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私たちが住む現実世界とは異なる、魔法やドラゴンが存在する幻想的な世界。

主人公は、魔法の力で自分を女性に変えたり、ドラゴンに乗って田舎に旅行した。そして、そこで出会った仲間達と冒険をしたり恋をした。
しかし、ある日突然その仲間たちが消えてしまったのだ。
「私も消えちゃうのかな?」
そんな不安な気持ちを抱きながら、少女は目を覚ました。
――――――――――――
「ここはどこだろう……」
少女は、見知らぬ部屋のベッドの上で寝ていた。
真っ白の壁紙の部屋には家具など一切なく、窓すらもない。ただ一つある扉を開けると、そこは真っ暗な部屋だった。
ドアノブに手をかけて回そうとするが動かない。
「閉じ込められた……?どうしよう」
ガチャリ! 鍵がかかった音が聞こえたと同時に、部屋全体が眩しい光に包まれる。
「きゃっ!」
あまりの眩しさに目がくらむ。すると次の瞬間、自分の目の前に素敵な女性が立っていた。
「おはようございます。」
女性はそう言うと、恭しく頭を下げた。
「あ、あの……あなたは誰ですか?」
「これから、あなたに魔法を教える者ですよ。」
出会った女性が実は魔女であり、一緒に魔法の修行をすることになる。最初は嫌々だったが、次第に魔法を使う楽しさに気付き、様々な魔法を習得していった。
「さぁ、今日はこれくらいにしておきましょうか。」
「はい、ありがとうございました。」
「明日もまた来ますね。」
そう言って帰ろうとする女性を引き留めて、勇気を出して告白する。
「待ってください……。好きです。付き合って下さい!!」
「……。いいわよ。よろしくお願いします。」
こうして二人は恋人同士になった。
――
それから数ヶ月後、二人は結婚して幸せな家庭を築いた。
しかしそんなある日のこと。
「ねぇ、知ってる?」
「何をですか?」
「私のこと好き?」
「もちろん大好きです。」
「でも、私のことを愛していないんでしょう!?」
「えっ?」
「だって、私よりずっと前から好きな人が居るじゃない!!」
「ちょっと落ち着いてください!」
「私はあなたのことが大嫌い!!出て行って!!!」
ドンッ! 女性はヒステリックになり、少女を突き飛ばした。そしてそのままどこかへ行ってしまった。
――
少女は絶望し悲嘆に暮れたが、それでも前を向いて生きていこうとした。
しかしある日、彼女の偽物が恋した女性ではないという情報を得る。
「エルフや妖精であるかもしれません。」
「どうして分かるんですか?」
「彼女たちは皆美しい姿をしていますから。」
「じゃあ、私は一体何なんでしょう……?」
「それは分かりかねます。」
――
少女は、自分が何者か分からず途方にくれた。
そして、自分の存在について悩み続けた。偽物がそこまでする理由も判らず
「やっぱり、私は何かを間違えているのかもしれない……」
彼女はそう思ったのであった。

―――
初めて魔法を使った時の感動。
家族との思い出。
友達と遊んだ記憶。
初恋の人と過ごした時間。
それらの全てが走馬灯如く駆け抜けガラスが割れる音
「あっ…………」
目の前にあった景色が崩れていく。足元からどんどん崩れ落ちていきやがて闇に包まれた。
――
次に目覚めた時、そこは見覚えのある天井だった。
「……ここはどこだっけ?」
起き上がると、そこはいつもの寝室だった。
「あれ?確か森の中にいたはずなのに……」
不思議に思いながらもベッドから出て部屋を出ると、リビングには朝食の準備をしている母がいた。
「あら、おはよう。朝ごはん出来てるよ。早く食べなさい。」
「おはよう……お母さん。」
テーブルの上にはトーストにベーコンエッグ、サラダが置いてあった。
「いただきます。」
黙々と食事を進める。ふと気になってテレビをつけるとニュースをやっていた。
「昨日、また通り魔が出ました。幸い被害者は出ませんでしたが、犯人はまだ捕まっていません。皆さんも十分に注意して下さい。」
「最近物騒よね……あなたも夜遅くまで勉強しないでちゃんと寝るのよ。」
「分かってるよ。」
朝食を食べ終わり学校へ行く準備をする。
「それじゃ、いってきます。」
「はい、いってらっしゃい。」
玄関を出て、家を振り返る。
(本当に帰ってきたんだ……)
そこは紛れもなく自分の生まれ育った家だった。
しばらく歩いていると、後ろの方から誰かが走って追いかけてきた。
「おーい!待ってくれぇ!」
振り向くと、そこには幼馴染の男の子の姿があった。
「君が好きだ息ができなくなるほど思い通りにならない事も判ってる。」
目が血走り、手にはナイフを持っている。明らかに正気ではなかった。
「な、何をしているの!?」
「あああああ!!!」
男が叫び声を上げながら飛びかかってくる。必死に逃げようとするが足がもつれて転んでしまった。
「きゃぁぁ!!」
恐怖で目を閉じる。だが次の瞬間地面が割れるマグマが彼の顔に
「うわぁぁぁぁぁぁ!!!!」
男は絶叫しながら高温に体が崩れ落ち
痛みを堪え絶叫する。
「思い通りににならないこの世界はいらない魔王にくれてやる。世界よ滅べばー」
魔方陣が光り出し光が男を包み込む。
「うわあぁぁぁ」
断末魔と共に男の体は光となって消えていった。
「何これ……?」
訳がわからなかった。
ただわかることは、これが夢ではなく現実だという事だけだ。
「おい、大丈夫か?」

突然、背後から話しかけられた。

振り返ると、そこには騎士風の青年が立っていた。
「えっと、貴方は?」
「俺か?俺は勇者だ」
「ゆうしゃ?」
「そうだ。お前は選ばれし者なんだ」
「選ばれた?」
「その剣を見てみろ」
そう言われ、私は手に持っているものを見る。それは、刀身が黒いロングソードだった。
「それは伝説の聖剣【漆黒】だ。それに選ばれた者は勇者として、思い出の大事な人を刺せば覚醒する。さぁ、今すぐ刺すんだ」
「そんなことできない」
「どうしてだ?このままだと世界は終わるぞ」
「だって、もし失敗したら、その人どの次元からも記憶が消えてしまうの」
「安心しろ、そのために俺がいるんだ」
「でも……」
「いいから早くやれよ!」
彼は私の肩を掴み無理やり刺そうとする。
私は怖くなり目を閉じた。すると、脳裏にある人の姿が浮かび上がった。
それは私の偽物だった。
彼女は偽物の私に向かって歩いていき、偽物に抱きついた。
偽物は驚いた表情をしていた。
偽物が私に微笑むと、偽物の周りに魔法陣が現れ偽物をどこかへ連れ去ってしまう。
私が呆然と立ち尽くしていると、いつの間にか偽物が目の前にいた。
偽物が手をかざすと、私の中に何かが入り込んでくるのを感じた。
「ありがとう。これでやっと解放されたよ。」

覚醒した聖剣が、彼女の心臓を貫く。
そして、世界が崩壊する音がした。
――――――
目が覚めると、そこは見覚えのある天井だった。
窓の外を見ると、もう太陽が昇っていた。
どうやら、随分長い時間眠ってしまったようだ。
ベッドから起き上がり、リビングに向かう。そこには母の姿があった。
母の顔を見た途端、涙が溢れ出てきた。
母は驚いていたが、何も言わず抱きしめてくれた。
しばらくして泣き止んだ。
現実世界での悲劇ではなく、愛に満ち
溢れた優しい世界での出来事だったのだ。
「ねぇ、お母さん。」
「なに?」
「お母さんはずっと側にいてくれるよね……」
「当たり前じゃない」
「良かった……」
――
少女は自分の生まれた場所にいた。
そこは深い森の奥にある小さな湖のほとり。
目の前には、誰もいない。ただ静かに風が吹いているだけ。
目を閉じれば、そこには魔女の幼い頃の記憶がある。初めて魔法を使った時の感動。
家族との思い出。
友達と遊んだ記憶。
初恋の人と過ごした時間。
それらの全てが走馬灯記憶だけではない。
そこにいるのは間違いなく彼女自身なのだ。
やがて、ゆっくりと目を開ける。
その瞳は、虚空を見つめていた。
――
見えぬものが、見えない日の錯綜した記憶と流れ時間、過去と未来、精神と肉体、善と悪、生と死、すべてが見えぬものの世界。
人は皆、生まれながらにして、不可視の世界を見ている。
それは、この世のものではない。
それは、この世のものでもない。
それは、この世とあの世を隔てる境界
全ての人に生きていくつもの物語の一つに過ぎない


ー完ー
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