に置かれたナイフが水野の目に止まった。すると、水野の怒りが爆発したようだ。
水野は机の上に有ったナイフを掴んだ。そして、そのままディミトリに向かって突進してきた。
次の瞬間。
ドンッ
背中から銃を取り出したディミトリは躊躇せずに引き金を引いた。水野の胸に穴が開き血が吹き出し始めた。
「え?」
相手が銃を持っているとは思いもしなかった水野は目を見開いている。
向かってきた勢いは、弾丸の衝撃で相殺され、水野は膝から崩れ落ちていった。
手を引くつかせる水野を見下ろしながら、ディミトリはもう一発撃った。今度は頭だ。
頭の中身を床に撒き散らして水野は絶命した。
「ワザとナイフを置いたんでしょ?」
アオイは意地悪く聞いてきた。ここ何日かの付き合いで、彼は丸腰の相手を撃たないと考えていたのだ。
事実そのとおりだ。だから、顔を晒してまで水野がナイフを持つように仕向けたのだ。
きっと、水野は諦めずに再びアオイ姉妹を脅してくるに違いないからだ。ならば、始末してしまうのが手っ取り早い。
ディミトリは人を殺すことに罪悪感は無い。だが、殺人を楽しんでいる訳でも無い。
お互いに闘いの中で死ぬのなら、納得出来るのだと考えている。だから、丸腰の相手に弾丸を放つ事はしない。
そこが、殺人犯と兵士の違いであろうと考えているのだ。
「さあ?」
ディミトリはニヤリとして笑い返した。
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