【本編完結】捨ててくれて、大変助かりました。

ぽんぽこ狸

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27 親友 その一

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「ナタリア様っ!」

 ある日の事、ナタリアはまったく意味が分からない書類、三枚目と格闘してた時のことだった。

 突然勢いよく執務室の扉が開かれて、侍女が鬼気迫る表情で、ナタリアの元へやってきた。

 以前のナタリアだったら、こんなことをする品のない侍女など解雇だと騒ぎ立てていたけれど、彼女の表情を見れば、何かの緊急事態だと理解できる。

 何があったのかと視線を向けると、彼女は少し息を整えた後、ナタリアに言った。

「お、お客様がいらしています。しかしアルフィー様が対応し、ナタリア様には会わせられないと言っていてっ」

 ……来客? そんな予定は無いはずだけど、まさか!

 ナタリアの頭の中にはお姉さまの顔が思い浮かんでいた。

 もしかしたらナタリアの事を助けに来てくれたのかもしれない。

 しかしすぐにお姉さまだったら、侍女がそういうはずだと思ったし、ナタリアの元に来てくれそうな友人たちとも最近手紙で連絡を取れていない。

 こんな風に先触れもなしに来るなんて、碌な相手ではない場合が多い。

 けれども、今のナタリアの状況はとても最悪で異常なものだし、誰だとしても、親戚筋だったら頼ることもできる。

 ナタリアはクランプトン伯爵でありこの土地を残して一人で去ることはできない。だからこそ助けてくれる可能性のある人ならば誰だって歓迎だ。

 考えつつもナタリアは大急ぎで立ち上がって、そばについてくれる侍女たちと共にエントランスホールへと向かったのだった。

「だから彼女は今、忙しいんだ。突然訪ねてきて急に会わせられるわけがないだろう。帰ってくれ」
「そういうわけには参りませんわ。わたくし、ナタリアに会いに来たんですもの、あなたには用事はありませんのよ」
「俺だって君のようなどこぞの令嬢に構っているほど暇ではないんだ。それを仕事の邪魔をしておいて、偉そうに」
「暇ではないならわたくしに構わなくて結構ですわ。そもそも、何度も言っている通り、あなたではらちがあきませんの。

 わたくしの友人はナタリアよ。

 あの子がわたくしなどとは会うつもりもなければ、もう交友関係を断ち切りたいというのならばわたくしだってその通りにしましょう。

 でも、わたくしは何も聞いていませんのよ。手紙の返事も寄越さない、何も連絡をしないで急に伯爵になったなんて間抜けな話、正直ありえませんわ。

 何かあったのだとわかりますのよ。あの子に直接会って事情を聴くまでわたくしはここをテコでも動きませんわ。

 さぁ、ナタリアを出してくださいませ」

 階段の下で問答をしている二人の姿を見て、ナタリアは急に胸の奥が熱くなってすぐにでも泣いてしまいそうだった。

 彼女はナタリアの、一番仲のいい友人であるシルヴィアだ。

 見慣れた綺麗な銀髪に、大きなリボンをつけているその姿は、久しぶりの再会だというのにまったくわかっていなかった。

 よく一緒にパーティーに出たり、お買い物をしたり楽しい日々を過ごしていた。

 そんな彼女が目の前にいるというだけで、楽しかったあの日々がよみがえって心が苦しい。

 しかし、このままではアルフィーにシルヴィアは追い返されてしまう。

「シルヴィアッ! 私はここよ! ずっと会いたかった!!」

 そう思うと階段を下りるよりも先に、ナタリアは叫んでいた。人生の中で一番大きな声だったと思う。

 転びそうになりながらナタリアはエントランスの階段を下りて、こちらを見て視線を鋭くしたシルヴィアとアルフィーの二人の視線を受けながら、彼女に手を伸ばした。

 するとその手を取ってシルヴィアは、うっとりしてしまうほど美しい笑みを浮かべてアルフィーに言った。

「あら、良かった。久しいわね、ナタリア。……いいえ、今はクランプトン伯爵かしら? 旦那様があなたを気遣って面会は後日にするようにと言っていたけど、大丈夫かしら?」
「だいっ、大丈夫っ!」

 シルヴィアは、ほほえみを浮かべながらも鋭い瞳でアルフィーを見つめている。

 ナタリアが猛烈に首を縦に振りながら、帰らないでほしくて肯定すると、とても丁寧にアルフィーに言った。

「あらそう。クランプトン伯爵がそうおっしゃるのだったら、不都合はないはずですわね。

 旦那様、取次の為に手間を取らせて申し訳ありませんでしたわ。さあ、行きましょうナタリア、あなたのお部屋に連れて行って」
「う、うんっ」

 シルヴィアは有無を言わせない態度でナタリアと手をつないで、イラついた様子でこちらを鋭く見ているアルフィーをスルーしてエントランスの階段を上っていく。

 きっと後で彼とナタリアはひどく喧嘩になるだろうと思ったけれど、今はそばにいる友人の心強さがうれしくて、振り返らずにシルヴィアをナタリアの部屋へと招き入れたのだった。


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