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18 願い
彼女はオリヴァーの心配をわかっているのだ。けれどその上で納得がいっていない。
彼女には彼女なりの教示があって、それなりに頑固でさらに突然、不思議な行動をしたりもする。それについてオリヴァーは愛嬌があってなんともやみつきになる魅力だと思って……とその話はおいておくとする。
しばらく黙り込んで考えた後、ヘルガはチラリとオリヴァーを見上げた。
困った顔のまま、視線だけでダメ? と問いかけているみたいな瞳をしていて、それはヘルガの最後の抵抗だった。
彼女自身が自覚してそんな目をしているのかわからなかったが、その表情にオリヴァーは、ぐっと心臓が痛くなる。
(そんな甘えた顔しないでくれ……)
彼女の無意識の情に訴える作戦は見事に成功している。
しかし、仕事を代わりたいと思うのも彼女を思う故の感情だ。
以前はこんなにどうしようもなくなるほどヘルガに対しての想いはなかった。
ただ、幼い頃は心底傷ついた彼女を守ってあげなくてはという漠然とした気持ちがあってそれを約束もした。
しかし大人になって離れることになって、ヘルガからもう大丈夫だと言われて少し寂しく思ったが、それが自立というもので自分も彼女から自立する必要があった。
結局一緒にはなれないのだから、離れるしかない。離れて自分の生活と向き合うしないと納得した。
ただヘルガのことを考えないようにして日々を過ごして、けれど結局カリーナとオスヴィンのことがあって、自分に嘘をつけなくなった。
本当は、まだずっとヘルガのことを守っていたいし、そばにいたいしそうでないと苦しかった。
だから逆に言うと、こうしてそばにいればそれが楽になると思っていたから、ヘルガに求婚した。
「……でもっ、私の行動であなたに負担を……」
「負担じゃない。むしろ君に何かあるかもと気を揉んだり、君が嫌な目に遭っているのを見ると酷く心がすり減る。こんなに愛しているんだから当然だろ、わかってくれ、ヘルガ」
「……また、からかってるんですか。オリヴァー」
しかし、思う気持ちは募るばかりで以前は気にならなかったことにまで敏感になってヘルガが誰かに嫌な目に遭わされると考えるとどうしようもなく腹が立つ。
いっそのこと、マナーハウスの応接室でチェスをするだけでくだらない時間を過ごせるあの夜に、ヘルガを閉じ込めてしまいたい。
オリヴァーの感じる幸福とはなにか、今のこうして平穏に二人だけで過ごす時間だという言葉は真実だ。
この重すぎる気持ちが伝わらないようにニュアンスを変えてからかっているふうを装ったけれど、嘘は言っていなかった。
「からかってないし、本当のことだ。さ、渡してくれ」
「……大げさですよ。オリヴァーは、この仕事だってなんともない可能性が大きいのに」
「大げさじゃない、普通だ」
「大げさじゃなくないです」
ヘルガは最終的にオリヴァーの言葉に折れて、書類を手放す。すねたように言うヘルガの口調は子供っぽくて、無意識に彼女の頭に手を伸ばした。
「……」
「かわいいな」
「やっぱりからかってませんか」
「からかってないぞ」
頭を軽くなでて、思ったまま言葉にする。重い自覚はあるし、制御しているつもりでもいる。
(だから度が過ぎない程度に守らせてほしい。それが願いだ。今以上の幸せや幸福なんて、君が傷つく可能性があるならなにもいらないんだけどな)
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