あなたが女友達を優先するなら、私は幼馴染みと幸せになるのでどうぞご自由に。

ぽんぽこ狸

文字の大きさ
1 / 79

1 女友達



「で、一応誘いに来たって訳なんだけど、エヴァーツ伯爵令嬢は来る?」

 気軽に問いかけられて、ヘルガは笑顔が引きつらないようにするのが大変だった。

 目の前にいる女性は、ヘルガの婚約者であるオスヴィンの肩に気軽に触れたり、顔に触れたり、我が物顔で隣に並んでいる。

 彼女はレディング伯爵家の令嬢でカリーナと言うらしい。

 オスヴィンからは、こうして顔を合わせる前から彼女のことをしょっちゅう聞いており、いわゆる彼の女友達であり親友と言うやつらしいのだ。

「おいおい、ヘルガに向かって来る? とかさすがに無礼だろ~! こいつは箱入りで冗談の通じないやつなんだから、騎士団の気軽なノリは通じないって」
「あははっ、そうだった、ごめんね? エヴァーツ伯爵令嬢様? あたしったらこういうところあるってよく言われて、あ、オスヴィンから聞いてる?」
「……いいえ」
「そうなんだ、あんま深い話? とかしない感じなんだね、あたしらと違って」

 カリーナはオスヴィンの肩に手を置いて体重をかけるように寄りかかり、気さくそうに笑う。
 
 たしかに、あまり深い交流を持っているわけでもないし、オスヴィンとは婚約者になって日も浅い。

 今まで別々に生きてきたのだ、ヘルガよりも仲の良い友人などごまんといるだろう。

 加えて騎士団というコミュニティに身を置いていれば、貴族という枠を超えて気さくに接する相手がいるのだって当然のことだ。
 
 (ええ、当然です。当然のことです……それは理解していますが……)

 カリーナの行動や言葉はあまりに攻撃性が高く、少なくともその所作でそれはもう深くつながりがあることは察せられる。

「そりゃそうさ、なんせ兄弟もいない跡取り令嬢なんだから、俺らと違って自由も少ない、その分お堅くてプライドも高い。そう簡単に打ち解けられないのさ。きっと気の知れた友人なんて……どうなんだよ? いるのか?」

 そしてその攻撃性をわかっていながらも、オスヴィンはヘルガを立てることはない。

 まるで他人のようにどうなんだと問いかけて、カリーナはその様子に「ちょっとぉ!」と大きな声を上げた。

「婚約者なのにかわいそう! もっと優しくしてあげないとモテないって」
「別にモテたいとか思ってないんだよな。俺はただ、気の知れた良い奴らと仕事して一緒に遊んでそういう人生が一番、充実してるって思うしな」
「ソレね! やっぱり婚約者より友達だなって、アハハ」

 笑いながら、カリーナはオスヴィンの腿をパチンとたたいて笑う。

 それにヘルガはいよいよ表情が引きつって「ははは」と乾いた笑いを返した。

「で? それで、遊猟会に来るのか? まぁ、周りは婚約者同伴はあんまいないと思うけど」
「まぁ、仕方ないよね。あたしたち、普通の貴族と違ってさ、遊びってよりも、本気のガチじゃん。そこに交じれるのなんて、あたしたちの先輩かよっぽど図太い人ぐらいじゃん?」
「だよな、で、どうする?」

 聞かれてヘルガは『ええもちろん参加しましょう』と言って、当日も彼らの雰囲気をぶち壊すためにど真ん中にいてやろうかと思った。

 それほど内心腹を立てていたし、ぐつぐつ煮立っていた。

 しかし、理性が必死になって仕事をし、しばらくの沈黙の後「……遠慮しておきます」とやっとの思いで返した。

「そか、そおだよね。あたしたちとかもう粗野っていうかなんて言うか、さ」

 カリーナはそれでもまだまだ言葉を紡ぐ。

 オスヴィンはうんうんと彼女の言葉を聞いて笑みを浮かべている。とても満足そうだ。

「ごめんね? エヴァーツ伯爵令嬢様。ほんとはさ、こうやって一緒に誘いに来たのってあんたを見極めようかなって気もあったんだ」
「おいおい、素直かって」
「いや、だってあたし、空気読むとか無理だから、男より男してるから」
「たしかに」
「オスヴィンはさ、割となんて言うかがさつじゃん? そういうところあるし、適当なとこも多いけど、でもさ、内心繊細で、優しいとこもあるし、わかる?」

 カリーナはヘルガがどんな顔をしていてもまったく黙る様子はない。

 むしろ楽しげに続ける。

「そういうやつがさ、変な婚約者に良いようにされないか心配で、友達、ってか、親友として?」
「……」
「でもよかった、良い子みたいで、ね、コイツのことさ、こんなだけど」

 言いながら、カリーナはオスヴィンに少し身を寄せて寄り添う。

「よろしくね? あたし、これでも友達思いなんだ」
「うわ、こわ~。お前が心配とか柄じゃなさ過ぎ」
「なんだとこのっ」

 そう言って二人はじゃれついている。ヘルガは猛烈な疎外感とそして彼らのたちの悪さに、奥歯をかみしめて、決意を固めたのだった。



感想 1

あなたにおすすめの小説

幼なじみと再会したあなたは、私を忘れてしまった。

クロユキ
恋愛
街の学校に通うルナは同じ同級生のルシアンと交際をしていた。同じクラスでもあり席も隣だったのもあってルシアンから交際を申し込まれた。 そんなある日クラスに転校生が入って来た。 幼い頃一緒に遊んだルシアンを知っている女子だった…その日からルナとルシアンの距離が離れ始めた。 誤字脱字がありますが、読んでもらえたら嬉しいです。 更新不定期です。 よろしくお願いします。

【改稿版・完結】その瞳に魅入られて

おもち。
恋愛
「——君を愛してる」 そう悲鳴にも似た心からの叫びは、婚約者である私に向けたものではない。私の従姉妹へ向けられたものだった—— 幼い頃に交わした婚約だったけれど私は彼を愛してたし、彼に愛されていると思っていた。 あの日、二人の胸を引き裂くような思いを聞くまでは…… 『最初から愛されていなかった』 その事実に心が悲鳴を上げ、目の前が真っ白になった。 私は愛し合っている二人を引き裂く『邪魔者』でしかないのだと、その光景を見ながらひたすら現実を受け入れるしかなかった。  『このまま婚姻を結んでも、私は一生愛されない』  『私も一度でいいから、あんな風に愛されたい』 でも貴族令嬢である立場が、父が、それを許してはくれない。 必死で気持ちに蓋をして、淡々と日々を過ごしていたある日。偶然見つけた一冊の本によって、私の運命は大きく変わっていくのだった。 私も、貴方達のように自分の幸せを求めても許されますか……? ※後半、壊れてる人が登場します。苦手な方はご注意下さい。 ※このお話は私独自の設定もあります、ご了承ください。ご都合主義な場面も多々あるかと思います。 ※『幸せは人それぞれ』と、いうような作品になっています。苦手な方はご注意下さい。 ※こちらの作品は小説家になろう様でも掲載しています。

(完)貴女は私の全てを奪う妹のふりをする他人ですよね?

青空一夏
恋愛
公爵令嬢の私は婚約者の王太子殿下と優しい家族に、気の合う親友に囲まれ充実した生活を送っていた。それは完璧なバランスがとれた幸せな世界。 けれど、それは一人の女のせいで歪んだ世界になっていくのだった。なぜ私がこんな思いをしなければならないの? 中世ヨーロッパ風異世界。魔道具使用により現代文明のような便利さが普通仕様になっている異世界です。

公爵令嬢の辿る道

ヤマナ
恋愛
公爵令嬢エリーナ・ラナ・ユースクリフは、迎えた5度目の生に絶望した。 家族にも、付き合いのあるお友達にも、慕っていた使用人にも、思い人にも、誰からも愛されなかったエリーナは罪を犯して投獄されて凍死した。 それから生を繰り返して、その度に自業自得で凄惨な末路を迎え続けたエリーナは、やがて自分を取り巻いていたもの全てからの愛を諦めた。 これは、愛されず、しかし愛を求めて果てた少女の、その先の話。 ※暇な時にちょこちょこ書いている程度なので、内容はともかく出来についてはご了承ください。 追記  六十五話以降、タイトルの頭に『※』が付いているお話は、流血表現やグロ表現がございますので、閲覧の際はお気を付けください。

[完結]婚約破棄してください。そして私にもう関わらないで

みちこ
恋愛
妹ばかり溺愛する両親、妹は思い通りにならないと泣いて私の事を責める 婚約者も妹の味方、そんな私の味方になってくれる人はお兄様と伯父さんと伯母さんとお祖父様とお祖母様 私を愛してくれる人の為にももう自由になります

私は既にフラれましたので。

椎茸
恋愛
子爵令嬢ルフェルニア・シラーは、国一番の美貌を持つ幼馴染の公爵令息ユリウス・ミネルウァへの想いを断ち切るため、告白をする。ルフェルニアは、予想どおりフラれると、元来の深く悩まない性格ゆえか、気持ちを切り替えて、仕事と婚活に邁進しようとする。一方、仕事一筋で自身の感情にも恋愛事情にも疎かったユリウスは、ずっと一緒に居てくれたルフェルニアに距離を置かれたことで、感情の蓋が外れてルフェルニアの言動に一喜一憂するように…? ※小説家になろう様、カクヨム様にも掲載しております。

言いたいことはそれだけですか。では始めましょう

井藤 美樹
恋愛
常々、社交を苦手としていましたが、今回ばかりは仕方なく出席しておりましたの。婚約者と一緒にね。 その席で、突然始まった婚約破棄という名の茶番劇。 頭がお花畑の方々の発言が続きます。 すると、なぜが、私の名前が…… もちろん、火の粉はその場で消しましたよ。 ついでに、独立宣言もしちゃいました。 主人公、めちゃくちゃ口悪いです。 成り立てホヤホヤのミネリア王女殿下の溺愛&奮闘記。ちょっとだけ、冒険譚もあります。

裏切りの先にあるもの

マツユキ
恋愛
侯爵令嬢のセシルには幼い頃に王家が決めた婚約者がいた。 結婚式の日取りも決まり数か月後の挙式を楽しみにしていたセシル。ある日姉の部屋を訪ねると婚約者であるはずの人が姉と口づけをかわしている所に遭遇する。傷つくセシルだったが新たな出会いがセシルを幸せへと導いていく。