夫のつとめ

藤谷 郁

文字の大きさ
40 / 179
お見通し

3

 彼の逞しい胸板、力強い腕を思い出し、希美はまんざらでもない顔をする。横向きになっているので、武子に表情は見えていない。

「女っ気なしの、地味な男性。南村さんという目立たぬお方は、無限の可能性を秘めていたのでございますねえ。童貞ならではの、とでも申しましょうか?」
「……」

 表情は見えていないが、彼女はすべてお見通しだ。希美はひと言もなく、話を変えることにする。

「それにしても、実家の借金のこととか知らなかったわ。壮二について少しは調べたほうがいいわよね」
「はあ」
「ノルテフーズに入社できたんだから、問題ないとは思うけど」
「ええ」
「近いうちに、ご両親にも挨拶しなくては」
「はあ」

 眠くなってきたのか、武子は気の抜けた返事をする。希美は、こうして付き合わせているのが悪い気がした。
 武子は、今夜は自宅で休むところを、わざわざ心配して北城家まできてくれたのだ。

「ねえ、武子さん。私はもう大丈夫だから部屋で休んでちょうだい。あと、あらためてお休みを取れるようお母様には言っておくから」
「いいえ、お嬢様とお話するのは、私の楽しみでもあります。本当は、お休みなどいただかなくとも構わないくらいなのです」
「だめよ。それじゃ、私の気が済まないって」

 希美は床に敷いたマットの上で、ゆっくりと起き上がった。微笑んでみせると、武子は安心した様子になり、顎を引いた。

「それでは、私はこれで失礼いたします。今夜は自宅に戻らず部屋におりますので、痛むようでしたらすぐにお呼びください」
「了解。頼りにしてるわ」

 武子は薬箱を持って立ち上がると、会釈をしてからドアに向かった。そしてノブに手をかけ、思い出したように振り返る。

「お嬢様」
「ん?」

 じっと見つめられ、希美は妙に照れてしまう。武子の眼差しはとても真面目で、穏やかで、愛情の深さが伝わってくる。それは、希美が幼かった頃となんら変わらない。

「私達は、南村壮二という男性に期待をかけております。お嬢様を幸せに導く、良き伴侶となられますように」

 再度会釈をすると、ドアを開けて出ていった。彼女も照れたのか、あっさりとした退場である。

「武子さん?」

 今、彼女は私達と言った。
 なんとなく希美は引っ掛かるが、考えようとするとあくびが出てきた。腰の痛みがやわらいだためか、急激な眠気に襲われる。

(ま、いっか。杉山さんとか、北城家に勤める私達って意味よね、きっと)

 マットに横たわり、目を閉じた。

(良き伴侶となられますように……か)

 明日、筋肉痛は治まるだろう。だけど、壮二を受け入れた身体の疼きは消えそうにない。
 希美はうつらうつらしながら、武子にも誰にも話せない、彼との初夜を反芻した。

あなたにおすすめの小説

義姉と押し入れに隠れたら、止まれなくなった

くろがねや
恋愛
父の再婚で、義姉ができた。 血は繋がっていない。でも——家族だ。そう言い聞かせながら、涼介はずっと沙耶から距離を取ってきた。 夏休み。田舎への帰省。甥っ子にせがまれて始まったかくれんぼ。急いで飛び込んだ押し入れの中に、先客がいた。 「……涼介くん」 薄い水色の浴衣。下ろした髪。橙色の光に染まった、沙耶の顔。 逃げ場のない暗闇の中で、二人分の体温が混ざり合う。 夜、来て。 その一言が——涼介の、全部を壊した。 甘くて、苦しくて、止まれない。 これは、ある夏の、秘密の話。

一夏の性体験

風のように
恋愛
性に興味を持ち始めた頃に訪れた憧れの年上の女性との一夜の経験

体育館倉庫での秘密の恋

狭山雪菜
恋愛
真城香苗は、23歳の新入の国語教諭。 赴任した高校で、生活指導もやっている体育教師の坂下夏樹先生と、恋仲になって… こちらの作品は「小説家になろう」にも掲載されてます。

俺様上司に今宵も激しく求められる。

美凪ましろ
恋愛
 鉄面皮。無表情。一ミリも笑わない男。  蒔田一臣、あたしのひとつうえの上司。  ことあるごとに厳しくあたしを指導する、目の上のたんこぶみたいな男――だったはずが。 「おまえの顔、えっろい」  神様仏様どうしてあたしはこの男に今宵も激しく愛しこまれているのでしょう。  ――2000年代初頭、IT系企業で懸命に働く新卒女子×厳しめの俺様男子との恋物語。 **2026.01.02start~2026.01.17end** ◆エブリスタ様にも掲載。人気沸騰中です! https://estar.jp/novels/26513389

旧校舎の地下室

守 秀斗
恋愛
高校のクラスでハブられている俺。この高校に友人はいない。そして、俺はクラスの美人女子高生の京野弘美に興味を持っていた。と言うか好きなんだけどな。でも、京野は美人なのに人気が無く、俺と同様ハブられていた。そして、ある日の放課後、京野に俺の恥ずかしい行為を見られてしまった。すると、京野はその事をバラさないかわりに、俺を旧校舎の地下室へ連れて行く。そこで、おかしなことを始めるのだったのだが……。

同じアパートに住む年上未亡人美女は甘すぎる。

ピコサイクス
青春
大学生の翔太は、一人暮らしを始めたばかり。 真下の階に住むのは、落ち着いた色気と優しさを併せ持つ大人の女性・水無瀬紗夜。 引っ越しの挨拶で出会った瞬間、翔太は心を奪われてしまう。 偶然にもアルバイト先のスーパーで再会した彼女は、翔太をすぐに採用し、温かく仕事を教えてくれる存在だった。 ある日の仕事帰り、ふたりで過ごす時間が増えていき――そして気づけば紗夜の部屋でご飯をご馳走になるほど親密に。 優しくて穏やかで――その色気に触れるたび、翔太の心は揺れていく。 大人の女性と大学生、甘くちょっぴり刺激的な同居生活(?)がはじまる。

とある高校の淫らで背徳的な日常

神谷 愛
恋愛
とある高校に在籍する少女の話。 クラスメイトに手を出し、教師に手を出し、あちこちで好き放題している彼女の日常。 後輩も先輩も、教師も彼女の前では一匹の雌に過ぎなかった。 ノクターンとかにもある お気に入りをしてくれると喜ぶ。 感想を貰ったら踊り狂って喜ぶ。 してくれたら次の投稿が早くなるかも、しれない。

ちょっと大人な物語はこちらです

神崎 未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な短編物語集です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。