透明令嬢、自由を謳歌する。

ぽんぽこ狸

文字の大きさ
31 / 46

31 精霊 その一

しおりを挟む


 ラウラはヘルムート子爵邸に戻りそれから、気が気じゃないままクリストハルトに授業をした、それからマリアンネと心ここにあらずの状態でチェスをして、深夜ニコラと二人きりになって彼女と隣り合ってソファーに座った。

 夜なのでランタンの明かりを頼りにしていたけれどニコラ自身が淡く光っているのでランタンの光がなくとも話は出来そうだった。

 手をお皿のようにするとふわりとニコラはラウラの上に舞い降りて可愛らしい白いドレスの裾を直してお淑やかに座った。

 長い話になるかもしれなかったので、手を腿の上に置いてラウラは、ニコラに問いかけた。

「それで、どうしてこんな大事になってしまったか教えて欲しいの」
『……そうじゃな、いつかそういう日が来るであろうと思っておったから構わぬぞ』
「うん。お願い」

 ニコラは自分の美しい金髪をさらりと方の後ろに流してそれからすこし困ったような笑みを浮かべた。

 その笑顔に、ラウラは、途端に不安になった。

 いつかそうなるだろうとわかっていたといっても、彼女が今からする話は彼女にとって不本意なことではないだろうか。
 
 そんなことをわざわざラウラは無理矢理聞き出したいとは思えない。だってラウラの大切な友人だ。

 知られたくなかった事実なのだろう。それを知ってラウラはニコラと共に過ごせなくなったら酷く寂しい。

『どこから話すべきか……わしは━━━━』
「っ、待って!」

 満を持し話し出そうとしたニコラに、ラウラはぎゅっと目をつむって悲鳴のような声をあげた。

 たしかに気になる。だってラウラとしてはたまに小説をフェリクスにでも読んでもらいながら、好きな時に書いて、好きな仕事をして自立を目指しながらクリストハルトと仲良くやるだけのつもりでいた。

 のんびりと過ごしてニコラさえ居ればラウラは寂しくない。

 ヘルムート子爵家にいつまでもお世話になるわけにいかないからお金をためて、自分で彼らの領地の中に家を買って自活するのもいい。

 そんな風に思っていたのだ。

 それなのに、急に王族なんかが絡む大事になってしまって、ラウラはこうしている今も急に自由が奪われるのではないかと不安になってしまう。

 けれどもそれを解消するよりも、友人の秘密を暴くことの方がよっぽど苦しい。

「ニコラ、やっぱり私、聞きたいとは思わない。知りたいとは思うけど、ニコラの秘密を暴きたいわけじゃないの!」

 手に乗った小さな彼女を抱きしめるように頬によせて大切に思った。

「私ずっとあなたに助けられてきた。側にいて支えてもらって助言をしてもらってここまで来られた。だからこれから先もずっとそばにいたい。それなのにあなたの大切な秘密を今無理に知ってしまったら、きっと後悔する」
『ラウラ……』
「だからいいの。何も言わなくて。私も聞かない。自分中での優先順位はわきまえてるつもりだから」

 一番の大切な存在は、この人だ。

 ラウラをずっと支えてくれた。だからこそ失うかもしれないようなことをしたくないのだ。

 それでいい、むしろそれがいいと考えていると口にした。

 すると鈴の音のような軽やかで優しい笑い声がして、ラウラは、胸が押しつぶされてしまいそうに苦しかったのに、場違いなその声にどういう事かと首を傾げた。

『くくっ、ふはは……そうじゃな。わしも、お主と同じように自分の優先順位はきちんとつけている』
「うん?」
『そして確かに、お主との関係もとても大切じゃ。今のまま昔から変わらず、お主とわしはそばにおりたい』
「うん」

 ラウラは涙こそ出ていなかったけれど泣きそうな顔をしていて、そんなラウラを慰めるようにニコラは、ラウラの頬を撫でた。

 ふわりと風が吹くだけで相変わらず人肌に触れた感触も、温かい体温も感じることはできない。

 ニコラは幻想だ。 間違いなく。触れ合うことはできず、体温も感じられない。誰とも共有できない。
 
 だからこそニコラはラウラにとってイマジナリーフレンドだった。

『しかしな。関係が変わっても構わぬよ。むしろそうなるじゃろうと思ってわしはお主に力を与えていた。そしてこれからもそうする』
「……どこかに急にいなくなったりしない?」
『ああ、しないさ。お主がお主である限り、わしは、ここにおる。だから聞いてくれ、ラウラよ。わしがなんなのかお主はどうして追われる身となったのか』
「うん」

 ニコラの言葉にラウラは静かに頷いて、ニコラと目線を合わせて、真剣な表情をした。

 そんなラウラにニコラは、金色の瞳を緩く細めて説明を始めたのだった。



しおりを挟む
感想 23

あなたにおすすめの小説

『選ばれなかった令嬢は、世界の外で静かに微笑む』

ふわふわ
恋愛
婚約者エステランス・ショウシユウに一方的な婚約破棄を告げられ、 偽ヒロイン・エア・ソフィアの引き立て役として切り捨てられた令嬢 シャウ・エッセン。 「君はもう必要ない」 そう言われた瞬間、彼女は絶望しなかった。 ――なぜなら、その言葉は“自由”の始まりだったから。 王宮の表舞台から退き、誰にも選ばれない立場を自ら選んだシャウ。 だが皮肉なことに、彼女が去った後の世界は、少しずつ歪みを正し始める。 奇跡に頼らず、誰かを神格化せず、 一人に負担を押し付けない仕組みへ―― それは、彼女がかつて静かに築き、手放した「考え方」そのものだった。 元婚約者はようやく理解し、 偽ヒロインは役割を降り、 世界は「彼女がいなくても回る場所」へと変わっていく。 復讐も断罪もない。 あるのは、物語の中心から降りるという、最も静かな“ざまぁ”。 これは、 選ばれなかった令嬢が、 誰の期待にも縛られず、 名もなき日々を生きることを選ぶ物語。

(完結)家族にも婚約者にも愛されなかった私は・・・・・・従姉妹がそんなに大事ですか?

青空一夏
恋愛
 私はラバジェ伯爵家のソフィ。婚約者はクランシー・ブリス侯爵子息だ。彼はとても優しい、優しすぎるかもしれないほどに。けれど、その優しさが向けられているのは私ではない。  私には従姉妹のココ・バークレー男爵令嬢がいるのだけれど、病弱な彼女を必ずクランシー様は夜会でエスコートする。それを私の家族も当然のように考えていた。私はパーティ会場で心ない噂話の餌食になる。それは愛し合う二人を私が邪魔しているというような話だったり、私に落ち度があってクランシー様から大事にされていないのではないか、という憶測だったり。だから私は・・・・・・  これは家族にも婚約者にも愛されなかった私が、自らの意思で成功を勝ち取る物語。  ※貴族のいる異世界。歴史的配慮はないですし、いろいろご都合主義です。  ※途中タグの追加や削除もありえます。  ※表紙は青空作成AIイラストです。

[完結]悪役令嬢に転生しました。冤罪からの断罪エンド?喜んで

紅月
恋愛
長い銀髪にブルーの瞳。 見事に乙女ゲーム『キラキラ・プリンセス〜学園は花盛り〜』の悪役令嬢に転生してしまった。でも、もやしっ子(個人談)に一目惚れなんてしません。 私はガチの自衛隊好き。 たった一つある断罪エンド目指して頑張りたいけど、どうすれば良いの?

私を見下していた婚約者が破滅する未来が見えましたので、静かに離縁いたします

ほーみ
恋愛
 その日、私は十六歳の誕生日を迎えた。  そして目を覚ました瞬間――未来の記憶を手に入れていた。  冷たい床に倒れ込んでいる私の姿。  誰にも手を差し伸べられることなく、泥水をすするように生きる未来。  それだけなら、まだ耐えられたかもしれない。  だが、彼の言葉は、決定的だった。 「――君のような役立たずが、僕の婚約者だったことが恥ずかしい」

地味令嬢を見下した元婚約者へ──あなたの国、今日滅びますわよ

タマ マコト
ファンタジー
王都の片隅にある古びた礼拝堂で、静かに祈りと針仕事を続ける地味な令嬢イザベラ・レーン。 灰色の瞳、色褪せたドレス、目立たない声――誰もが彼女を“無害な聖女気取り”と笑った。 だが彼女の指先は、ただ布を縫っていたのではない。祈りの糸に、前世の記憶と古代詠唱を縫い込んでいた。 ある夜、王都の大広間で開かれた舞踏会。 婚約者アルトゥールは、人々の前で冷たく告げる――「君には何の価値もない」。 嘲笑の中で、イザベラはただ微笑んでいた。 その瞳の奥で、何かが静かに目覚めたことを、誰も気づかないまま。 翌朝、追放の命が下る。 砂埃舞う道を進みながら、彼女は古びた巻物の一節を指でなぞる。 ――“真実を映す者、偽りを滅ぼす” 彼女は祈る。けれど、その祈りはもう神へのものではなかった。 地味令嬢と呼ばれた女が、国そのものに裁きを下す最初の一歩を踏み出す。

悪役令嬢が行方不明!?

mimiaizu
恋愛
乙女ゲームの設定では悪役令嬢だった公爵令嬢サエナリア・ヴァン・ソノーザ。そんな彼女が行方不明になるというゲームになかった事件(イベント)が起こる。彼女を見つけ出そうと捜索が始まる。そして、次々と明かされることになる真実に、妹が両親が、婚約者の王太子が、ヒロインの男爵令嬢が、皆が驚愕することになる。全てのカギを握るのは、一体誰なのだろう。 ※初めての悪役令嬢物です。

【完結】前提が間違っています

蛇姫
恋愛
【転生悪役令嬢】は乙女ゲームをしたことがなかった 【転生ヒロイン】は乙女ゲームと同じ世界だと思っていた 【転生辺境伯爵令嬢】は乙女ゲームを熟知していた 彼女たちそれぞれの視点で紡ぐ物語 ※不定期更新です。長編になりそうな予感しかしないので念の為に変更いたしました。【完結】と明記されない限り気が付けば増えています。尚、話の内容が気に入らないと何度でも書き直す悪癖がございます。 ご注意ください 読んでくださって誠に有難うございます。

【完結】婚約破棄はお受けいたしましょう~踏みにじられた恋を抱えて

ゆうぎり
恋愛
「この子がクラーラの婚約者になるんだよ」 お父様に連れられたお茶会で私は一つ年上のナディオ様に恋をした。 綺麗なお顔のナディオ様。優しく笑うナディオ様。 今はもう、私に微笑みかける事はありません。 貴方の笑顔は別の方のもの。 私には忌々しげな顔で、視線を向けても貰えません。 私は厭われ者の婚約者。社交界では評判ですよね。 ねぇナディオ様、恋は花と同じだと思いませんか? ―――水をやらなければ枯れてしまうのですよ。 ※ゆるゆる設定です。 ※名前変更しました。元「踏みにじられた恋ならば、婚約破棄はお受けいたしましょう」 ※多分誰かの視点から見たらハッピーエンド

処理中です...