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ブラックリスト客その2と泊留美佳 (店長 江尻克巳)
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江尻のブラックリストに載る人物が次々とやって来る。次は三十代の小太りの男だった。頻繁に姿を現す問題クレーマーだった。とにかくねちこくまとわりつく粘着質の性格で、クレームは必ず自分より弱いと位置づけたクルーに向ける。だから男性クルーや中年主婦パートの多い時間帯に彼が姿を現すことはなかった。
彼はいつも歩いてくるので、店内に入って来ない限り、出現したと認識することはできなかった。だから彼の姿を認めたときには、すでに彼は四番の泊留美佳の前にいた。
現在のカウンターの顔ぶれを見て、明らかに意識的に留美佳を選んだのである。すでに遥は富貴恵を連れて奥へ行ったのでこの場にはいない。ここは自分が背後でフォローしなければなるまいと江尻は考えた。
この男はとにかく波長を合わさないようにすることにかけて天才だった。まさに不協和音のスペシャリスト。留美佳がオーダーを打ち込んでいるその瞬間に次のオーダーを小声で口にする。聞き逃した留美佳が聞きなおすと、すぐ不快な表情を浮かべてプレッシャーをかけてきた。
「オレンジジュースは氷抜きにしてくれ、エムサイズでね。それからポテトは塩少なめで、できるだけ乾いたところを頼む。この間やけにしけていたからね……」
これがファーストフードの注文かと首を傾げたくなる。
留美佳が彼にあたったのは初めてだった。噂には聞いているはずだが、全く気づいていないのか、変わらぬマイペースで動いている。それでいいと江尻は思った。何かあれば自分が出て行く用意はしていた。
「ストローは挿さなくていいって言っただろう!」
突然切れ始めた。店内で食べる時飲み物にストローを挿して渡すことが多い。もちろん客には確認をとるのだが、氷を入れていないことを確認するうちに、ストローを挿すかどうかの確認を忘れ、ついうっかり挿してしまったのだ。彼は必ず自分でストローを挿すタイプだった。しかし「ストローは挿さなくていい」と言うのはいつものことであるものの、今日はその話題すら出なかったのだから、彼が今日そう言ったというのは間違いである。
「申し訳ありません」と留美佳は平謝りするだけだ。顔に極度に緊張が走っている。このままでは第二、第三のミスをしでかしかねない。
「お取替えいたします」と江尻は彼に声をかけた。すでに新しい氷なしドリンクを手にしていた。
「店長か、相変わらず新人の教育が行き届いていないな」
「申し訳ありません、至らぬところが少なからずございますが、日々指導を行っておりますので、どうかご容赦ください。以後気をつけます」
お決まりの文句を冷ややかな目で聞いただけで、それ以上の絡みはなかった。
「それにしても、氷がないとこんなに量が少ないのか。これではSサイズだな」
いつもと同じ量で間違いない。それは彼も知っているはずだ。
彼はトレイを手にして、入り口近くのカウンター席へと移った。クルーの目の届くところに必ずいる。それはクルーに無言の圧力をかけるに十分な行為だった。
とりあえず江尻は胸をなでおろす。あとはバーガーやポテトの仕上がりに対するクレームがないかどうかだ。最悪の場合、取替えで対応できるのだ。
とにかくこの手の客は少々コストがかかっても静かに甘い対応を返すしかない。中途半端に毅然とした態度をとろうとすると、無闇矢鱈騒ぎ出すのだ。
彼はいつも歩いてくるので、店内に入って来ない限り、出現したと認識することはできなかった。だから彼の姿を認めたときには、すでに彼は四番の泊留美佳の前にいた。
現在のカウンターの顔ぶれを見て、明らかに意識的に留美佳を選んだのである。すでに遥は富貴恵を連れて奥へ行ったのでこの場にはいない。ここは自分が背後でフォローしなければなるまいと江尻は考えた。
この男はとにかく波長を合わさないようにすることにかけて天才だった。まさに不協和音のスペシャリスト。留美佳がオーダーを打ち込んでいるその瞬間に次のオーダーを小声で口にする。聞き逃した留美佳が聞きなおすと、すぐ不快な表情を浮かべてプレッシャーをかけてきた。
「オレンジジュースは氷抜きにしてくれ、エムサイズでね。それからポテトは塩少なめで、できるだけ乾いたところを頼む。この間やけにしけていたからね……」
これがファーストフードの注文かと首を傾げたくなる。
留美佳が彼にあたったのは初めてだった。噂には聞いているはずだが、全く気づいていないのか、変わらぬマイペースで動いている。それでいいと江尻は思った。何かあれば自分が出て行く用意はしていた。
「ストローは挿さなくていいって言っただろう!」
突然切れ始めた。店内で食べる時飲み物にストローを挿して渡すことが多い。もちろん客には確認をとるのだが、氷を入れていないことを確認するうちに、ストローを挿すかどうかの確認を忘れ、ついうっかり挿してしまったのだ。彼は必ず自分でストローを挿すタイプだった。しかし「ストローは挿さなくていい」と言うのはいつものことであるものの、今日はその話題すら出なかったのだから、彼が今日そう言ったというのは間違いである。
「申し訳ありません」と留美佳は平謝りするだけだ。顔に極度に緊張が走っている。このままでは第二、第三のミスをしでかしかねない。
「お取替えいたします」と江尻は彼に声をかけた。すでに新しい氷なしドリンクを手にしていた。
「店長か、相変わらず新人の教育が行き届いていないな」
「申し訳ありません、至らぬところが少なからずございますが、日々指導を行っておりますので、どうかご容赦ください。以後気をつけます」
お決まりの文句を冷ややかな目で聞いただけで、それ以上の絡みはなかった。
「それにしても、氷がないとこんなに量が少ないのか。これではSサイズだな」
いつもと同じ量で間違いない。それは彼も知っているはずだ。
彼はトレイを手にして、入り口近くのカウンター席へと移った。クルーの目の届くところに必ずいる。それはクルーに無言の圧力をかけるに十分な行為だった。
とりあえず江尻は胸をなでおろす。あとはバーガーやポテトの仕上がりに対するクレームがないかどうかだ。最悪の場合、取替えで対応できるのだ。
とにかくこの手の客は少々コストがかかっても静かに甘い対応を返すしかない。中途半端に毅然とした態度をとろうとすると、無闇矢鱈騒ぎ出すのだ。
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