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外道 (チーフ 松原康太)
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その日は暑かった。昼から閉店までの勤務だった康太だが、さすがに夕方には汗びっしょりとなってしまった。エアコンを効かしているとはいうものの、油を扱うキッチンはかなり過酷な環境となっていた。
康太はチーフの権限を生かして、長めの休憩をとりマンションでシャワーを浴びることにした。
幸い店長は本社を訪問している。店には宮本遥がいるから、ベテランの主婦パートとともに何とか一時間くらい任せられるだろうと思ったのだった。
クルーの顔ぶれはレジカウンターが蒲田、赤塚、そして主婦パート、キッチンには小野田、西に主婦パート。問題を起こすスタッフがいないことを確認して康太は店を出た。
西日が顔を襲い、まぶしくて康太は額に手をかざしつつ歩いた。少し歩いただけでさらにじっとりと汗が噴き出てくる。今日は紛れもない真夏日だった。
六時過ぎにマンションに戻ることは少ない。予期はしていたが、玄関に男女の履物がワンペアあるのを見つけて、康太は憂鬱になった。
耳をすますまでもなく、康太の部屋から女の声が聞こえてくる。規則的に振動するベッドの音。女はかん高い声でよがっていた。
康太は溜息をついて浴室に入り、シャワーを浴びた。
どうせ御木本に違いない。康太はスペアキーを気に入った女性にしか渡していなかった。しかしどうやって手に入れたのか、やがて御木本がキーを所有していることに康太は気づいた。でなければ見知らぬ女と御木本のペアがこの部屋に入ることができるはずもないのだ。
(まったく、だれががあいつに渡したんだ……)
康太はあれこれと女たちの顔を思い浮かべたが、正解にたどりつくはずもなかった。
(御木本はいずれ切らなければならないな……)
シャワーを浴びながら康太は考えた。メイが指摘したように、あいつは好きなようにここを利用しているだけだ。何の役にもたたず、むしろ将来害になる可能性もあった。それに瀧本あづさに御木本はふさわしくない。
「草」のことをぺらぺら喋らさずに御木本を切り捨てる方法、康太はそればかり思案した。
バスタオル一枚の格好で浴室を出た。
リビングはエアコンをがんがんに効かせていたので扇風機をつければ完璧だった。しかし着替えは今御木本たちがいる自分の部屋にある。しばらく待って、部屋が静かになったところで、康太は思い切り、部屋をノックした。
「御木本、入るぞ」
ドアが中から開き、まずいところを見られてしまって照れ笑いをする御木本の顔が現れた。どうやらパンツだけは穿いたようだった。真っ赤なボクサーブリーフの腰が後ろへ引けていた。不恰好な男。
「今日はおはやいですねえ」
「あまりに暑かったんでシャワーを浴びに帰ってきたんだ。着替えを取りに入るぞ、ここは俺の部屋だからな」
中にいた女が慌ててシーツを纏った。素っ裸であることは、そのあたりにこれ見よがしに散らばったピンクのショーツやらブラジャーやらでわかった。他にも白いシャツ、キュロットスカート、そして真っ白のハイソックス。何だかやけに子供っぽい格好だなと、康太は女の方に目をやった。
知っている女かどうか確認するためだったが、シーツにくるまれてもじもじ見上げる小柄な女の顔をみて、あっと息を呑んだ。
それは明葉ビル店クルーの泊留美佳だった。
「お、俺のおっかけの一人っす」
御木本が説明した。
「良かったら、一晩貸しますよ」と、御木本は自分の持ち物であるかのように留美佳を扱った。品物を披露するかのように留美佳からシーツを奪い取り、その全裸を康太に見せつけた。
身長百五十センチくらいの小さな体に、丸顔に見合ったような丸いふっくらとした乳房が二つ。股間に手をあてて正座のように坐っていたが、御木本に言われて足をこちらに投げ出して開いた。意外に濃い陰毛、ほとんど手入れなどしていないのだろう。幼さだけが伝わった。
「もういい、お前の女など興味ない。俺はまだ仕事があるから戻る」
康太は箪笥から適当な着替えを取り出した。そして間が持たない格好で突っ立っている御木本に向かって訊いた。
「お前らはいつからの付き合いだ?」
「二年くらいになるっすかね、といってもファンのうちの一人っす」
「うちの店の瀧本と付き合っているんじゃなかったのか?」
「おや、よく知ってますね、さすがは松原さん。しかしあいつとはしばらくご無沙汰です。すぐ濡れるくせになかなかやらせてくれないんすよ。ここにも連れてきたことがあったんですが、表札をみてピンときたらしく、中へ入らず帰っていきました。それにひきかえ、こいつは俺に忠実でして、適当な女がいない時はこいつを呼ぶようにしています。いつだって喜んできますよ、こいつは」
へどが出そうな台詞だったが、顔には出さず、康太は部屋を出た。
QSの服を着ている最中に再び小さな女の声が聞こえてきた。
あれが泊留美佳の声かと康太は嘆息を漏らした。すっかり子供だと思っていたが完全な思い違いだった。まだまだ自分の目利きは穴がありすぎる。
最近の女の子は進んでいるとは思っていたが、まさか留美佳のようなふつうそうな高校一年生がよがり声を上げるとは信じられない思いだった。それも二年前というから中学二年生くらいから御木本とやっているというらしい。世も末だった。
康太はベッドの振動音を耳にしながら、マンションを後にした。
康太はチーフの権限を生かして、長めの休憩をとりマンションでシャワーを浴びることにした。
幸い店長は本社を訪問している。店には宮本遥がいるから、ベテランの主婦パートとともに何とか一時間くらい任せられるだろうと思ったのだった。
クルーの顔ぶれはレジカウンターが蒲田、赤塚、そして主婦パート、キッチンには小野田、西に主婦パート。問題を起こすスタッフがいないことを確認して康太は店を出た。
西日が顔を襲い、まぶしくて康太は額に手をかざしつつ歩いた。少し歩いただけでさらにじっとりと汗が噴き出てくる。今日は紛れもない真夏日だった。
六時過ぎにマンションに戻ることは少ない。予期はしていたが、玄関に男女の履物がワンペアあるのを見つけて、康太は憂鬱になった。
耳をすますまでもなく、康太の部屋から女の声が聞こえてくる。規則的に振動するベッドの音。女はかん高い声でよがっていた。
康太は溜息をついて浴室に入り、シャワーを浴びた。
どうせ御木本に違いない。康太はスペアキーを気に入った女性にしか渡していなかった。しかしどうやって手に入れたのか、やがて御木本がキーを所有していることに康太は気づいた。でなければ見知らぬ女と御木本のペアがこの部屋に入ることができるはずもないのだ。
(まったく、だれががあいつに渡したんだ……)
康太はあれこれと女たちの顔を思い浮かべたが、正解にたどりつくはずもなかった。
(御木本はいずれ切らなければならないな……)
シャワーを浴びながら康太は考えた。メイが指摘したように、あいつは好きなようにここを利用しているだけだ。何の役にもたたず、むしろ将来害になる可能性もあった。それに瀧本あづさに御木本はふさわしくない。
「草」のことをぺらぺら喋らさずに御木本を切り捨てる方法、康太はそればかり思案した。
バスタオル一枚の格好で浴室を出た。
リビングはエアコンをがんがんに効かせていたので扇風機をつければ完璧だった。しかし着替えは今御木本たちがいる自分の部屋にある。しばらく待って、部屋が静かになったところで、康太は思い切り、部屋をノックした。
「御木本、入るぞ」
ドアが中から開き、まずいところを見られてしまって照れ笑いをする御木本の顔が現れた。どうやらパンツだけは穿いたようだった。真っ赤なボクサーブリーフの腰が後ろへ引けていた。不恰好な男。
「今日はおはやいですねえ」
「あまりに暑かったんでシャワーを浴びに帰ってきたんだ。着替えを取りに入るぞ、ここは俺の部屋だからな」
中にいた女が慌ててシーツを纏った。素っ裸であることは、そのあたりにこれ見よがしに散らばったピンクのショーツやらブラジャーやらでわかった。他にも白いシャツ、キュロットスカート、そして真っ白のハイソックス。何だかやけに子供っぽい格好だなと、康太は女の方に目をやった。
知っている女かどうか確認するためだったが、シーツにくるまれてもじもじ見上げる小柄な女の顔をみて、あっと息を呑んだ。
それは明葉ビル店クルーの泊留美佳だった。
「お、俺のおっかけの一人っす」
御木本が説明した。
「良かったら、一晩貸しますよ」と、御木本は自分の持ち物であるかのように留美佳を扱った。品物を披露するかのように留美佳からシーツを奪い取り、その全裸を康太に見せつけた。
身長百五十センチくらいの小さな体に、丸顔に見合ったような丸いふっくらとした乳房が二つ。股間に手をあてて正座のように坐っていたが、御木本に言われて足をこちらに投げ出して開いた。意外に濃い陰毛、ほとんど手入れなどしていないのだろう。幼さだけが伝わった。
「もういい、お前の女など興味ない。俺はまだ仕事があるから戻る」
康太は箪笥から適当な着替えを取り出した。そして間が持たない格好で突っ立っている御木本に向かって訊いた。
「お前らはいつからの付き合いだ?」
「二年くらいになるっすかね、といってもファンのうちの一人っす」
「うちの店の瀧本と付き合っているんじゃなかったのか?」
「おや、よく知ってますね、さすがは松原さん。しかしあいつとはしばらくご無沙汰です。すぐ濡れるくせになかなかやらせてくれないんすよ。ここにも連れてきたことがあったんですが、表札をみてピンときたらしく、中へ入らず帰っていきました。それにひきかえ、こいつは俺に忠実でして、適当な女がいない時はこいつを呼ぶようにしています。いつだって喜んできますよ、こいつは」
へどが出そうな台詞だったが、顔には出さず、康太は部屋を出た。
QSの服を着ている最中に再び小さな女の声が聞こえてきた。
あれが泊留美佳の声かと康太は嘆息を漏らした。すっかり子供だと思っていたが完全な思い違いだった。まだまだ自分の目利きは穴がありすぎる。
最近の女の子は進んでいるとは思っていたが、まさか留美佳のようなふつうそうな高校一年生がよがり声を上げるとは信じられない思いだった。それも二年前というから中学二年生くらいから御木本とやっているというらしい。世も末だった。
康太はベッドの振動音を耳にしながら、マンションを後にした。
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