気まぐれの遼 二年A組

hakusuya

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夕食の買い物

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 夕食の支度があるから放課後は長くは残らない。妹が腹を減らせて帰ってくるのを食事の用意をして待っているわけだ。よくできた専業主夫だとりょうは思った。
 マンションに一旦帰って着替え、炊飯器のセットをすませてから買い物に出た。
 近くのスーパーは早くも夕食の買い物で混み始めていた。時間がない時や、面倒な時は惣菜を買うこともあるが今日は比較的時間もあるので、材料から簡単に作れるものを考えた。
 適当に買い物かごに目についた素材を入れる。動物性タンパク質と野菜の炒め物は定番でもある。他に煮物や野菜の和え物が加えられればなお良いだろう。そんなことを考えていたら、先日マンションのエレベーターで一緒になった小学校低学年の双子を見つけた。
 双子は黒髪をワックスで立たせた若い男に纏わりついていた。その妹の方が遼に気づいた。
「お兄ちゃんも買い物なの?」
「そうだよ」
「晩御飯? お兄ちゃんが作っているの?」
「うん」
 そこに兄も加わった。「今日のおかずは?」
「いつも簡単なものだから、今日は鮭のエスカベッシュにしようかなと」
「エ、エ、エスカ……」
 兄妹で声が揃うところが面白い。香月かづき家ではすっかり見られなくなった光景だ。
「ほーちゃんもそういうのにしたら」妹の方が一緒にいる男の半袖を引いた。
「ん、何だって?」
 男はようやく遼の存在に気づいた。少し離れたところでデモンストレーションしているサイコロステーキに注意を向けていたようだ。
 その匂いは遼のところにも漂ってきていた。
「お、なんだい、そちらの兄さんも晩飯係か?」
「ふたごちゃんのお兄さんですか?」遼は訊ねた。
「「違うよ」」双子が答えた。
「こいつら鍵っ子でよく遊びに来るんだけど、オレも買い物しなくちゃなんねえので連れてきたんだよ」
「もしや同じマンションの?」遼は、この双子がエレベーターに途中から乗ってきて上の階へと向かったことを思い出した。
「二十九階に住んでる」
「ほーちゃん家、二階建てなんだよ」双子の兄が言った。
「二階建て?」
「メゾネットとかいうやつらしい」
「広いんだよ、お家みたい」双子の妹が言った。争って口を挟むところが可愛らしい。
「それは羨ましいね」
「住んでる人数も多いし、遊びに来る奴も多いからうるさいけどな」
「ほーちゃん、このお兄さんに教えてもらいなよ。何かね素敵な料理みたいだよ」
「いや、ただの魚と野菜をオリーブオイルで炒めるだけの料理だよ」遼は言った。
「何だって?」
「エスカ……」
「エスカベッシュ」遼は言った。「南蛮漬けかな」
 男はスマホで調べ始めた。「ふんふんなるほど。これならあいつらも良いと言うかな」
「ほーちゃん、ステーキに目が行ってたよ」
「匂いがするからだよ。それにデモのお姉さん、いけてね?」
 若い女性店員が炒めた小さな肉を楊子に差して客に振る舞っていた。スーパーの店員らしくないから出入り業者の出張デモンストレーションかもしれない。
「味見させてもらおうぜ」男が言い、双子の兄がついていく。
 妹の方は遼を窺った。
「じゃあボクも試食にあずかろうか」そう言うと双子の妹は「うん」と言ってニコッと笑った。
 小さすぎて味が今一つよくわからないが、軟らかかった。
「たくさん食べねえとわからないな」
 男はおかわりしそうな顔をして、女性店員は苦笑していた。
 結局男と双子は二つずつ試食し、遼もひとつもらった。
「いかがですか?」女性店員があざとい顔を遼に向けた。
「ごちそうさまです」とだけ遼は答えた。
 確かに軟らかいが味わうだけの量がない。
「お姉さん」男が指摘する。「小さすぎてよくわからないよ。デモするならもう少し大きくした方が良いよ。サイコロステーキをさらに小さく刻むなんて、これじゃ客も買わないよ」
「教えていただき、ありがとうございます」女性店員は自分より若い男に恐縮していた。
 デモの場を離れて買い物を続けた。なぜか双子と男が一緒についてくる。
「オレも何とかという南蛮漬け風のやつにするかな。ふだんこってりした中華とかB級グルメばかり作っているから、太ったとか言って怒られるんだよな。食ったのは自分だろって思うよ」
「きっと美味しいのでしょう」
「ありがとよ」男はニカッと笑った。
「そうだな」と男は双子を振り返った。「今晩は家で食べていくか?何ならお姉ちゃんの分も用意するぞ」
「それ、良い!」双子の兄が言う。
「どうしよう」妹の方はわずかに逡巡を見せた。「ほーちゃん家で食べてばかりだとお姉ちゃんに叱られる」
「大丈夫だよ、姉ちゃんにはオレがうまく言っておく。それに姉ちゃんにもうまいものを食べさせてやるんだから。一緒に作るか?」
「うん、そうする」
 何だか微笑ましい光景だと遼は思った。  
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