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【第2部】第五章

近づきたいのに痛い (1)

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 タッ、タッ、タッ、タッ――。
 ラナは早足で黒山羊郵便部の部室に向かっていた。
「今からこの金について調べてみるよ。ラナくん。すまないが、手紙の件、よろしくね」
 サイアン先生は、あれからすぐに中庭からいなくなっちゃった。
 先生の気持ちを考えると、できるだけ早く送り主を見つけてあげたいけど……。
 部室へ続く、長い長い階段を上っていると。
「うわあああっ!」
 耳をつんざくような叫び声がした。
 この声は、部長!? なにかあったのかしら?
 残りの階段を上りきり、ラナがガチャッ! と、部室のドアを開けると、部屋の床に作られた魔法陣のなかに、部長の半身がすっぽりと入っていた。
 まるで、深い水たまりのなかで必死にもがいてるようにも見える。
「なんでだよ、ちゃんと五人にしただろ!? オレからなにもかも奪っておいて、そのうえ約束まで破んのかよ、このクソ毛玉!」
「ただ人数を集めればいいということではないんですよ、レオナールくん」
 部長の机の上から様子をながめているのは、今日も黒ネコの姿をしたクロト校長。
 アン・メイ・ユキさんたち牧神三人娘は、特になにも手出しはせず、ふたりのやりとりを冷静に見守っている。
 どういう状況? どうして校長先生がここに?
「あ、あのぅ」
 ラナが牧神三人娘にポソッと声をかけると、
「なんであのアホが床に吸いこまれそうになってるかって? いわゆるコンプライアンス違反ってやつよ」
 アンがあきれたようにつぶやいた。
「コン……?」
 なんだろう?
「カンタンにいうと、ファンアカでの大事な決まりを破ったって感じ? だから、おしおきされてるのね」
 こわ~い、とメイ。
「手紙によるコミュニケーションの楽しさを伝え、生徒たちのさまざまな心の交流を深める手助けをするのが、ここでのあなたの役目だったはず。ひとの心を動かすことに長けているあなたなら、きっとよい働きをしてくれると思っていたのに。大事な生徒をキズつけましたね?」
 クロト校長は、サーチライトのように輝く瞳を部長に向けた。
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