“足りない”令嬢だと思われていた私は、彼らの愛が偽物だと知っている。

ぽんぽこ狸

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『とある令嬢のお茶会で宣戦布告を受けました。厚かましいお願いであることは承知ですが、私に以前見せていただいた本とその他いくつかを貸し出していただきたいと思っています』

 そんな内容の手紙が届いたのはレーナが王都に出向いてから半月ほどが経った時の事だった。

 ヨエルは彼女からの手紙は届き次第、すべてすぐに目を通し、どうすれば彼女の興味をうまくひき自分に意識を向けられるかと熟考を重ねてから返信を行っていたのだがそんな余裕もなくなる。

 すぐに彼女の求めている本を図書館中を歩き回って手に入れて、貸し出しの手続きを済ませる。

 今までと同様ならばもう少しやり取りをして、彼女から何らかの報酬を引き出してから、自分に有利な約束を取り付けて貸し出しを了承するという手順を踏むべきだと思う。

 しかし、手紙の内容にはこうも書いてあった。

『それから、魔法封じの枷についてご存じでしょうか。基本的には罪人などにつけられ魔法を使えなくするために利用されるものだと思いますが、外した場合の不利益については何か知っていることはありますか?』

 普通はそんなものに出会い、そんな心配をする機会など滅多にあるはずもない。

 しかし、手紙という性質上、彼女の言葉をすぐに言及することはできない。

 今、レーナがどういう状況にあり、どういう手助けをするべきなのかもすぐに答えを出せるものではない。
 
 今までは、日記のように常にたくさん送られてきていた手紙が少なくなったのも相まってヨエルはなりふり構っていられなくなり、すぐに確認の手紙と本を送ってやる。

 出来ることを一通りやっても、結局レーナの安否が気になって本を読もうにも集中できずに日々を過ごした。

 図書館で気をもんであれこれと彼女に関する可能性を考えていると、不躾にも何も言わずに目の前に座る男がいる。

 こんなことをする人間は一人しか心当たりがなく、ヨエルは険しい表情で彼を見つめた。

「随分と切羽詰まっている様子だね。ヨエル」

 和らな声音で尋ねられると、神経をさかなでられるような気がして、さらに視線を鋭くしてエリオットに返す。

「おちょくりに来たなら、屋敷に戻ってくれ。兄上、今は兄上にかまってやれるほど余裕がない」
「まぁまぁそう言うなって。事情を少しは知っているつもりだよ?」
「……」

 兄は王都にいる父とやり取りをしているので、王都のことにはそれなりに精通している。レーナの今の状況も知っている可能性があるだろう。

 しかし、常日頃からこの軽薄な彼に、教えを求めるというのはヨエルにとって面白い事ではない。
 
 けれどもレーナのことを少しでも聞けるならと、希望を持ってしまうような気持になるのがこれまた腹立たしい。

「……なにか、彼女のことを知ってるのか」
「そうだね。少しだけ」
「もったいぶらずに言ってくれ、兄上」
「うーん。……王都の貴族令嬢の間では、彼女の評価が二分しているというぐらいかな。これからも関係を持ちたいと好意的に捉えている子と、そうではない子がいる様子だよ」

 その言葉を聞いて、やはりどこかの宣戦布告してきたという令嬢と敵対していて、何かしらの物事が動いているのだろうということはわかる。

「どちらにしても、突然社交界に参加するようになった彼女だから、注目は集まってる。婚約者とも破談になっているから爵位継承者の令嬢の元に婿に入りたいと思っている貴族たちも、今のところその評価の二分によって二の足を踏んでいるだろうね」
「……」
「でもその渦中で彼女がどういう様子かということまではわからない。……なぁ、ヨエル。それほど気になって仕方がないっていうなら……君も動くべきだと僕は思うけどね」

 エリオットはヨエルの中の葛藤を見透かしたようにそう言葉を吐く。

 事情を知らないわけでもないくせに、簡単にものを言う所がこの兄の嫌いなところだった。

「王都に行ったらいいさ。君はもう十二分に自分の考えを持って強く成っただろ。自分の考えを示せばいい」
「簡単に言わないでくれ、兄上」
「簡単に言っているつもりは、ないんだけどな」

 短く言葉を交わして彼は適当に立ち上がって、ヨエルの頭をポンと撫でてから適当に去っていく。

 仲の良い兄弟というわけでもないのに、彼はいつもヨエルの事を気にかけている。それを問答無用で嫌悪するほどヨエルも子供ではないが、年も年なので頭をそうして撫でる癖はいい加減直してほしいと思うのだった。


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