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【外伝】隠しダンジョン
妖精の森 3
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ティッカも長老も、ライカたちの目を見ていた。信頼を置けそうな訪問者に、この話をしたことは何度かある。およそ、何の冗談だと苦笑いされてきた。
「えっ、じゃあ玉石のアクセサリー作るの大変だったんじゃ」
「突っ込むのそこかよ。まあ希少度にもよるが、石の力で人間サイズになっちまうとしたら大変だよな……いや、普通に羽が出せなくなるだけじゃねえか」
長身のふたりは、これでも真面目に話している。亜人種のはじまりを既に受け入れているから、妖精の実態は大きな衝撃ではなかった。
「……うーん、ちょっと話が逸れたけど。妖精を名乗ることで、魔物がいない町中に住むことにしたひとたちがいたんですね。あなたたちは、なんで森に?」
「私たちが虫だってこと、疑わないんだ?」
「冗談で言わないだろ。それより、あんたらが町の妖精に敵意持ってるほうが気になるね」
ライカやキョウネの問いを受け、長老は口を開く。
「いわゆる妖精の姿は、透き通る……カゲロウやトンボ、ハエ、まあそういう種の羽だろう。虫族は、チョウや甲虫、なかには羽以外の形質を持つ者もいる。それじゃあ妖精は名乗れん。町に行った皆は、自らの生まれを忘れ、妖精として生きることにしたのだ」
翼の種類で分類し、貴族や下層市民といった階層を作った鳥族とは、また違う分かれ方をしたらしい。
「町に溶け込みたいのはわかる。そのほうがずっと生きやすい。だが、決断が早かったゆえかな。透けた羽の夫婦からチョウの羽が生まれることもあった。その子を我々に預けるならまだいい……自分たちが妖精であるために、子を殺す者もいたそうだ。そんなことをするくらいなら、皆で森に来れば良かったのに」
「私たち、いつか真実を世界が聞いてくれるときが来るって信じてるんです。この災禍の世に、まだ天使は現れないけど」
ティッカの言葉に、ライカたちはしばし口をつぐんだ。天使は、現れないのだ。
それに、真実を明かし、ひとびとが信じた場合、町に暮らす妖精はどんな扱いを受けるだろう? 種族間の差別が緩和する前後の別なく、冷ややかな目線が刺さる気がした。
「……真実を聞いたのなら、僕たちも伝えるべきかな」
「そう……だね」
そうして、ライカたちは自分たちが見たものを話した。もとの災禍の元凶はいなくなったが、天使と呼ばれた英雄が、今や新たな元凶となっていること。彼女を止めるために、自分たちは旅をしていること。ライカの腕輪の中に、辛うじてレマが生きていること。
「なるほど、合点がいった。災禍の元凶本人に亜人種のはじまりを聞いては、疑う余地なしだな」
「おかげで今、あなたたちの話を落ち着いて聞けました。この腕輪が、引き合わせてくれたのかなぁ」
虫族がレイフラウにもたらした腕輪を、レマが身につけ、めぐりめぐってライカが手にした。
「やっぱり、いろんなひとがいるんだね」
ユニマがぽつりと言うことに、隣でセルが目を伏せる。
「ああ。僕らは変わり者なのかもしれないが……それでいいんだよな」
魔に染まったレマの凶行を止められた、その先の未来で、共に生きていく誰かが、また増えた。
ティッカたちと別れ、森を歩き始めてしばらく。口数の少なかった兄貴分に疑問を投げかける。
「ねえヴァル、ほんとはもっと長老にいろいろ聞きたかったんじゃないの?」
「ん? うーん……」
「彼らの町に行ってみたいとも言っていたな」
歯切れがわるいのは、妖精が幻想だったからだろう。それでも、行ったことのない場所にはロマンがある。ヴァルなら興味を持つはずだ。
「いや、招かれない所に行くほど無粋じゃねえよ。クーンシルッピみたいに定期船が通ってるなら、話は別だけどさ。そのうち来いよって言われたら、喜んで行くわ」
気持ちの整理がついたらしく、足取りが軽くなる。
「その町が有るのは確かだ。いまはそれでいいや」
ひとつ新しいことを知った喜びと、現実はロマンチックでない落胆では、前者のほうが大きい。後者には慣れて、今さら落胆というほど心が動かないのかもしれない。
そんなヴァルたちの姿を、笛で姿を隠したティッカが見ていた。
「ぜんぶ終わったら、ここにも報告に来たいね」
同意を示すように腕輪の玉石が光るのを、小さな瞳だけがとらえた。
→→→→→→【妖精の森】クリア!
ゲームだったら、長老のところに行く前にボス戦があると思う。
メネ・ウロスにてシダンから亜人種のはじまりを聞いていたライカたち。これまでの冒険者と違い、長老の話を信じることができた。
腕輪のもとの持ち主だったレマは、翼を隠さなくても生きていける力があったけれど、あの腕輪のおかげで、今こうしてライカたちと共にいられる。虫族たちにはお礼を言いたかったろう。ティッカには伝わってるといいなあ。
【入手アイテム】
・ソプラニーノ
ティッカがくれた小さな笛。分類はアクセサリー。さすがに姿は消せないが、持っていると気配が薄く…なったような?(敵から狙われにくくなる。全体回復技の効果が薄くなる)
・謎の布
長老いわく、極細の繊維で織り上げた逸品。いったいなんの繊維で出来ているのか? これでアイテムを包んでキュッキュすると、違うものに生まれ変わったりすることがある。なんで?(消費はしないが、変化が起きないこともあるし、ものによってはダウングレードする)
「えっ、じゃあ玉石のアクセサリー作るの大変だったんじゃ」
「突っ込むのそこかよ。まあ希少度にもよるが、石の力で人間サイズになっちまうとしたら大変だよな……いや、普通に羽が出せなくなるだけじゃねえか」
長身のふたりは、これでも真面目に話している。亜人種のはじまりを既に受け入れているから、妖精の実態は大きな衝撃ではなかった。
「……うーん、ちょっと話が逸れたけど。妖精を名乗ることで、魔物がいない町中に住むことにしたひとたちがいたんですね。あなたたちは、なんで森に?」
「私たちが虫だってこと、疑わないんだ?」
「冗談で言わないだろ。それより、あんたらが町の妖精に敵意持ってるほうが気になるね」
ライカやキョウネの問いを受け、長老は口を開く。
「いわゆる妖精の姿は、透き通る……カゲロウやトンボ、ハエ、まあそういう種の羽だろう。虫族は、チョウや甲虫、なかには羽以外の形質を持つ者もいる。それじゃあ妖精は名乗れん。町に行った皆は、自らの生まれを忘れ、妖精として生きることにしたのだ」
翼の種類で分類し、貴族や下層市民といった階層を作った鳥族とは、また違う分かれ方をしたらしい。
「町に溶け込みたいのはわかる。そのほうがずっと生きやすい。だが、決断が早かったゆえかな。透けた羽の夫婦からチョウの羽が生まれることもあった。その子を我々に預けるならまだいい……自分たちが妖精であるために、子を殺す者もいたそうだ。そんなことをするくらいなら、皆で森に来れば良かったのに」
「私たち、いつか真実を世界が聞いてくれるときが来るって信じてるんです。この災禍の世に、まだ天使は現れないけど」
ティッカの言葉に、ライカたちはしばし口をつぐんだ。天使は、現れないのだ。
それに、真実を明かし、ひとびとが信じた場合、町に暮らす妖精はどんな扱いを受けるだろう? 種族間の差別が緩和する前後の別なく、冷ややかな目線が刺さる気がした。
「……真実を聞いたのなら、僕たちも伝えるべきかな」
「そう……だね」
そうして、ライカたちは自分たちが見たものを話した。もとの災禍の元凶はいなくなったが、天使と呼ばれた英雄が、今や新たな元凶となっていること。彼女を止めるために、自分たちは旅をしていること。ライカの腕輪の中に、辛うじてレマが生きていること。
「なるほど、合点がいった。災禍の元凶本人に亜人種のはじまりを聞いては、疑う余地なしだな」
「おかげで今、あなたたちの話を落ち着いて聞けました。この腕輪が、引き合わせてくれたのかなぁ」
虫族がレイフラウにもたらした腕輪を、レマが身につけ、めぐりめぐってライカが手にした。
「やっぱり、いろんなひとがいるんだね」
ユニマがぽつりと言うことに、隣でセルが目を伏せる。
「ああ。僕らは変わり者なのかもしれないが……それでいいんだよな」
魔に染まったレマの凶行を止められた、その先の未来で、共に生きていく誰かが、また増えた。
ティッカたちと別れ、森を歩き始めてしばらく。口数の少なかった兄貴分に疑問を投げかける。
「ねえヴァル、ほんとはもっと長老にいろいろ聞きたかったんじゃないの?」
「ん? うーん……」
「彼らの町に行ってみたいとも言っていたな」
歯切れがわるいのは、妖精が幻想だったからだろう。それでも、行ったことのない場所にはロマンがある。ヴァルなら興味を持つはずだ。
「いや、招かれない所に行くほど無粋じゃねえよ。クーンシルッピみたいに定期船が通ってるなら、話は別だけどさ。そのうち来いよって言われたら、喜んで行くわ」
気持ちの整理がついたらしく、足取りが軽くなる。
「その町が有るのは確かだ。いまはそれでいいや」
ひとつ新しいことを知った喜びと、現実はロマンチックでない落胆では、前者のほうが大きい。後者には慣れて、今さら落胆というほど心が動かないのかもしれない。
そんなヴァルたちの姿を、笛で姿を隠したティッカが見ていた。
「ぜんぶ終わったら、ここにも報告に来たいね」
同意を示すように腕輪の玉石が光るのを、小さな瞳だけがとらえた。
→→→→→→【妖精の森】クリア!
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腕輪のもとの持ち主だったレマは、翼を隠さなくても生きていける力があったけれど、あの腕輪のおかげで、今こうしてライカたちと共にいられる。虫族たちにはお礼を言いたかったろう。ティッカには伝わってるといいなあ。
【入手アイテム】
・ソプラニーノ
ティッカがくれた小さな笛。分類はアクセサリー。さすがに姿は消せないが、持っていると気配が薄く…なったような?(敵から狙われにくくなる。全体回復技の効果が薄くなる)
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追記:2025/09/20
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