琥珀色の花嫁

藤谷 郁

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ラルフとミア

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「森の番人様というのは、旅人を守ってくださるのがお仕事だと本に書いてありました。あなた様をひと目見て、ああ、このお方がそうなのだと分かったのです。とてもお優しそうで、お強そうで、ご立派な方」
 ルズはミアの肩から離れると、パタパタと飛んで食堂から出て行ってしまった。我慢が出来なかったのだろう。

 おかしくて――

 ラルフも苦笑するほかなかった。
「それは一体、どこの森の話だ。この暗黒の森では、お優しいことをやっていては番人など務まらん。昨日も言ったように、助けるばかりが仕事ではない」
「でも、私のことは助けてくださいました」
「それは……だ」

 ラルフは胸中で舌打ちする。面倒なやつだと思った。さっさと琥珀をいただいて、その後はやはり魔物に呑ませてしまおう。
 料理の腕は惜しいが、やはり弱い人間というのはやっかいものだ。
「まあそうだな。私はお前を助けた」
 そういうことにしておこう。真実など、もはやどうでもいい。
「はい、ありがとうございます」
 ミアは嬉しそうに微笑む。笑うと、少女らしい面差しになった。
「何か、あなた様にお礼ができれば良いのですが」
「お礼?」

 ラルフは片方の眉をぴんと上げる。
「はい。お掃除でもお洗濯でも、私にできることなら何でも……あっ、でも」
 ミアははっとなって辺りを見回し、それから小声になって尋ねた。
「あの、失礼ですが、奥様はいらっしゃるのですか」
 ラルフは口の端で笑うと、さらりと答える。
「つい最近別れてね。今は独り身だ」
 嘘はついていない。本当のことだし、これもどうでもいい話である。

 しかしミアが気の毒そうに眉を寄せるのが、ラルフの気に障った。いきなりミアの胸もとを指差すと、はっきりと要求する。
「礼がしたいのなら、その琥珀を私にくれないか」
「えっ……こはく?」
「ああ、ペンダントに付いている琥珀だ」
 ミアは、あっという顔になると、胸もとの革紐をたぐる。その先に結ばれた黒い石を手の平にのせ、ラルフに見せた。

「これ、でしょうか」
「おお……」
 滑らかな表面の、漆黒の琥珀。不思議な光を内包する、魅惑的な化石だ。
 ラルフは思わずテーブル越しに手を伸ばすが、石を掴む寸前、ミアがふいと避けた。
「!?」
「申しわけございません。これだけは……」
 目を伏せて、小さな声で詫びる。声は弱々しいが、琥珀を握りしめる手はぶるぶると震え、力が入っているのが分かる。

「駄目なのか」
「はい」
「……」
 奪おうと思えばいつでも奪える。しかしラルフは、力づくというのは美しくないと感じている。
 貴い宝は、持ち主にいい思いをさせてやり、その見返りという形で手に入れるのが彼の理想だ。過去の妻達の宝石も、そうやっていただいてきた。
 宝石だけではない。若さも、魅力も、人生も、根こそぎに……
「仕方ないな」
 ラルフは妥協した。あまりにも好みとかけ離れているが、それでいくことにする。怯える娘を真っ直ぐに見据え、それを告げた。
「では、ミア。私の妻になってくれないか」


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