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オルガド一家

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「まずここはオルガド辺境伯領で、ルパージュ王国に属しています。ルパージュ王国はこの南にある三角形の部分ですね。オルカド領は隣と接している三角形の上、右半分のです」
「王国……、三角形」
「そしてその上にある大きめの四角形がプロシャール帝国です」
「帝国……、四角形」
「帝国の左横にくっついている小さめの四角形がオーレル公国になります」
「……あの、大雑把すぎません?」
「そうは言いますが、地図などというものはだいたい何がどこにあるかがわかればいいだけのものですからねぇ。それに今はそうでもないですが、昔は常に領土争いがあり、詳しく記したところで次の日には違うものになるなんてこともありましたから。それで、この離れた場所にある菱形がジケル皇国です。ここまでよろしいでしょうか?」
「……カタカナが多い」
「は?」
「元々人の名前覚えるの苦手なのに、人名すんごい長いし、帝国やら皇国やら言われてもさっぱりだし、辺境伯とか言ってるからどうせ階級もあるんだろうし、その上出てくる名称、全部カタカナとか。無理、もう無理、マジで無理。キャパオーバーです」
 額をゴンとテーブル打ち付けて突っ伏すと、サロメの深いため息が聞こえてきた。
「仕方ありませんね。ではしばし休憩にしましょう」
「休憩……。ってことはまだまだ続くと」
「当たり前です。まぁ、牢屋に入りたいというのであれば私も無理にとは言いませんが」
「牢屋って?」
「見た目はお嬢様であっても、そうでないと判断されれば当然曲者扱いですので、牢に入り尋問拷問されます」
「いやいやいや、そちらのお嬢様が勝手に交換しちゃったんですよ? こっちの了承得てないんですからね。それなのにひどくないですか?」
「しかし、それが現実ですので」
 サロメの目が笑っていない。理不尽極まりないと思うんだ。うん。
「それでは、しばし休憩を。誰も来ないように手配しておりますので、まぁ、ある程度は自由にしてくださって構いませんよ」
「……。ありがとうございます、了解です」
 サロメの笑顔に諦めた僕は項垂れたまま、返事をした。
 サロメが部屋を出ていったのを確認して、僕は置かれている絵姿と地図を見つめる。
 確かに、今教えてもらったのは家族の名前と国の名前だけだよ、でもさ、そんなに地頭が良くないし、カタカナって昔っから苦手だったし。
 名前も家族以外にも覚えなきゃいけない人が居るだろうし、どうせそれらも長い名前で、そこに爵位とか合わさってご覧よ、無理ゲーでしょうが。
 更に国にしたって国の中には領とか街とか、それらにも名前があるわけでしょ?
「やばい……、マジで無理じゃね?」
 勉強嫌いでやってきて、脳のキャパが小さいから、必要最小限に覚えるようにして、ところてん方式の入ってきたら入ってたのが出るで生きてきたのに。気が滅入る。
 誰も来ないと言っていたし、少しぐらい良いだろうと、ベッドに向かってダイブ。
 そのままうつ伏せで大きくため息を吐いた。
 サロメのおかげか、誰も来ることはなく静か。
 だが、突然。
 部屋の隅にある机の引き出しがガタガタと鳴りはじめる。
 顔だけを上げてじっと見てみれば真面目にカタカタ揺れていた。
 元男ではあるが、オカルトのたぐいはまるっきり駄目。そういう話を聞いたり、見たりすると、目を閉じて頭が洗えなくなるタイプ。
 ゆっくりとベッドから滑るように身体を起こしつつ離れ、サロメを呼ぼうとドアの方に歩き始めると、ガタン! とひときわ大きく引き出しが跳ねて、開いた少しの隙間から
「ちょっとぉ! 無視するとかどういうことぉ?」
 と、聞き覚えのある声がして、慌てて引き出しに駆け寄り引き出した。
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