転生者がやって来たのに

裕雨(ゆう)

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転生者がやって来たのに

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 今日、新聞の一面には異世界人が五十年ぶりに転生して来たという記事でいっぱいだった。この国を支配する悪魔に対抗するためにも期待されていると言うことだった。

「ロンおじいちゃん転生者が来たんだって!ほら、新聞にこんなにも大きく出てるよ!」

 ロンおじいちゃんは新聞を受け取ると、記事を一通り見つめてからため息交じりに言った。

「また来たのか……」


「え、だめなの?悪い悪魔を倒してくれるかもって書いてるよ……」

「あー、そうじゃな。きっと転生者様が悪魔を倒してくださる」

 ロンおじいちゃんは僕の頭をしわしわになった手で撫でてくれた。



 時は戻って五十年程前──


「やった倒した!良くやった海斗!」

 ロンは海斗の側に走って駆け寄ると、まだしわしわではない手で海斗の頭を撫でた。

「ロン師匠のおかげです!これでこの国も悪魔に支配されずに済む」

 海斗は転生を果たして早一ヶ月で魔法をマスターし、転生者特有の神の加護によって無事に悪魔を討伐するのに成功した。街は活気づいた。住民は歓喜に満ち溢れ、悪魔を討伐した転生者を次の王に取り決めた。
 しかし幸せなのも束の間、転生者として転生してきた海斗は王の権力を乱暴に行使して、自分の有利な政治を始めるようになった。最初は国王の補佐として仕えていたロンも、王に歯向かった事で政治の中枢から追放された。
 国王の強欲により政治は悪い方にエスカレートしていき、遂にはこの国の悪魔とも呼ばれるようになったのだ。
 追放されたロンは実家に戻って来て、もう殆ど寝たきりの祖父に今の社会の情勢について話しをした。すると祖父は目を瞑ったままいった。

「歴史は繰り返しておる。わしも五十年程前にお前に聞いたものと同じものを実際に目にした。そして今の国王が倒した悪魔こそ、わしが魔法を教えた弟子でもあった。だからいつの日かまた、この世界に転生者が訪れ、この国の新しい悪魔を倒してくれる。そしてまた──」

「おじいちゃん?!」

「──そしてまた……繰り返す。永遠に……」

 そう言い終えるとロンの祖父はこの世を去った。



 そして現在──

 ロンおじいちゃんは僕の頭から手を離すと、窓の外を見つめて困ったように言った。

「そして歴史は繰り返される……」

「ロンおじいちゃんどうしたの?」

 僕は遠くを見つめるロンおじいちゃんに尋ねた。

「なあに、何でもないよ。さあ、今日も新しい魔法を教えてあげよう」
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