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24 理由
「そう。うまくまとまってなによりね、ヘルガ。わたくしも協力した甲斐があって嬉しいわ。あのとき集まっていた貴族たちもよい成果が出て安心するでしょう」
イーリスはゆったりと紅茶を飲んで、ヘルガの報告に満足してくれた。
王城での話し合いからまだ数日しか経過して居ないので正式な処罰の決定はされていないが、ハイムゼート騎士団長からは、公爵という立場としても迷惑をかけた謝罪とお詫びの品が早速父の元へと届いていると聞いた。
その対応の早さを見る限り、騎士団の腐敗につながっていた原因は、騎士団長の方ではなく王家にあると見た方が妥当だろうというのが今のところのヘルガの見解だった。
「そうですね。イーリスにはとてもお世話になりました。あなたにもきちんとしたお礼をさせてくださいね」
「必要ないわね。なんせあの場にいたのはほとんどがわたくしと同派閥の不満を貯めていた貴族だもの。彼女たちからすれば、ヘルガを通じてわたくしが解決したも同然、わたくしにも利益があった」
「いえいえ、そうはいっても願い出たのは私でイーリスはそれを叶えてくれた立場でしょう? 対等な友人としてきちんとお礼をしたいのです」
ヘルガは当たり前のようにイーリスに対してお礼をしたいと伝えたが、イーリスもそれに当たり前のことのように必要ないと返してくる。
もちろんその言い分も理解できるが、恩は返したい。
それは、その恩を利用されてなにかをされることを警戒しているわけではなく、単純にヘルガの性分だ。
きっちりしたいたちなのである。
「いいえ、友人だからこそお互い様、堅苦しいことなど必要ないわ」
「いえいえ、友人だからこそ受けた恩はきちんと返すこれが鉄則です」
しかしイーリスも引かない。彼女はヘルガの良い友人だが、どうにもこういうところがあるのだ。
お礼を渡したところで、大したことではないとわかっているだろうに、ヘルガと同じで多少なりともイーリスは頑固である。
まぁ、そういった部分が、似たもの同士で馬が合う部分なのかもしれないが。
「……」
「……」
二人はニコニコしたまま見つめ合った。そうして応接室に一見和やかだが、お互い譲りたくない二人の探り合う時間が流れる。
ちなみにたまにこういうふうになる二人が、事務官見習いの時にはどうだったかというとここにオリヴァーがいて『イーリスとヘルガは仲が良いな』と笑っていただけだったので今とさして代わらない。
そして今日はオリヴァーは居ない、居たとしても代わらないけれど、女性同士で語らおうとお茶会を開いたのだ。
「……まったく、あなたってば頑固よね」
ふとイーリスがため息をついて頬に手を添えてそう言った。
(それはイーリスも大概だと思いますけれど)
思いつつも口には出さずに、ヘルガは少し微妙な顔をした。
「そうね。ならいいわ。聞かせてほしいことがあるのよ、それで貸しを返してもらいましょう」
「聞かせてほしいこと……ですか」
「ええ、そう。……話は、王家を中心とした派閥争いのことよ。わたくしはね、今回の件、その話に関連することだと思っているわ。さとい貴族ならそう捉えている人も多いでしょう」
イーリスは少し背筋を伸ばして真剣な表情をする。
「以前……たしか二十年程前のことだったかしらね」
「ああ、ええ。派閥の分断の話ですね。それは聞いたことがあります」
王家の派閥争い、それは確かにヘルガも知っていることであるが、最初の火種はヘルガたち若い世代の貴族が生まれる前の出来事だ。
「飢饉があった、当時の国の蓄えを自派閥の貴族だけに優先した王族、それに抗議した現国王の妹君」
「その王妹殿下は、騎士団の家系であり王族の傍系のハイムゼート公爵家へと嫁入りした。そして派閥は二つに割れています」
「その通り……その分裂は今でも残っている。それが少しずつまたバランスを崩していっている。きっとハイムゼート公爵令嬢が成人したことが起因しているわね」
イーリスは、考えるように唇に手を当てながら話をした。
(ハイムゼート公爵令嬢の成人ですか……たしかにそろそろそのような年頃ですね……ハイムゼート公爵家の派閥が活発になるのもわかります)
しかしだからといって、ヘルガはただの伯爵家の跡取り令嬢だ。
その公爵令嬢とつながりがあるわけでもない。
たしかに王家の派閥争い……というか王家に対しては思うところがあるが、当事者でも重要人物でもないのに何を聞きたいというのだろうか。
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