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7章 道を探して
7_⑦
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翌日、残りの調べものをしてふたりは飛び立った。本当は下層市民街に家族を探したいが、ゆっくりしていると日が暮れてしまう。アキレアの手前、遠慮したこともあった。
交代で風除けになれば、かつて渡るのがやっとだった海も、楽に越えていける。宵の口には島の上空に来ることができて、感慨深い。
「なんか、私達、大きくなったんだね~」
ライカはわざと調子に乗った感じで言った。島が近付くにつれ、アキレアの緊張が増していたので、少しでもほぐせればと思ったのだ。
アキレアが言葉を返す前に、村の方から赤い翼が飛んできた。
「おっかえり~! アキレアも来たんだ!」
ナバナは当たり前のように笑いかけて、ふたりを迎えた。ついこの間、傷を負わされたばかりなのに、恨み言のひとつもない。まったくもって早い切り替えだ。どうしていいかわからず、アキレアは目をぱちくりさせている。戸惑いは、あれこれ考えたライカの言葉よりも、簡単に緊張感を打ち破ってくれた。
それでも挨拶のため村長宅を訪れると鼓動が早くなる。強張った肩に手を置き、ライカは小さく「大丈夫だよ」と言った。おかげで、アキレアは中に足を踏み入れることが出来た。
村長と顔を合わせると、アキレアは謝罪と共に深々と頭を下げた。二度にわたって島を襲撃し、多くの者を傷つけたことについて、命令だったことを言い訳にはしないという。
「私のことを、どうか許さないでください」
顔は見えないが、痛みに満ちた声だった。
「顔を上げておくれ。おおよその事情は、ライカから聞いていてな。この村で、お前さんを責める者はおらんよ」
村長が優しく言っても、アキレアは頭を下げたままだ。ライカは、双方を知る自分が間に入るのはいけないと考え、黙っている。その隣で、ナバナはアキレアの背中を見ていた。
(ライカと同じだ。本当は淋しくて、怖くて……でも、それを隠そうとするの)
考えるより体が動いた。ナバナは後ろからアキレアの両肩を引っ張り、顔を上げさせる。
「村長が言うとおりだよ。みんな、アキレアの気持ちを、ちょっとずつわかってくれるよ。だから、いいの!」
「でも……」
すっきりしないアキレアに、村長はしばらく村に留まることを勧めた。ここにいれば、そのうちナバナの言葉も腑に落ちるだろうと言う。
元より行く当てはないし、断る権利もない。アキレアは力なく頷いた。
村長の家を出て、ライカ達は集合住宅へ向かった。これから、アキレアもそこで寝泊りするのだ。村に近い神殿で資料を探した皆は、もう戻っているという。ただし、船の都合が付かない場合を考え、キョウネはラルゴでユニマ達を待っているそうだ。それなら、大式神でクーンシルッピへ渡れる。
「おう、お帰り。国から飛んできたのか? 疲れただろ」
ライカの後ろにいるアキレアにも目を向けて、ヴァルは微笑んだ。村長がどんな話をしたのか、言わなくてもわかっているようだ。
「そう緊張するなよ、って言っても無理か……ま、とりあえず自己紹介な。俺はヴァル。あちこちフラフラしてるが、一応ここの住人だ。お前は?」
「……アキレア」
名乗るだけで、言葉が続かない。何を言っていいか、わからない様子だ。ヴァルがたまたま普段頭に巻いている布飾りを外していたから、純粋な人間が村の住人だということにも、驚いたのかもしれない。
「いいね、花の名前か。ナバナ、お前もこういう可憐な印象になれるといいな」
「余計なお世話! 女の子に馴れ馴れしくしたってイアさんに言いつけてやる」
名前を褒められたことや、遠まわしに可憐だと言われたことは、アキレアには理解の外だった。ナバナとヴァルが言い合っているのを見てきょとんとしている間に、集合住宅の向こうから風呂上りのセルがやってきた。こちらも初対面なので、改めて自己紹介することになる。ただ、元から無愛想なセルが輪をかけて不機嫌で、ナバナに促されて名乗るだけになってしまった。
何かあったのかとライカが聞いてみても、「別に」と言って憮然としている。そこで、ナバナがはたと手を打った。
「さては、女湯は向こうだよってからかわれた?」
「どうしてそうなるんだ!」
むきになるのは図星だからだ。端正な顔は女性のように見えなくもない。村人にからかわれて頭にきたらしい。「好きでこんな顔をしてるんじゃないのに」と文句をこぼしている。
「あー、私が皆のこと説明するのに、女の子みたいな男の子がいるって言ったからかなあ」
「君が原因か……」
あっけらかんとナバナが言うことにどっと疲れて、セルは不機嫌でいることを放棄した。
他愛ないやり取りは、この村がどういう場所か、アキレアに教えてくれた。必要な警戒はするが、どんな者も受け入れる準備のある場所。言うなれば、ライカが思い描く世界の縮図なのだ。
交代で風除けになれば、かつて渡るのがやっとだった海も、楽に越えていける。宵の口には島の上空に来ることができて、感慨深い。
「なんか、私達、大きくなったんだね~」
ライカはわざと調子に乗った感じで言った。島が近付くにつれ、アキレアの緊張が増していたので、少しでもほぐせればと思ったのだ。
アキレアが言葉を返す前に、村の方から赤い翼が飛んできた。
「おっかえり~! アキレアも来たんだ!」
ナバナは当たり前のように笑いかけて、ふたりを迎えた。ついこの間、傷を負わされたばかりなのに、恨み言のひとつもない。まったくもって早い切り替えだ。どうしていいかわからず、アキレアは目をぱちくりさせている。戸惑いは、あれこれ考えたライカの言葉よりも、簡単に緊張感を打ち破ってくれた。
それでも挨拶のため村長宅を訪れると鼓動が早くなる。強張った肩に手を置き、ライカは小さく「大丈夫だよ」と言った。おかげで、アキレアは中に足を踏み入れることが出来た。
村長と顔を合わせると、アキレアは謝罪と共に深々と頭を下げた。二度にわたって島を襲撃し、多くの者を傷つけたことについて、命令だったことを言い訳にはしないという。
「私のことを、どうか許さないでください」
顔は見えないが、痛みに満ちた声だった。
「顔を上げておくれ。おおよその事情は、ライカから聞いていてな。この村で、お前さんを責める者はおらんよ」
村長が優しく言っても、アキレアは頭を下げたままだ。ライカは、双方を知る自分が間に入るのはいけないと考え、黙っている。その隣で、ナバナはアキレアの背中を見ていた。
(ライカと同じだ。本当は淋しくて、怖くて……でも、それを隠そうとするの)
考えるより体が動いた。ナバナは後ろからアキレアの両肩を引っ張り、顔を上げさせる。
「村長が言うとおりだよ。みんな、アキレアの気持ちを、ちょっとずつわかってくれるよ。だから、いいの!」
「でも……」
すっきりしないアキレアに、村長はしばらく村に留まることを勧めた。ここにいれば、そのうちナバナの言葉も腑に落ちるだろうと言う。
元より行く当てはないし、断る権利もない。アキレアは力なく頷いた。
村長の家を出て、ライカ達は集合住宅へ向かった。これから、アキレアもそこで寝泊りするのだ。村に近い神殿で資料を探した皆は、もう戻っているという。ただし、船の都合が付かない場合を考え、キョウネはラルゴでユニマ達を待っているそうだ。それなら、大式神でクーンシルッピへ渡れる。
「おう、お帰り。国から飛んできたのか? 疲れただろ」
ライカの後ろにいるアキレアにも目を向けて、ヴァルは微笑んだ。村長がどんな話をしたのか、言わなくてもわかっているようだ。
「そう緊張するなよ、って言っても無理か……ま、とりあえず自己紹介な。俺はヴァル。あちこちフラフラしてるが、一応ここの住人だ。お前は?」
「……アキレア」
名乗るだけで、言葉が続かない。何を言っていいか、わからない様子だ。ヴァルがたまたま普段頭に巻いている布飾りを外していたから、純粋な人間が村の住人だということにも、驚いたのかもしれない。
「いいね、花の名前か。ナバナ、お前もこういう可憐な印象になれるといいな」
「余計なお世話! 女の子に馴れ馴れしくしたってイアさんに言いつけてやる」
名前を褒められたことや、遠まわしに可憐だと言われたことは、アキレアには理解の外だった。ナバナとヴァルが言い合っているのを見てきょとんとしている間に、集合住宅の向こうから風呂上りのセルがやってきた。こちらも初対面なので、改めて自己紹介することになる。ただ、元から無愛想なセルが輪をかけて不機嫌で、ナバナに促されて名乗るだけになってしまった。
何かあったのかとライカが聞いてみても、「別に」と言って憮然としている。そこで、ナバナがはたと手を打った。
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むきになるのは図星だからだ。端正な顔は女性のように見えなくもない。村人にからかわれて頭にきたらしい。「好きでこんな顔をしてるんじゃないのに」と文句をこぼしている。
「あー、私が皆のこと説明するのに、女の子みたいな男の子がいるって言ったからかなあ」
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