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Destiny
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「夏目さんは、運命を信じますか」
帰りの車中で、掛井さんがふいに問いかけてきた。
窓の外は雪が降り続いている。
「運命、ですか?」
「はい。僕は、夏目さんが今そばにいることが、運命のような気がするんです」
日が暮れたばかりの高速道路は幻想的で、どこか別の世界にいるみたいだった。私は心地よい振動を感じながら、彼の声に耳を傾ける。
「あの日、名古屋城の公園で出会ったのは、ただの偶然にしては出来過ぎで、でも誰かが仕組んだわけでもない。あなたを駅まで送り届けるため車に乗せた時、なんとなく感じたんです。夏目さんは、いつか僕の車の助手席に座るんじゃないか。つまり、僕の隣にいてくれるのではと……」
「掛井さん」
夢見ていた光景が現実になって、その上、こんなに感動的な告白をしてくれる彼は何者なんだろう。それこそ、出会うべくして出会った、運命の人に思える。
「すみません。こんな考え方、変ですよね。舞い上がってるみたいだ」
掛井さんが少し気まずそうにする。感激のあまり口を利けずにいた私は、慌てて自分の想いを口にした。
「そんなことないです。運命とかご縁とか、私も信じてますから。えっと……あ、例えば今日、縁結びの神様にお願いしました。掛井さんとの恋愛成就を」
「今日?……あ、もしかして」
掛井さんは、犬山の三光稲荷神社を知っていた。
「恋愛成就を祈願する絵馬が、たくさん奉納されていました。ご縁や運命を信じるのは掛井さんだけじゃないし、ぜんぜん変じゃないです」
「なるほど……うん、確かに」
納得してくれたようだ。嬉しそうに、私に微笑みかける。
「あなたと僕は、いつかどこかで縁を結んでいる。運命を感じる瞬間が、これからもたくさんあるかもしれないね」
「はい」
でも、神様に頼ってばかりでなく、自分自身も頑張って、気持ちを伝えなければ。掛井さんがそうしてくれたように。
こんなにも好きなんだから。
「夏目さん。今日は家まで送り届けます。その前に、夕飯でも食べませんか?」
「ありがとうございます。ぜひ!」
掛井さんは運命の人。
ゆったりとした心地で、彼の隣にいられる幸せに浸った。
名古屋駅近くの商業ビルに立ち寄り、夕飯を食べた。掛井さんおすすめの鰻屋で味わったひつまぶしは、最高に美味しかった。
「気象情報によると、今年はホワイトクリスマスになるとか。温暖化の近頃にしては、珍しいですね」
食事のあと、エレベーターの中で彼が教えてくれた。
「そうなんだ。寒そうだけど、クリスマスらしい感じがします」
「うん。ところで夏目さん、クリスマスの予定は?」
「えっ? わ、私は、特に何もありませんが」
エレベーターの扉が開く。
通路の窓からテラスを見ると、雪が降り続いていた。
「そうですか。ご存じのとおり、僕も予定がありません。もしよければ、デートしませんか?」
「デート……します、もちろん!」
掛井さんは、ドライブに行こうと誘ってくれた。私は嬉しすぎて、ひたすらうなずくばかり。
「あと、年が明けたら初詣に出かけるつもりですが……」
「一緒に行きます!」
すぐに反応する私を見て、掛井さんが楽しそうに笑う。でも私は本気で前のめりだった。いつ何時でも彼と一緒にいたいくらいの気持ちなのだ。
「じゃあ、犬山に行きますか」
「犬山……あっ」
すぐにぴんときた。
「神様に、お礼を言いに?」
「そういうこと」
掛井さんとの縁を結んでくれた三光稲荷神社である。私の話を、ちゃんと覚えていてくれたのだ。
「それなら、初詣のあとは城下町を散策しませんか。そのあとは……」
次々に提案する私を、掛井さんは呆れもせず、にこにこと受け入れてくれる。クリスマスにお正月――年中行事に、こんなにもわくわくするのは久しぶりで、浮き足立ってしまう。
「あ、ツリーがありますよ」
タワー前の広場にツリーが飾られている。いくつものLEDで彩られた巨大なツリーだ。掛井さんと一緒に、近くまで行ってみる。
帰りの車中で、掛井さんがふいに問いかけてきた。
窓の外は雪が降り続いている。
「運命、ですか?」
「はい。僕は、夏目さんが今そばにいることが、運命のような気がするんです」
日が暮れたばかりの高速道路は幻想的で、どこか別の世界にいるみたいだった。私は心地よい振動を感じながら、彼の声に耳を傾ける。
「あの日、名古屋城の公園で出会ったのは、ただの偶然にしては出来過ぎで、でも誰かが仕組んだわけでもない。あなたを駅まで送り届けるため車に乗せた時、なんとなく感じたんです。夏目さんは、いつか僕の車の助手席に座るんじゃないか。つまり、僕の隣にいてくれるのではと……」
「掛井さん」
夢見ていた光景が現実になって、その上、こんなに感動的な告白をしてくれる彼は何者なんだろう。それこそ、出会うべくして出会った、運命の人に思える。
「すみません。こんな考え方、変ですよね。舞い上がってるみたいだ」
掛井さんが少し気まずそうにする。感激のあまり口を利けずにいた私は、慌てて自分の想いを口にした。
「そんなことないです。運命とかご縁とか、私も信じてますから。えっと……あ、例えば今日、縁結びの神様にお願いしました。掛井さんとの恋愛成就を」
「今日?……あ、もしかして」
掛井さんは、犬山の三光稲荷神社を知っていた。
「恋愛成就を祈願する絵馬が、たくさん奉納されていました。ご縁や運命を信じるのは掛井さんだけじゃないし、ぜんぜん変じゃないです」
「なるほど……うん、確かに」
納得してくれたようだ。嬉しそうに、私に微笑みかける。
「あなたと僕は、いつかどこかで縁を結んでいる。運命を感じる瞬間が、これからもたくさんあるかもしれないね」
「はい」
でも、神様に頼ってばかりでなく、自分自身も頑張って、気持ちを伝えなければ。掛井さんがそうしてくれたように。
こんなにも好きなんだから。
「夏目さん。今日は家まで送り届けます。その前に、夕飯でも食べませんか?」
「ありがとうございます。ぜひ!」
掛井さんは運命の人。
ゆったりとした心地で、彼の隣にいられる幸せに浸った。
名古屋駅近くの商業ビルに立ち寄り、夕飯を食べた。掛井さんおすすめの鰻屋で味わったひつまぶしは、最高に美味しかった。
「気象情報によると、今年はホワイトクリスマスになるとか。温暖化の近頃にしては、珍しいですね」
食事のあと、エレベーターの中で彼が教えてくれた。
「そうなんだ。寒そうだけど、クリスマスらしい感じがします」
「うん。ところで夏目さん、クリスマスの予定は?」
「えっ? わ、私は、特に何もありませんが」
エレベーターの扉が開く。
通路の窓からテラスを見ると、雪が降り続いていた。
「そうですか。ご存じのとおり、僕も予定がありません。もしよければ、デートしませんか?」
「デート……します、もちろん!」
掛井さんは、ドライブに行こうと誘ってくれた。私は嬉しすぎて、ひたすらうなずくばかり。
「あと、年が明けたら初詣に出かけるつもりですが……」
「一緒に行きます!」
すぐに反応する私を見て、掛井さんが楽しそうに笑う。でも私は本気で前のめりだった。いつ何時でも彼と一緒にいたいくらいの気持ちなのだ。
「じゃあ、犬山に行きますか」
「犬山……あっ」
すぐにぴんときた。
「神様に、お礼を言いに?」
「そういうこと」
掛井さんとの縁を結んでくれた三光稲荷神社である。私の話を、ちゃんと覚えていてくれたのだ。
「それなら、初詣のあとは城下町を散策しませんか。そのあとは……」
次々に提案する私を、掛井さんは呆れもせず、にこにこと受け入れてくれる。クリスマスにお正月――年中行事に、こんなにもわくわくするのは久しぶりで、浮き足立ってしまう。
「あ、ツリーがありますよ」
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