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1 女友達
「で、一応誘いに来たって訳なんだけど、エヴァーツ伯爵令嬢は来る?」
気軽に問いかけられて、ヘルガは笑顔が引きつらないようにするのが大変だった。
目の前にいる女性は、ヘルガの婚約者であるオスヴィンの肩に気軽に触れたり、顔に触れたり、我が物顔で隣に並んでいる。
彼女はレディング伯爵家の令嬢でカリーナと言うらしい。
オスヴィンからは、こうして顔を合わせる前から彼女のことをしょっちゅう聞いており、いわゆる彼の女友達であり親友と言うやつらしいのだ。
「おいおい、ヘルガに向かって来る? とかさすがに無礼だろ~! こいつは箱入りで冗談の通じないやつなんだから、騎士団の気軽なノリは通じないって」
「あははっ、そうだった、ごめんね? エヴァーツ伯爵令嬢様? あたしったらこういうところあるってよく言われて、あ、オスヴィンから聞いてる?」
「……いいえ」
「そうなんだ、あんま深い話? とかしない感じなんだね、あたしらと違って」
カリーナはオスヴィンの肩に手を置いて体重をかけるように寄りかかり、気さくそうに笑う。
たしかに、あまり深い交流を持っているわけでもないし、オスヴィンとは婚約者になって日も浅い。
今まで別々に生きてきたのだ、ヘルガよりも仲の良い友人などごまんといるだろう。
加えて騎士団というコミュニティに身を置いていれば、貴族という枠を超えて気さくに接する相手がいるのだって当然のことだ。
(ええ、当然です。当然のことです……それは理解していますが……)
カリーナの行動や言葉はあまりに攻撃性が高く、少なくともその所作でそれはもう深くつながりがあることは察せられる。
「そりゃそうさ、なんせ兄弟もいない跡取り令嬢なんだから、俺らと違って自由も少ない、その分お堅くてプライドも高い。そう簡単に打ち解けられないのさ。きっと気の知れた友人なんて……どうなんだよ? いるのか?」
そしてその攻撃性をわかっていながらも、オスヴィンはヘルガを立てることはない。
まるで他人のようにどうなんだと問いかけて、カリーナはその様子に「ちょっとぉ!」と大きな声を上げた。
「婚約者なのにかわいそう! もっと優しくしてあげないとモテないって」
「別にモテたいとか思ってないんだよな。俺はただ、気の知れた良い奴らと仕事して一緒に遊んでそういう人生が一番、充実してるって思うしな」
「ソレね! やっぱり婚約者より友達だなって、アハハ」
笑いながら、カリーナはオスヴィンの腿をパチンとたたいて笑う。
それにヘルガはいよいよ表情が引きつって「ははは」と乾いた笑いを返した。
「で? それで、遊猟会に来るのか? まぁ、周りは婚約者同伴はあんまいないと思うけど」
「まぁ、仕方ないよね。あたしたち、普通の貴族と違ってさ、遊びってよりも、本気のガチじゃん。そこに交じれるのなんて、あたしたちの先輩かよっぽど図太い人ぐらいじゃん?」
「だよな、で、どうする?」
聞かれてヘルガは『ええもちろん参加しましょう』と言って、当日も彼らの雰囲気をぶち壊すためにど真ん中にいてやろうかと思った。
それほど内心腹を立てていたし、ぐつぐつ煮立っていた。
しかし、理性が必死になって仕事をし、しばらくの沈黙の後「……遠慮しておきます」とやっとの思いで返した。
「そか、そおだよね。あたしたちとかもう粗野っていうかなんて言うか、さ」
カリーナはそれでもまだまだ言葉を紡ぐ。
オスヴィンはうんうんと彼女の言葉を聞いて笑みを浮かべている。とても満足そうだ。
「ごめんね? エヴァーツ伯爵令嬢様。ほんとはさ、こうやって一緒に誘いに来たのってあんたを見極めようかなって気もあったんだ」
「おいおい、素直かって」
「いや、だってあたし、空気読むとか無理だから、男より男してるから」
「たしかに」
「オスヴィンはさ、割となんて言うかがさつじゃん? そういうところあるし、適当なとこも多いけど、でもさ、内心繊細で、優しいとこもあるし、わかる?」
カリーナはヘルガがどんな顔をしていてもまったく黙る様子はない。
むしろ楽しげに続ける。
「そういうやつがさ、変な婚約者に良いようにされないか心配で、友達、ってか、親友として?」
「……」
「でもよかった、良い子みたいで、ね、コイツのことさ、こんなだけど」
言いながら、カリーナはオスヴィンに少し身を寄せて寄り添う。
「よろしくね? あたし、これでも友達思いなんだ」
「うわ、こわ~。お前が心配とか柄じゃなさ過ぎ」
「なんだとこのっ」
そう言って二人はじゃれついている。ヘルガは猛烈な疎外感とそして彼らのたちの悪さに、奥歯をかみしめて、決意を固めたのだった。
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