フローライト

藤谷 郁

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イブのお見合い

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「じゃあ、早速、相手の方に電話してみるわね」


伯母はいそいそとスマートフォンを取り出し、相手方の番号を押した。


「えっ、もう?」


せっかちな母も驚く、早い展開である。


「でも、相手の方に彩子の写真や釣書をまだ渡していないわよ」


そういえばそうだと、彩子も気が付く。

しかし伯母は、スマートフォンを耳にあてつつ、大丈夫というジェスチャーをした。


「今時のお見合いはね、タイミングなの。だから、形式ばったことをしないで……あっ、もしもし?」


彩子は伯母が話すのを横目にコーヒーを飲むが、味がわからなかった。


「ねえねえ、お相手の方が明後日から5日間の出張なんですって。できれば明日の夜に会いたいそうだけど……」


伯母が少々困惑した顔で言う。


「まあそう……明日の夜? まあ、いいわよね彩子?」


母は戸惑いながらも、やはり進めたがっている。


「ああ……うん、いいけど」


彩子は急な展開に頭が付いていかず、よく考えないまま返事をした。


「じゃあ、そういうことで」


話はまとまったようである。


「まとまったのはいいけど、写真も釣書もなしなんて。相手の方はそれでいいのかしらね」


母が今更ながら不安になったようだ。


「こだわりがないのよ、きっと」


伯母はケーキの残りをフォークで刺しつつ、明るく笑う。


(こだわらないって……誰でもいいってこと?)


彩子は多少の落胆を覚えた。


「まあ、お見合いと言うより、私の紹介で二人で会ってみるって感じね」


伯母は気楽そうだが、当の本人は気になるので訊いてみる。


「じゃあ、着物を着たりしなくていいの?」

「もちろんよ! 普通の格好で、普通の感覚で行けばいいのよ。場所もホテルとか高級な場所じゃなくて、N駅ビルの10階にある……ええと、『アベンチュリン』っていうレストランを、午後7時に予約するようにしたわ」

「アベンチュリン?」


そのレストランなら、以前、新井主任とランチに出かけたことがある。

料理の味付けが好みで、とても美味しかった。エキゾチックな雰囲気の素敵なお店に、また行きたいと思っていたのだ。


「私は何を着ればいいのかね?」


母が言うと、伯母はかぶりを振る。


「だから、二人で会うのよ、二人で」

「ええ~っ」


彩子は母と一緒に、驚きの声を上げた。


「いくらなんでも気軽すぎじゃない? その人、安全な方なんでしょうね」


訊きにくいことを平気で口にする母が、今は頼もしい。


「失礼ね。私の信頼できる人しか紹介しないわよ。会うのは街の真ん中だし、彩子ちゃんも子どもじゃないんだから大丈夫よ。ねえ」

「う、うん」


とりあえず、子どもでないのは確かだ。


「ふうん、そうなの。時代は変わったのねえ」


話はついたようで、母と伯母はさっさと買い物に出かけてしまった。



「明日か……水曜日は仕事も忙しくないから早く帰れるし。あっ」


カレンダーを見ながら、彩子はハッとする。


「クリスマスイブだ」


ドラマなんかだと、イブに運命の人と出会ったり、プロポーズされたり、恋のイベントが起きるのだが、現実はどうなんだろう。


「わっ、どうしよう。何を着ていこうか」


期待と不安に包まれ、浮足立ってしまう。

彩子はオロオロしながら、お見合いの準備に取り掛かった。







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