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4章 伝承を紐解く
4_⑦
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双子のやり取りを聞いていて、不意に目が合ったふたりがいた。トラメとユニマだ。同じことを考えていると互いに分かり、小さく頷きあう。
「なあ、今は人数がいるんだ。領主に話を聞きに行くなら、チャンスなんじゃないか?」
このトラメの発言に、オトキヨがにかっと笑う。ますます、キョウネにそっくりだ。
「助かる! 協力を頼もうと思ってたんだ」
思考回路はキョウネより余程のこと柔軟らしく、いつの間にか話の主導権を握っている。ユニマが、ライカが、自分も手伝うと名乗り出ていた。セルもまた、現状を看過できないと堅苦しい理由をつけている。要は、彼も手伝ってくれるらしい。話がとんとん拍子に進む中で、キョウネは慌てた。
「ちょっと待ちなよ。こんな危険なこと、頼めないって」
「いいの!……私達が、自分からやるって言ったんだもん」
ぱっと笑うライカを見て、キョウネと共にトラメの顔が、じわじわ嬉しそうになってきた。少し詰まったが、ライカは今「私達」と言ったのだ。これまでにも出た言葉かもしれないが、一歩でも距離が縮まった感じの言い方だ。それでキョウネは意を決し、改めて皆に深く頭を下げ、協力を願った。領主を訪ねるのは翌日とし、作戦会議が始まった。
話し合った結果、町を式神から守る組と城に潜入する組、二手に分かれることに決めた。城には兵士や罠が待ち構えているはずなので、狭い場所で戦うのを苦手とするユニマは町に残る。式神が出たら魔術で応戦すると意気盛んなのは、昨晩コーメイの起こりについて話を聞いたからだ。ここに独特の術が存在するのは、遠縁にコリトがいるためだそうだ。かなり血は薄くなっているので彼らは人間であり、魔術は使えないが、比較的コリトに対して寛容な土地柄だ。
一緒に町を守るのはオトキヨと、狭い場所では長剣が不利なトラメだ。弓使いのセルは近接戦用のナイフに持ち替え、城に潜入する。ライカと一度も目を合わさず、何か険悪な雰囲気だが、緊張が高まるキョウネの手前、ライカは自然に振舞った。
「ね、セル。この件が何とかなったら、コーメイがラルゴと衝突する事って、ないよね?」
「それは僕が決めることじゃない」
つれない返事に、ついむっとして顔をじっと見てしまう。朝の爽やかな風に髪がなびいて、セルの額が露になる。今まで気付かなかったが、彼の左まぶたから眉上にかけて、古い傷跡があった。ライカは慌てて目をそらした。見てはいけないように思ったのだ。
(隠したい気持ちがあるから、その髪型なんだろうし)
入れ替わりに頬を刺してくる目線は、知らない振りをした。
「……もうすぐ城門だよ」
キョウネの声に合わせて、みんな正面を見上げる。石段を登った先に、重そうな両開きの戸がある。普段は開いている時間に来たのだが、今は閉ざされている。顎を撫でてから、キョウネは手甲をはめた。
「門番に聞いてみるか。何を警戒するように命令されてんのって」
ライカとセルは各々の武器に手をかけて頷く。兵士達が以前キョウネの同僚だったとはいえ、油断はできない。城からは、何か嫌な雰囲気が伝わってきた。石段を登る足音が冷たく耳につく。
「お久しぶり! あたしがいない間に、開門の時間が変わった?」
「キョウネじゃないか。どうした、城に用事でも?」
元同僚の後ろに見慣れぬ者を捉えると、門番の目が細められた。槍を握る手に力が入る。
「森の式神のことで、領主様にお話ししたいんだ。大至急」
これを聞くや否や、門番は槍を構え、突き出してくる。予想していた動きだったので、キョウネは槍を払うと拳で柄を折り、そのまま門番の顔を殴りつけた。ちょうど隙ができたので、セルが後ろに回りこんで腕を捻り上げる。
ぎゃあ、と悲鳴を上げる門番の足元を一匹の鼠が駆けていこうとした。気付いたライカが短剣を突き立てると、破裂して煙になった。小さな式神は普通の攻撃で片付くようだ。
問い詰められ、門番が城の状況を白状するまで、大した時間は掛からなかった。
キョウネが去ってすぐに、町を守らせていた式神が、うまく制御できなくなり、魔物も増えた。城門を閉ざし警戒を強め、兵の半数は森で魔物の掃討を行っている。だが、徐々に戻ってくる兵の数が減ってきた。森で行方不明になっているのだ。森の異変にはキョウネが関わっていると、領主の側近達が噂し始めたら、それが城では事実として広まった。町に噂が広がるのは時間の問題だった。
そういうわけで、城の中は敵だらけ。門をこじ開けて城内に入ると、不気味なほどの静けさが待っていた。兵、あるいは罠が、あちこちで待っているのだろう。
「なんか、こうも床が綺麗だと、土足で入るのは気がひけるね」
ライカが呑気な発言をすると、セルは呆れた。いつもは心の内だけのことだが、今は表情に出てしまっている気がする。彼はどうにも、ライカのことが苦手らしかった。彼女の明るさはときにわざとらしい。
一階を歩く間には、特に何事もなかったのだが、階段の前でキョウネが立ち止まった。ここは駄目だと言って、通り過ぎてしまう。
「あれは半分まで上ると傾きが逆になって、落とし穴に入っちゃうんだよ……仕方ない、隠し通路で行くか」
通常は階段として使うが、今は罠として機能させている。キョウネには見分けがつくので、罠の類は無いも同然だった。本来、城で領主に仕える者だけが知る隠し通路は、便宜上は今のキョウネが通ってはいけない場所だ。しかし、そんなことを言ってはいられない。罠を回避できても、兵士達と争ったら時間も手間も食う。
真面目なことに、この件が済んだら通路のことは忘れるようにライカとセルに念押ししてから、キョウネは一見普通の壁をぱかりと開いた。
「なあ、今は人数がいるんだ。領主に話を聞きに行くなら、チャンスなんじゃないか?」
このトラメの発言に、オトキヨがにかっと笑う。ますます、キョウネにそっくりだ。
「助かる! 協力を頼もうと思ってたんだ」
思考回路はキョウネより余程のこと柔軟らしく、いつの間にか話の主導権を握っている。ユニマが、ライカが、自分も手伝うと名乗り出ていた。セルもまた、現状を看過できないと堅苦しい理由をつけている。要は、彼も手伝ってくれるらしい。話がとんとん拍子に進む中で、キョウネは慌てた。
「ちょっと待ちなよ。こんな危険なこと、頼めないって」
「いいの!……私達が、自分からやるって言ったんだもん」
ぱっと笑うライカを見て、キョウネと共にトラメの顔が、じわじわ嬉しそうになってきた。少し詰まったが、ライカは今「私達」と言ったのだ。これまでにも出た言葉かもしれないが、一歩でも距離が縮まった感じの言い方だ。それでキョウネは意を決し、改めて皆に深く頭を下げ、協力を願った。領主を訪ねるのは翌日とし、作戦会議が始まった。
話し合った結果、町を式神から守る組と城に潜入する組、二手に分かれることに決めた。城には兵士や罠が待ち構えているはずなので、狭い場所で戦うのを苦手とするユニマは町に残る。式神が出たら魔術で応戦すると意気盛んなのは、昨晩コーメイの起こりについて話を聞いたからだ。ここに独特の術が存在するのは、遠縁にコリトがいるためだそうだ。かなり血は薄くなっているので彼らは人間であり、魔術は使えないが、比較的コリトに対して寛容な土地柄だ。
一緒に町を守るのはオトキヨと、狭い場所では長剣が不利なトラメだ。弓使いのセルは近接戦用のナイフに持ち替え、城に潜入する。ライカと一度も目を合わさず、何か険悪な雰囲気だが、緊張が高まるキョウネの手前、ライカは自然に振舞った。
「ね、セル。この件が何とかなったら、コーメイがラルゴと衝突する事って、ないよね?」
「それは僕が決めることじゃない」
つれない返事に、ついむっとして顔をじっと見てしまう。朝の爽やかな風に髪がなびいて、セルの額が露になる。今まで気付かなかったが、彼の左まぶたから眉上にかけて、古い傷跡があった。ライカは慌てて目をそらした。見てはいけないように思ったのだ。
(隠したい気持ちがあるから、その髪型なんだろうし)
入れ替わりに頬を刺してくる目線は、知らない振りをした。
「……もうすぐ城門だよ」
キョウネの声に合わせて、みんな正面を見上げる。石段を登った先に、重そうな両開きの戸がある。普段は開いている時間に来たのだが、今は閉ざされている。顎を撫でてから、キョウネは手甲をはめた。
「門番に聞いてみるか。何を警戒するように命令されてんのって」
ライカとセルは各々の武器に手をかけて頷く。兵士達が以前キョウネの同僚だったとはいえ、油断はできない。城からは、何か嫌な雰囲気が伝わってきた。石段を登る足音が冷たく耳につく。
「お久しぶり! あたしがいない間に、開門の時間が変わった?」
「キョウネじゃないか。どうした、城に用事でも?」
元同僚の後ろに見慣れぬ者を捉えると、門番の目が細められた。槍を握る手に力が入る。
「森の式神のことで、領主様にお話ししたいんだ。大至急」
これを聞くや否や、門番は槍を構え、突き出してくる。予想していた動きだったので、キョウネは槍を払うと拳で柄を折り、そのまま門番の顔を殴りつけた。ちょうど隙ができたので、セルが後ろに回りこんで腕を捻り上げる。
ぎゃあ、と悲鳴を上げる門番の足元を一匹の鼠が駆けていこうとした。気付いたライカが短剣を突き立てると、破裂して煙になった。小さな式神は普通の攻撃で片付くようだ。
問い詰められ、門番が城の状況を白状するまで、大した時間は掛からなかった。
キョウネが去ってすぐに、町を守らせていた式神が、うまく制御できなくなり、魔物も増えた。城門を閉ざし警戒を強め、兵の半数は森で魔物の掃討を行っている。だが、徐々に戻ってくる兵の数が減ってきた。森で行方不明になっているのだ。森の異変にはキョウネが関わっていると、領主の側近達が噂し始めたら、それが城では事実として広まった。町に噂が広がるのは時間の問題だった。
そういうわけで、城の中は敵だらけ。門をこじ開けて城内に入ると、不気味なほどの静けさが待っていた。兵、あるいは罠が、あちこちで待っているのだろう。
「なんか、こうも床が綺麗だと、土足で入るのは気がひけるね」
ライカが呑気な発言をすると、セルは呆れた。いつもは心の内だけのことだが、今は表情に出てしまっている気がする。彼はどうにも、ライカのことが苦手らしかった。彼女の明るさはときにわざとらしい。
一階を歩く間には、特に何事もなかったのだが、階段の前でキョウネが立ち止まった。ここは駄目だと言って、通り過ぎてしまう。
「あれは半分まで上ると傾きが逆になって、落とし穴に入っちゃうんだよ……仕方ない、隠し通路で行くか」
通常は階段として使うが、今は罠として機能させている。キョウネには見分けがつくので、罠の類は無いも同然だった。本来、城で領主に仕える者だけが知る隠し通路は、便宜上は今のキョウネが通ってはいけない場所だ。しかし、そんなことを言ってはいられない。罠を回避できても、兵士達と争ったら時間も手間も食う。
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---------
もし気に入っていただけたら、ブクマや評価、感想をいただけると大変励みになります!
#ヒラ俺
この度ついに完結しました。
1年以上書き続けた作品です。
途中迷走してました……。
今までありがとうございました!
---
追記:2025/09/20
再編、あるいは続編を書くか迷ってます。
もし気になる方は、
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