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22 真意
しおりを挟むアイリスはダンヴァーズ公爵領のとある村の情報を読みながら少しぼんやりとしていた。
情報を目で追ってはいるのに、どうにも集中できない。
得意な資金まわりの事情やあらかたの屋敷の構造、仕事などはあまりクランプトン伯爵家と変わりがなかったので簡単に覚えることができた。
しかし広大な領地のことについては、少しずつ頭に入れていくしかない。
寝る前の時間などに、ゆっくりと目を通すのがアイリスの最近の日課だ。
けれどもどうにも今日ばかりは集中できずに、書類つづりを机の上に置いてぼんやりと部屋を眺めながら、頭の中を占めている今日の出来事について考えた。
視界の端ではティナが忙しなくベットを整えている。
……今日の出来事は何というか、とても難しい話題で、このフェリティマ王国の行く先に大きくかかわるようなことでした。
そんな話を、嫁入り先でまさかこんなに身近に感じることがあるだなんて……とても不思議で、それに……。
ロザリンドとマイルズのあの様子を思い出す。
仮にも自分の息子に対してあんな風に他人行儀に接すること、それはとてもひどい事ではないだろうか。
アイリスは色々な事柄を聞いた後でも、思いだしてみると彼らの態度は冷たいものだったと思わざるを得ないし、それだけ人々の心を動かしてしまう、長年にわたる国の不運。
それに対するたくさんの人の色々な思い。
それらを一手に受け止めても、逃げ出すことができない王族という存在、それを守護する立場であったレナルドの事。
彼は革命が起こったとしても現状は変わらない。だからこそ、少しでも望みのある人間が努力していく方がいいと、とても理性的に分析していた。
しかし人間感情というのは、難しいものでそれで納得する人もいれば、利益を追求していた国王陛下に対する天罰が下っているのだと信じて疑わない人もいる。
……それに、私は彼から話を聞いて、これまでの事は国に起こっているどうしようもない不運だと思いましたが、それは本当にただの不運なんでしょうか。
時期といい、災害の内容といい、引っかかる。
しかしそれは身近であった借金の話と都合よくアイリスがつなげて考えているだけで、まったく関係がない可能性だってある。
クランプトン伯爵家が自領の森を開拓しようとしただけで、国全体の災害が増えたり魔獣が原因追究できないほどに増えたりしないだろう。
……関係がないといえば関係がなさそうですが、あるのではないかと考えるとそんな気もする。
その程度の繋がりなんです。
そのあたりについて、解決する当てが王族にあるのか。というのもわからない。
何も分からないからこそ、わかりやすい天罰だという説明をした人間についていく気持ちはわかる気がする。
何事も、原因がわかれば努力する方向もわかるし、道は明確になる。それがたとえ何につながっていようとも、進むことができる。
でも進む道がわからないまま右往左往するのはつらい、ましてや自分の身内がその道をさえぎったら、あんな態度にもなるのではないか。
……そう考えるとロザリンド様やマイルズ様の気持ちもわからない事もないような気もしますし。
アイリスの思考は渦の中にはまっていって、同じところを堂々巡りをした。
しかししばらくそうして唸ってみてから、では自分は今どうするべきであるのかと思う。
レナルドは王族派閥でこれからも彼らを庇う方向で動くだろう。
それは、事実として決まっていることだ、アイリスもそれに従う。しかし、一番賢い選択はどちらにも手を貸さずに、中立を決め込むことではないだろうか。
理由の分からない不運に国はどちらに転がるのかわからない。それならばどちらに向いてもいいように、静観するのが賢い方法だ。
今からでもその方法が絶対に取れないわけではない。
それを理解していて、わかっていてもレナルドは王族の方につくと言っているだろうと思う。
それはなぜか。レナルドの中に圧倒的な騎士道精神と忠誠心が備わっていて王族を守護したいと思っているからか。
……そうだとするなら、今も王族のそばに仕えていなければおかしいですよね。
しかしそうではなく公爵として領地を治めている。
だとすれば何が彼を革命を阻止するという行動に駆り立てたのか。
それは昼間の説明では少し足りない。だって血濡れの公爵なんて呼ばれるほどに、人を……。
……殺したんでしょうし、そうだと言っていましたし。
その事実はとても重たい。事情を知って話を聞いて、アイリスも当事者となってみるとレナルドの行動はとても決意のいることだ。
それをやってのけて本人は、隠そうとしているような節まである。
……負い目のある理由だったんですか?
わからない。あれほど優しそうに見えるのに、人を切ることには躊躇がないとは思えない。それともアイリスが何か見落としている部分があるのか。
だとしたら、それはアイリスにどんな風に影響してくるのか。
今はとても平穏に過ごしているけれど、いつかそうならなくなる時が来るのか。
ここはまだ鳥かごの中なのか。
そう思考するとぞくっと背筋が冷たくなって、アイリスはいつの間にかつむっていた目をパチッと開いた。
「随分難しいお顔をされていますねっ、アイリス様!」
すると目の前にティナがいてアイリスは驚きのあまり椅子の上で小さく跳ねた。
「就寝の準備が整いましたが……眠れそうですか?」
「……大丈夫、今日も夜遅くまでありがとうございます。ティナ」
「いえ、これが私のお仕事ですから……それより、なんのことでそんなに悩んでいらっしゃるんですか」
ティナは一日働いた疲れなどまったく感じさせないで元気にアイリスに問いかけてくる。そんな彼女にアイリスは、なんだか少しホッとした。
ここがもし、鳥かごの中だとしても良い鳥かごだ。レナルドだってアイリスの知らない一面を持っていたとしても、アイリスが知っている部分が嘘になるわけではない。
「すこし、レナルド様のことを考えていました」
息を吐いて体の力を抜きつつアイリスは、ティナに考えていたことをそのまま言った。
すると彼女は当たり前のように「会いに行ったらいいのではないですか」と口にした。
「悩むほど気になることがあるのなら会いに行って確かめればいいんです」
「……でももう、遅い時間ですし」
「そんなの夫婦ですもん、気にしたら負けです」
「負け? なにに負けるのかわからないんだけれど」
「いいんですっ、私、レナルド様に今忙しいか聞いてきますね!」
「え、ちょっと」
彼女はくるっと身を翻して、ぱたぱたとかけていく。その様子にアイリスは面食らいながらも止めようかと考えた。
しかし止めたとしても、気になったり不安になることは変わらない。
このまま彼女の勢いに任せて聞いてみてもいいのではないかと、思ってしまうと、その時にはもうティナは部屋を出ていってしまっていた。
数分経って戻ってくると、彼女の後ろにはレナルドがいて、アイリスは想定外の事態に、心臓がバクバクしたのだった。
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