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14 脅し
しおりを挟むアルフィーは部屋の中を一瞥してナタリアを探した後、ベッドの中で小さくなっているナタリアを見つけ、イラついたような表情でずかずかとこちらにやってくる。
そばにいた使用人たちはみな、彼が来るとそそくさと下がっていく。
それに裏切られたような気持になるけれど、彼女たちと、貴族であるアルフィーとナタリアでは明確な違いがあって、守りたいと思っていても守れないことなど本当はナタリアだって知っているのだ。
「ナタリア! 何をしてるかと思えば、君、子供みたいに部屋に引きこもって、馬鹿なのか?
君の家族はもう誰もいないんだから、この屋敷にある魔法道具、それから領地運営に必要なものすべてに魔力を注いでおけといっただろ」
「っ、そんな、私、魔力が多い方じゃないって知ってるでしょっ」
腕を掴まれてナタリアはベッドから引きずり出された。
そのまま歩き出したアルフィーに強く腕を引かれて否応なしについていく。
「ハッ、だから何だ。何日かかっても、君の仕事をやるしかないだろ。それにいいのか? 君が魔力を注がなければこの領地は立ち行かない、そうしたらどうなる?
君は両親も姉妹もいない中で最後に残った居場所も失うことになるぞ」
アルフィーが速足で歩くのでナタリアは足がもつれて転んでしまいそうだった。
けれどもそんなことを言われたって、ナタリアの魔力量ではすべては賄えない。それこそ魔力失調になって倒れてしまう。
それにアルフィーだってナタリアの配偶者になったのだから、同じように魔力を負担するべきだろう。
お父さまとお母さまはそうしていた、お姉さまだって手伝っていた。
しかし、ナタリアは今まで手伝ってこなかった。
魔力は常用してきちんと訓練すればすこしずつだが多くなる。それは周知の事実だ。だからこそ魔力量と家格を見ればどんな風に過ごしていたのか大体わかるのだ。
もしあの時手伝っていたら、ナタリアにだってそれなりの魔力はあったかもしれない。
魔法だって、自由自在に姉のように使えたかもしれない、もしかしたら、借金の話にも気が付いて一緒に返済の為に動いていたかも。
「良いのか? 君の領地だろ、失ったら君の居場所はどこにもない。君を守っていた人間はみんないなくなったんだ、いい加減自覚してすこしは従順に━━━━」
「っ、誰がっ!」
思う所は色々ある。ナタリアは悪い所があった。
けれどもだからと言って、今彼に従うほどナタリアはお淑やかで気弱な女の子ではなかった。
アルフィーの手を振り払い、ナタリアはきつく睨みつけて決してそんな不平等な話を飲むものかと睨みつけた。
借金があろうとなかろうと、ナタリアたちは夫婦だろう。同じように責任を負う義務がある。
「アルフィー、あなただってっ」
しかし文句を言いかけたところで、彼はナタリアを突き飛ばし、やっぱり女の子なので難なくバランスを崩して廊下に転がった。
「っ、なんでこんなっ」
「様をつけろよ。……気丈に振る舞ったって所詮女は女、顔を殴ればさすがに俺の立場に傷が付くが、夫婦になったからには君に何をしようとも、俺は糾弾されない、それがどういうことかまだわからないからそんなに反抗的なのか?」
言いながら彼はナタリアの頬をぺちぺちと軽く打った。
……何をしても?
アルフィーが言ったことはまったく意味が分からずに、首をかしげて、乱れた髪を手櫛で梳かし、再度見上げた。
彼は下卑た笑みを浮かべて、ナタリアの首筋を撫でた。
「今更純情ぶったって遅いだろ、君は姉の婚約者を奪った泥棒女なんだから」
意味を察してぞくりとする。たしかにあの優しかったアルフィーと結婚したらいつかはと思っていたし、実際に軽い恋人のような触れ合いはあった。
しかし今の彼とそんな風になろうとはとても思えない。
なのに、そんな風に言う尊厳すらナタリアに認める気はないらしくアルフィーは無理やりに唇を重ねてくる。
「っん、っ」
けれどナタリアは、その唇にかみついて驚くアルフィーを思い切り怒鳴りつけた。
「あんたなんか、大っ嫌い! 最低よ!」
それを皮切りにクランプトン伯爵邸では二人の殴り合いの夫婦喧嘩が頻発するようになったのだった。
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