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30 都合のいい考え
しおりを挟むこんなはずではなかったとアルフィーは考えていた。
イライラしながらも父からの手紙を急いで開けた。乱暴に封を切って急いで目で追う。
しかしそこには必要な情報の一つも載っていないし、今の状況に対処できるようなものでもない。
それに加えて、クランプトン伯爵家を手玉にとることに成功したアルフィーに対する文句まで書かれている。
そのあまりにも恩知らずな手紙を読んでアルフィーはびりびりと破り捨てて、手酌でワインを注ぎ、流し込むように飲んだ。
「くそ、どいつもこいつも俺の事を馬鹿にしやがって……」
それから喉から絞り出したような声でそう口にした。
何もかもがうまく言っていたはずなのに、いつの間にか歯車が狂って状況は悪化していく。
何が悪かったのか考えると、色々な要因が思い浮かぶ。
……まずはあの女だ、アイリスが何より悪い!
心の中で叫ぶようにそう思って、ぎりっと歯ぎしりをした。
もとはといえば、アイリスがきちんと男に従順な良い女で、両親のように扱いやすく騙されやすければよかったのだ。
そうであったなら、わざわざ婚約者を取り替える必要はなかったし、クランプトン伯爵領の森もうまく制御できたはずだ。
街道を作るという名目で、いつまでたっても進まない工事を延々させて借金を維持させ、クランプトン伯爵家の税収を利息として奪い続ける。
そして家財が無くなりディラック侯爵家に逆らえない状況にし続ける。
それだけでアルフィーの生活は安泰なはずだった。
しかし、アイリスが勘が鋭くずるがしこいせいで、クランプトン伯爵家との借金の契約を失うところだったのだ。
だからこそやむを得ず伯爵夫婦を手にかけた。
幸いクランプトン伯爵家は、この土地を守るだけの存在であり、領地から出れば花を咲かせられるだけの弱い魔法しか持たない。彼らを処理するのは簡単だった。
しかし、アイリスにアルフィーの作戦に気がつかれたからにはクランプトン伯爵の地位を与えると厄介なことになりかねない。
だからこそ、馬鹿で間抜けな何も知らないナタリアの方を伯爵に据えることにしたのだ。
考えつつも腹が立ったアルフィーは、いつの間にかワインボトルを空にしてしまって、勢いに任せて近くにいた侍女にボトルを投げつけた。
「ボトルが開いてるのが見えないのか、このグズ。さっさと次の酒を持ってこい」
「は、はいっ!」
コントロールが悪く当たらなかったものの、侍女は怯えた様子で部屋から出ていく。
その情けない姿に少しスカッとしつつも、それでも苛立ちは抑えられずにアルフィーはドンッとテーブルに拳を叩きつけた。
……ナタリアの奴め……まさかあんなに強情な女だとは……。
偽りの支配者として簡単に御することができる間抜けな女をせっかく手元に残したのに、蓋を開けてみれば、彼女は相当に厄介な女だった。
気が強く傲慢で、男の言う事を少しも聞かない男勝りな、可愛くない女だ。
……そもそも、俺は、あの双子の事をどちらも可愛いとも思わないし、瓜二つで気持ち悪いとまで思ってたんだ。
どちらも血で染めたようなおぞましい赤毛だし、不気味なモンスターのような緑色の目だって気色が悪い。
あの二人がそろって幼いころに俺を見つめてきたときには、悪夢を見たほどだ。
どうせ俺以外に、クランプトン家の女など嫁にしたい人間なんかいないだろうから、貰ってやって、さらに、馬鹿な親の背負った借金まで返す面倒を見てやっているというのに、どうしてこんな目に遭わなければならないっていうんだ?
しかしそんな風に考えても、双子の片割れであるナタリアが、取り返しのつかない事象を引き起こしていることは事実として変わらない。
このままいくとナタリアのせいで、このフェリティマ王国のここ十年の魔獣の出現についてクランプトン伯爵家のせいにされかねない。
それほど魔獣が住んでいる大きな森なのに、もう三分の一も獣が住める場所ではなくなってしまっているのだ。
それに実際、すべてではないがクランプトン伯爵家の領地から魔獣が出ていることは事実なのだ。
しかしそれを止める術はアルフィーの中にはない。だからこそ父と連絡を取り合い何とかならないかと考えているが、それもまったくと言っていいほど実りがない。
こうなればもうナタリアが感情を漏らさないようにするか、もしくはもう殺してしまうかしかない。
今更ナタリアに謝罪するなどは論外だ。
けれど殺してしまっては、アルフィーの天下ではなくなってしまう。
このまま爵位を持ったナタリアの配偶者として領地を治める立場で居たいのだ。
昼にもナタリアの友人と名乗る人物が訪ねてきていた。ああいう外とのつながりがある以上は彼女を無理やりに従わせることは不可能に近いだろう。
……ああ、いや、あのシルヴィアとかいう女は、ナタリアと決裂して帰路についたと聞いた。
きっと借金の肩代わりでも願い出て断られたのだろう。
アルフィーは、借金から逃れようと友人に追いすがっているナタリアの姿を想像して声を漏らさずくつくつと笑った。
そうすると幾分気分も晴れて、侍女が部屋に戻ってきて慌てた様子でアルフィーのグラスにワインを注ぐ様子を黙って見つめた。
ナタリアにはクランプトン伯爵家が財政難なのでまったく贅沢をさせていないが、アルフィーにはディラック侯爵家から利息として支払われた金銭の半分が毎月送られている。
それを使って好きなものも飲めるし好きなものも買える。なんでもやり放題だ。
芳醇な香りのするワインに口をつけて、すこし冷静になりアルフィーは考えた。
今、この屋敷にいるナタリアはダメだ。使い物にならない、しかし、ナタリアの魔法の影響を元に戻せる力を持っているアイリスだったらどうだろう。
こうしてナタリアが必死になって逃げようとしている間にも、きっと血濡れの公爵のところに嫁に行ったアイリスはもっと手酷く扱われ、怯えながら過ごしているだろう。
そんな彼女なら、心を入れ替えてアルフィーの元に戻ってきて妹の暴挙を止めるに違いない。
中は見ていないがアイリスからは、いくつもの手紙がナタリアに送られてきていた。
きっと、アイリスもこの場所に戻ってきたいと望んでいるはずだ。
思いついたその案はなかなかにいい案の気がして、アルフィーはワイングラスを傾けながらにんまりと笑みを浮かべた。
「ナタリアを餌にすれば絶対にあの女は簡単に釣れる、そうしたら甘い言葉でも囁いてやればいい」
小さくつぶやいて作戦を立てた。丁度良く、開催される建国祭の舞踏会その日が早くも楽しみだった。
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