ライカ

こま

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5章 孤島の森

5_③

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 翌日早く、最盛期に整備された立派な港と、のどかな漁村が共存したラルゴの港町に着いた。船着場に近い、乗船券の売店へ向かう。ちょうど大きな船が寄港したところで、去っていく船影と下船した人の群れが町を賑わしていた。
 雑踏の中で、不意にトラメが足を止めた。頭ひとつ分、人ごみから抜けた高い目線が、どこか一点を見ている。そこには、見間違いようのない人物がいた。
「ヒスイ!」
呼ぶ声と赤いバンダナを目標に駆け寄ってきたのは、父親と国王の治療のためシャインヴィルに残った、トラメの幼馴染みだった。
「よかったわ、会えて。元気そうね」
笑顔が明るいのは、国での心配事が全て片付いたからだろう。ヒスイがチェルアに渡った時、ライカ達は去った後だった。そこで、幾つかの航路からラルゴ行きを選んで来たのだ。
「ヒスイも元気そうだね。ここまで大冒険だったんじゃない?」
遠まわしに、どうして追いかけてきたのか聞くライカ。その声に、以前ほどの壁は感じない。一緒に旅する顔ぶれも増えていて、ヒスイは嬉しく思う。
「ただの船旅よ? サイトレットほどの大冒険はなかったわ。国で待ってると気になって仕方ないから、思い切って来てみたの」
出航の時間が迫っていたので、まず切符を手に入れ、積もる話は船上ですることになった。
 トラメほど無防備ではないが、人見知りもしないので、ヒスイはすぐに皆と打ち解けた。乗った船はクーンシルッピ経由のトロムメトラ行きで、目的地までは半日と近い。天気がいい割に、甲板に出ている乗客がほとんどいない。いよいよ大所帯になってきたライカ達は、外で改めて自己紹介することにした。
その流れで、ユニマが人間とは違う種族だと知っても、ヒスイは動じなかった。シャインヴィルにもコリトは住んでいるし、驚くことではないという。むしろ、一人っ子で妹に憧れていたらしく、可愛らしさにときめいていた。
(さすがはトラメの幼馴染みというか……特殊な人だな)
セルは、魔術を見たとき何も言わなかったが、それはどう反応していいかわからなかったからだ。今も、ユニマへの接し方は固まらない。言葉を交わしたのは、コーメイでオトキヨを手当てしたときだけだ。目の前にいる人達が、何だか眩しく感じた。
 一度、風が強く吹き、セルの前髪がなびく。話の盛り上がりが、不意に引いた。傷跡が見えたせいだ。黙っていれば過ぎ去る、気まずい空気には慣れていた。たぶん、今もやり過ごせる。と思った矢先、長い睫毛に質問が突き刺さった。
「そういや、僧兵って魔物をやっつけるために組織されてるんだっけ」
偶然に共闘していたコーメイの時と、今では立場が違う。仲良くなりたいがため、トラメはそっと聞きにくいことに迫った。セルの傷跡は、魔物にやられたものと思ったのだ。
 別に隠してはいないので、セルは「傷のことだろう?」と自分から話すことにした。皮肉っぽい笑みが浮かんでいるのが、自分でもわかった。
「これは魔物や事故じゃない。……親の仕業だ。そして僕は神殿に拾われた。捨て子なのさ」
前髪を掻き分けて親指で示す傷が、何とはなしに痛む気がする。他にも沢山の傷を受けたが、これだけは残ってしまった。両親の記憶と共に。セルが僧兵になったのは、生きていくには神殿にいるしかなかったから。そして神殿の教えを説く立場を避けたからだ。
指を離すと、さらさらの髪が傷を隠す。しばらくは、一行を重い沈黙が包んだ。
 話を聞いていて、一番衝撃を受けたのはユニマだった。毛嫌いする神殿の教えが、彼女の中で初めて意味を持ったのだ。
(神殿は一神教。神を万民の母と崇める……そして孤児院としても機能している。親のいない子供たちを、なぐさめるためなの?)
布教拡大といえばそれまでだが、教えに救われる子供もいるのではないか。血の繋がった一族に囲まれて生きてきたユニマには、経験の範疇を大きく超えた想像だった。
 改めてセルの表情を見ると、とても救われた側には思えない。感情を忘れてしまったみたいに、彼はいつも真顔に近い状態でいる。きっと、親を覚えていて、教えを受け入れられなかったのだ。
「……なんだか、いろんな人の集まりだね」
 ユニマの一言は、やわらかく風に流れていった。あとから追いつくキョウネだって、独特の文化を持つコーメイの住人だ。元漁師の駆け出し冒険者、その幼馴染みの医学研究者、コリトに僧兵。そして……そして、ライカはどんな人物なのだろう?
実力のある冒険者で、天使を探そうと奔走している。今は亡き友との約束を守ることが、彼女の原動力だ。
「目的が一緒なら、どんな奴も集まれるってことだな」
トラメが笑うと細かいことを考える気が失せる。一行は航路の先を見据えた。皆、ライカが何か隠していることはわかっている。それでも共に旅して、壁がなくなるときを待っているのだ。
(そのうち、わかるさ)
お気楽なトラメの考えが、いつの間にか伝染していた。
 ライカは、右手にはめた太い腕輪を撫でて、ただ前を見た。
(ありがとう、みんな。ごめんね……)
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