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祝福の声
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「おめでとうございます! 彩子、打ち掛けがすっごく似合ってる。可愛いなあ~」
「ありがとう、まり」
「それに良樹さんも、紋付袴姿が素敵すぎる~。やっぱり武道家は和服が似合うわよねえ」
まりはうっとりと木村を見つめる。彩子は良樹と目を合わせ、思わず微笑んだ。
「先輩、おめでとうございます。押忍!」
後ろから平田が顔を出した。
「お、平田か。ありがとう」
「おお~、彩子さん。実にお美しいですな。先輩、惚れ直したでしょう」
良樹はニヤリと笑い、
「ああ、惚れ直してるよ。さっきからず~っとな」
「うわっ、ごちそうさまです!」
平田が首をすくめると、皆楽しそうに笑った。
「おっ、来たぞ」
のしのしと歩いてくるのは、後藤怜人である。
「お二人さん、本日はおめでとうございます!」
大柄な体に大きな声。後藤は一斉に注目を浴びた。
「ありがとうございます、後藤さん」
「へえ~、彩子ちゃんも今日はえらく大人っぽいな。やっぱ花嫁さんは違うな」
後藤は真面目に感心している。
「智子が頑張れよって応援してたぜ」
「え……」
会えなくても、気持ちが伝わってくる。彩子は親友を思い浮かべ、心で返事をした。
「子どもはどうだ、調子いいか」
良樹が訊くと後藤は相好を崩し、
「もうね、日に日に大きくなってる感じだ。あの調子じゃ2、3年で成人しそうだぜ」
いつもの冗談口調になり、嬉しそうに笑った。
暫くすると田山課長と新井主任が現れた。二人はお祝いを述べて良樹を見上げ、感嘆の声を漏らす。
「う~む、実に立派な青年だ。彩子ちゃん、よかったなあ」
「前にチラッと見た時も思ったんだけど、原田さんってサムライっぽいわあ。和服がすごく似合って、かっこいい!」
「サ、サムライですか?」
良樹は戸惑うが、大真面目な新井に、少し赤くなって礼を言った。
最後にやってきたのは、良樹の会社の同期、志摩秀明だ。
「おお、原田。え~と、本日はまことにおめでとうございます。彩子さん、はじめまして。僕は原田と同期の、志摩秀明と申します」
「はじめまして。ありがとうございます」
「……そうですか、あなたが彩子さんですか」
志摩はしげしげと彩子を見つめ、納得の顔になる。
「お前が言うとおりの、きれいな女性だ」
良樹の肩をぽんと叩き、会場に入っていく。きょとんとする彩子に、良樹は照れくさそうに微笑んだ。
招待客が集うと、披露宴会場の扉は一旦閉められる。新郎新婦はその前に立ち、あらためて披露宴が始まる合図を待つ――という段取りだ。
すぐに合図はなく、進行を担当するスタッフが、仲人の魚津夫妻に入場の確認をしに行く。
会場前に、良樹と彩子は二人きりになった。
先ほどまで大勢の来賓で賑わっていた空間が、今はとても静かである。ガラス張りの外、樹齢何百年にもなる神木の、緑のざわめきが聞こえてきそうなほど……
彩子はその静けさに、なぜだか昂ぶってきて、良樹の手を取るとぎゅっと握った。ここにきて、感極まっている。
「良樹」
「緊張してるのか」
「ううん、私……」
「どうした」
良樹は心配そうな目で、彩子の白い面を覗き込む。
「信じられなくて。ここに、あなたと立っていることが、信じられなくて、怖くて……」
彩子の唇は震えている。支えていないと倒れそうに体を揺らしている。
「彩子」
良樹は花嫁の肩を抱き、言い聞かせるように、優しく囁いた。
「今、志摩が言ったろう。きれいな女性だって」
「……」
「本当に、君はきれいだ」
彩子は俯いている。涙が零れそうだった。
「君は蛍石」
「……」
彩子は顔を上げ、良樹を見つめた。彼女の潤んだ瞳に、世界で一番大切な人が映っている。
「きれいで優しい、俺の大好きなフローライトだよ」
「良樹」
彩子の脳裡に、良樹との出会い、それから起こったさまざまなできごと、さまざまな思いが去来し、揺れる心を温かく満たした。
「良樹、私……もう大丈夫。愛してる、あなたを」
「そうだ、俺も……」
良樹は言いかけると、あらたまって背筋を伸ばした。
「今日は特別だぞ。何度も言わない。よく聞いておけ」
「はい」
「俺も、愛してる。ずっと君を愛してるよ」
木漏れ日に包まれ、彩子は笑う。
幸せに満ちた、とてもきれいな微笑み。
おめでとう――
祝福が聞こえる。それは柔らかで優しい、緑の声。
ありがとう――
良樹に寄り添い、彩子は幸せな花嫁になった。
<終>
「ありがとう、まり」
「それに良樹さんも、紋付袴姿が素敵すぎる~。やっぱり武道家は和服が似合うわよねえ」
まりはうっとりと木村を見つめる。彩子は良樹と目を合わせ、思わず微笑んだ。
「先輩、おめでとうございます。押忍!」
後ろから平田が顔を出した。
「お、平田か。ありがとう」
「おお~、彩子さん。実にお美しいですな。先輩、惚れ直したでしょう」
良樹はニヤリと笑い、
「ああ、惚れ直してるよ。さっきからず~っとな」
「うわっ、ごちそうさまです!」
平田が首をすくめると、皆楽しそうに笑った。
「おっ、来たぞ」
のしのしと歩いてくるのは、後藤怜人である。
「お二人さん、本日はおめでとうございます!」
大柄な体に大きな声。後藤は一斉に注目を浴びた。
「ありがとうございます、後藤さん」
「へえ~、彩子ちゃんも今日はえらく大人っぽいな。やっぱ花嫁さんは違うな」
後藤は真面目に感心している。
「智子が頑張れよって応援してたぜ」
「え……」
会えなくても、気持ちが伝わってくる。彩子は親友を思い浮かべ、心で返事をした。
「子どもはどうだ、調子いいか」
良樹が訊くと後藤は相好を崩し、
「もうね、日に日に大きくなってる感じだ。あの調子じゃ2、3年で成人しそうだぜ」
いつもの冗談口調になり、嬉しそうに笑った。
暫くすると田山課長と新井主任が現れた。二人はお祝いを述べて良樹を見上げ、感嘆の声を漏らす。
「う~む、実に立派な青年だ。彩子ちゃん、よかったなあ」
「前にチラッと見た時も思ったんだけど、原田さんってサムライっぽいわあ。和服がすごく似合って、かっこいい!」
「サ、サムライですか?」
良樹は戸惑うが、大真面目な新井に、少し赤くなって礼を言った。
最後にやってきたのは、良樹の会社の同期、志摩秀明だ。
「おお、原田。え~と、本日はまことにおめでとうございます。彩子さん、はじめまして。僕は原田と同期の、志摩秀明と申します」
「はじめまして。ありがとうございます」
「……そうですか、あなたが彩子さんですか」
志摩はしげしげと彩子を見つめ、納得の顔になる。
「お前が言うとおりの、きれいな女性だ」
良樹の肩をぽんと叩き、会場に入っていく。きょとんとする彩子に、良樹は照れくさそうに微笑んだ。
招待客が集うと、披露宴会場の扉は一旦閉められる。新郎新婦はその前に立ち、あらためて披露宴が始まる合図を待つ――という段取りだ。
すぐに合図はなく、進行を担当するスタッフが、仲人の魚津夫妻に入場の確認をしに行く。
会場前に、良樹と彩子は二人きりになった。
先ほどまで大勢の来賓で賑わっていた空間が、今はとても静かである。ガラス張りの外、樹齢何百年にもなる神木の、緑のざわめきが聞こえてきそうなほど……
彩子はその静けさに、なぜだか昂ぶってきて、良樹の手を取るとぎゅっと握った。ここにきて、感極まっている。
「良樹」
「緊張してるのか」
「ううん、私……」
「どうした」
良樹は心配そうな目で、彩子の白い面を覗き込む。
「信じられなくて。ここに、あなたと立っていることが、信じられなくて、怖くて……」
彩子の唇は震えている。支えていないと倒れそうに体を揺らしている。
「彩子」
良樹は花嫁の肩を抱き、言い聞かせるように、優しく囁いた。
「今、志摩が言ったろう。きれいな女性だって」
「……」
「本当に、君はきれいだ」
彩子は俯いている。涙が零れそうだった。
「君は蛍石」
「……」
彩子は顔を上げ、良樹を見つめた。彼女の潤んだ瞳に、世界で一番大切な人が映っている。
「きれいで優しい、俺の大好きなフローライトだよ」
「良樹」
彩子の脳裡に、良樹との出会い、それから起こったさまざまなできごと、さまざまな思いが去来し、揺れる心を温かく満たした。
「良樹、私……もう大丈夫。愛してる、あなたを」
「そうだ、俺も……」
良樹は言いかけると、あらたまって背筋を伸ばした。
「今日は特別だぞ。何度も言わない。よく聞いておけ」
「はい」
「俺も、愛してる。ずっと君を愛してるよ」
木漏れ日に包まれ、彩子は笑う。
幸せに満ちた、とてもきれいな微笑み。
おめでとう――
祝福が聞こえる。それは柔らかで優しい、緑の声。
ありがとう――
良樹に寄り添い、彩子は幸せな花嫁になった。
<終>
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