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第68話 疑問の罠

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ディミトリの自宅。

 ディミトリはアカリに車で送ってもらった。荷物が多かったせいだ。
 自室に戻ったディミトリは、荷物の中身を勉強机の上に広げてみた。

 モロモフ号で取得した武器はAK-47と弾薬。AK-47は結構使い込まれているのか全体的にサビが目立っていた。
 手榴弾も一つあったので持ってきたが年代物だ。調べてみるとベトナム戦争時に米軍が使っていたマークⅡという奴みたいだ。

(ちゃんと爆発するのか?)

 自分が生まれる前の年代物を手にした時に出た感想だった。肝心な時に機能しない武器が、一番厄介な事は知っている。
 傭兵時代にもRPGを打ち込んだら、爆発せずに標的の建屋を通り抜けてしまった事があった。もちろん、作戦は失敗で激怒した敵に追い回された経験があったのだ。

(まあ、いいや。 脅しぐらいには使えるだろう)

 手榴弾をバッグの中にしまい直した。
 次はAK-47を分解掃除を始めた。元々、部品数が少なく手入れが容易なのがウリの武器だ。
 装薬の燃えカスやら埃やらを拭い去って、グリースを塗ってやると見違えるように……には成らなかったが前よりはマシな状態にはなった。弾倉のガタツキが無くなったのが有り難いと思った。
 サプレッサーはモデルガン用のを参考にして作成するつもりだ。

(インターネットって便利だな……)

 検索すると3Dモデルが出てきたのはビックリしたものだ。

 アオイから好物の現金を返してもらった。半分近くはアオイ姉妹に上げたが、それでも一千万ちょいは手元に残っている。

(よし、これで渡航費用は賄えるな……)

 これらを何処に隠すかを考える必要がある。また、燃えないゴミの日に出されたら敵わない。
 後は中華の連中をどうにかしないといけない。彼らがクラックコアの施術をしたのは間違いなさそうだからだ。
 元の身体に戻る方法も当然知っているに違いないからだ。

 シンイェンに連れ込まれた場所が分からないかと聞いてみた。彼女は一旦中華系のアジトに連れ込まれて、そこからチャイカたちに捕まっていたのだ。

(具体的な場所は知らないと言っていたな……)

 日本には頻繁に来るらしいが、土地勘などは無いので分からないと言っていたのだ。
 だが、潮の香りがしていたと言う事と、沢山の荷物があって天井が高かったと言っていた。
 おそらくは倉庫であろう。

(子供に期待しすぎてもしょうがないか……)

 潮の香りがすると言うことは、湾岸にある倉庫街になのだろう。だが、数が多すぎるのが問題だった。


 そんな思いを巡らせていると、祖母が部屋にやって来た。
 なので、ディミトリはアオイから電話があったかどうか聞いてみた。

「お婆ちゃん…… 兵部さんって人から電話無かった?」
「ああ、家庭教師の人でしょ?」
「うん」
「引っ越しするから電話頂戴って有ったわねぇ……」
「お、教えてよ……」
「貴方、いつのまにか黙って出掛けてしまうじゃない…… だからメモして机に置いといたのよ?」
「……」

 どうやら祖母はアオイから電話が有った事を、メモはしたがディミトリに伝えてはいなかったようだ。
 振り返って机の上を見ると、何か紙があるのを見つけた。出掛ける時に見落としていたのだ。

「そんな事より昨日泊まった大串さんの家にお礼を言わないと……」
「いや、それは良いから…… 大串の部屋には窓から入ったから家族は知らないはずだよ?」

 ディミトリは結構苦しい言い訳をしはじめた。常識で考えて窓から友人を入れることなど無いはずだからだ。
 それでも、しらを切るしかなかった。何しろ大串はディミトリが外泊した事すら知らないはずなのだ。
 電話掛けられると面倒な事になってしまう。

「そうもいかないでしょ?」

 祖母は相変わらず大串との付き合いを心良く思ってないようだ。
 自分の孫は大串と遊ぶようになってから、出掛けてしまう事が多くなったように感じているのだ。

(拙いな…… 話を合わせるように電話しておかないと……)

 祖母はディミトリが抱えている厄介事を知らない。だから、自分の考えが及ぶ範囲で答えを決めつけてしまうのだ。
 だから、先回りして根回ししておかないと、祖母に要らぬ心配をさせてしまう事になる。それは嫌だったのだ。

(待てよ……)

 だが、ディミトリは或る事に気が付いた。
 バタバタしていて深く考える暇が無かったが、落ち着いてみると彼らの相互関係に見落としがある事に気が付いたのだ。
 突然、黙り込んでしまったディミトリに呆れて祖母は居間の方に行ってしまった。

(シンイェンの話だと、俺が見た死体は中華系の幹部だったな……)

 クラックコアの名前を知っていたのだから、幹部なのは間違いないだろう。
 そして、若森忠恭がディミトリ・ゴヴァノフである事も知っているに違いない。
 これらは、下っ端が知っていても役に立たない情報だからだ。

(中華系の連中は幹部が拐われたのを知っているのか…… だな)

 拐われたのが分からなくとも、幹部との連絡が取れなくなったので慌てているはずだ。
 商売柄、何らかのトラブルに巻き込まれたと考えるものだ。

(だが、チャイカたちに拐われた事までは知らないだろうな……)

 チャイカたちが乗りだしたのを知っている考えたのは、アカリの拉致を阻止しようとした事からも分かる。

 同時に、その幹部がシンイェンの父親と揉めていたのは知っているはずだった。
 何人か動員してシンイェンたちを拐っているからだ。自分の手下とはいえ勝手に組織の者を動員する訳が無い。

(俺ならシンイェンの父親を疑うな……)

 揉めている最中に連絡が取れなくなれば、揉めた相手を疑うのは当然の結果だ。
 つまり、シンイェンの父親が日本で使っている事務所を見張れば、中華系の連中がやって来るはずと考えたのだ。

(うん、アジトの方は何とかなりそうだな……)

 やって来たら後を付けるか追跡装置を仕掛けてアジトを突止めれば良い。
 後は乗り込んで手術の事を聞き出せば良い。元に戻れる方法もあるはずだ。

(よしっ! この作戦で行くか……)

 クラックコアの謎が解ける光が見えた気がしてきた。
 ディミトリはニヤリと笑いながら、AK-47用のサプレッサー作成に取り掛かった。


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