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1話 婚約破棄
しおりを挟む「俺は運命の愛を知った。だからお前とは婚約破棄する」
三ヶ月ぶりに会った婚約者マリオン・コーデル様の第一声がそれだった。
その三ヶ月前だって隣国から交易のためにやって来た第三王子一行を歓迎する夜会だ。コーデル様は警備担当の近衞騎士として、私は招待客である父たちの連れとして顔を合わせたにすぎない。エスコートだって従兄弟に頼んだくらいだ。目的である人脈作りに励んでいたので有意義だったけれど。
一週間も前からこのお茶会のために、珍しい東方のお菓子を取り寄せたり、近衞騎士団に所属する彼のシフトを調べて体調に配慮したお茶をブレンドしたりしたのに。
もともとそんな細かいことは気にされない方だったと思い出す。
この婚約は血統が取り柄のコーデル公爵家と商売が得意な我がアッシュベル侯爵家で結ばれた政略的な要素の強いものだった。次男のマリオン様がアッシュベル家に婿にやってくる形で互いにないものを補い、今後の領地経営をさらに発展させるものなのだ。
「婚約破棄でございますか……? この結婚は政略的なものです。私たちの一存では決められません」
「父上には許可をもらってある。彼女にはこれから話す予定だが、俺の運命の相手だからすぐに新しい婚約者になるだろう」
もう公爵様にまで手を回していたのね。まあ、この結婚は公爵家から打診してきたものだし、今まで融資して来た件も折り合いがついたのかしら?
それならば、こんな風にお会いしなくても父を通してお伝えくださればよろしいのに。まったく時間の無駄だわ。
「かしこまりました。ではこれで失礼いたします」
「えっ、相手とか気にならないのか?」
「別に興味がございませんので」
「くっ、そういうところなんだ!」
「どういう意味でしょう?」
どうして、もう他人になったうえに心変わりするような、好きでもない男の事など考えなければいけないのかしら。私は慰謝料の請求やら今後の調整で忙しいのに。
「お前がそんな冷酷な女だから、俺はイオナの包み込むような優しさに惚れたんだ!」
「……………………今、何て? 誰ですって?」
「イオナだ! 平民ではあるが輝くようなストロベリーブロンドが華やかで、いつも懸命に働き苦労している。そんな彼女を支えたいと心から思ったんだ!」
その聞き覚えのある名前に気が遠くなりそうだった。それにいくら公爵家の次男だといっても、平民の女性が妻になれるわけがない。身分が違いすぎる。思考が逸れそうになって問題はそこではないと気を取り直した。
「ああ……そうですか。では私は父に報告して参りますので失礼いたします」
「本当に最後まで可愛げのない女だ! イオナとは大違いだな! もういい、俺は彼女に求婚してくる!」
「さようでございますか。では」
まあ、求婚したところで無駄ですけれど。
だってそのイオナの正体は平民に扮した私フィオーナ・アッシュベルで、たった今あなたから婚約破棄されたのだから。
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