“足りない”令嬢だと思われていた私は、彼らの愛が偽物だと知っている。

ぽんぽこ狸

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30 過去

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 ライティオ公爵家には突然向かったので、使用人に対応をしてもらおうと考えていたレーナだったが、都合よくこちらのタウンハウスにはエリオットがおり、彼がヨエルの代わりにレーナに対応してくれた。

 応接室で向かい合って座ると、彼は開口一番にレーナに行った。

「実は、君の元に向かおうと考えていたのだけど、逆に来てくれて手間が省けたよ。ヨエルの事を知りたいんでしょう?」

 首をかしげて問いかけてくる彼に、ヨエル自身から聞いた方がいい事だとは思いつつも頷いて返す。

「はい。なにやら、込み入った事情があるのではないかと思いましたので、本当ならばヨエル様に直接確認出来たらと思ったのですが……」
「いいよ、いいよ。どうせ話すことだろうし、こうなることは予測していたから、時間の節約。僕から話をするよ。君も不安だろうしね」

 彼は気さくにそう言ってくれるが、自分の事を他人から聞くのはヨエルも嫌な気持ちになるのではないだろうか。

「……いいのでしょうか。ヨエル様にとって隠したい過去ならば私が不躾に踏み込むのは野暮ではないでしょうか」
「うーん、じゃあ、今から話すことは僕の独り言。たまたまヨエルを待つためにやってきた君は偶然聞いてしまったという体で行こう!」
 
 どうやら彼の中に話をしないという選択肢はない様子で、聞いていいというのならレーナも聞きたい。

 ……それでも、聞きたいのは私でそれをエリオット様に押し付けるのはダメですね。

「いいえ……やっぱり聞かせてください。私は、ヨエル様にいつも相談に乗ってもらってばかりで、彼の事を何も知りません。……知りたいです。どういう身の上なのか」
「そう言ってくれるんだ? ありがとうレーナ、なら僕から見た話になってしまうけれど……ヨエルはね━━━━」

 そう言って彼は懐かしい事のように話し出す。

 それは十五年前ごろから始まった周期的なこの国の魔力的資源の枯渇についての問題の話だった。

 そもそも魔力的資源の枯渇というのは、周期的に訪れるこの国の現象だ。

 土地柄的に魔力が豊富で、それを扱う貴族たちも他国に比べて大きな魔力を保有している。
 
 その代わりにこの国にはその魔力が潤沢過ぎて、人間的な機能に疾患を抱えているいわゆる”変わった人”が生まれやすいという特徴がある。

 そういう人間は総じて魔力が大きく、危険を伴うので出来る限り障害を持っている人間は生まれた家系の中で外に出されることもなく生活するのが一般的とされている。

 と、そんな特徴があるのだが、魔力的な資源が大きい事は大きな利益をもたらす、この国は国土が小さい代わりにその土地に生まれる魔獣や魔草や魔石を刈り取って他国と交易をすることによって国として躍進してきた。

 しかしその資源にも貴族たちに疾患が出るように波がある。

 調子のよい時もあれば悪い時もあり、最悪、まったく取れなくなる時期も百年に一度のペースで訪れる。

「十五年前あたりから見られた資源枯渇が受けた国の影響は大きなものだったのは知っているよね」
「はい」
「もちろん国としても対策をしていたし、貯えもあった。けれど、予測というのは必ずしも当たるものじゃない、普段よりも長い期間の枯渇になったこと大きな打撃だった」

 ……たしかに、父もそのことに悩んで領地の商人と血を交えることになりましたし、ほかの中小領地も厳しかったということは理解しています。
 
「ところで、ライティオ公爵家がその資源枯渇に対して人間の魔法によって対応をするために、魔法の収集を行っているという話は知ってるかな」
「一応は、以前ヨエル様にそういった関連の本を読ませていただきました」
「そう、なら話が早いね。僕らの家系には土魔法の属性が多くてね。必然的に一番の収入になっている魔石の人口生成の糸口を見つけられないかと、いろいろと研究されていたんだ」
「はい」
「それで、ついに……というか、偶然というか、ヨエルがね。その魔法の該当者なんだよ」

 ……その魔法の該当者、つまりは魔石の人口生成がヨエル様にはできるという事ですか。

 それはきっととても素晴らしい事だ、どんなふうに研究をしていて血筋からそういう子供が生まれるようになったかは定かではないが、魔法は世代を重ねるごとに進歩しているらしい。

 そういう事もあるのだろう。

「では、その時にヨエル様は多大な貢献をされた、という事でしょうか、だからこそ王族からの褒賞を約束されていると?」
「うん、それだけなら話が早いんだけど。その研究がね、少しばかり母体に悪い影響を及ぼすみたいで公爵家に嫁入りした僕の母も、第二夫人の彼の母も体が悪かった」

 話の方向はなんだか雲行きが怪しくなる。

 単に彼の魔法が素晴らしく、完璧な姫だと目されているサラ王女殿下を降嫁される栄誉を賜ったというわけではなさそうだ。

「それがたしかヨエルが十歳前後の時。そのぐらいのときに、体調のすぐれない母とともに過ごすか、国の為に魔法を使って貢献するかってどっちを選ぶかな」
「……私であれば、前者だと思います」
「うん。そうそう、そうだろうなって、王族も思っちゃったんだと思う。それにヨエルがまだ知恵のない子供だったから少しばかり嘘をついた」
「どんな、嘘ですか」
「ヨエルの母親を救うためには多額の金銭が必要だって、引き離して吹き込んだ」

 エリオットは淡々とそう口にするが、それはひどく残酷なことではないだろうか。

 未発達な子供だとしても、言っていい嘘じゃない。ヨエルの選択が多くの人を左右して、どうしても後者の選択を選んでほしいとしても、誠実に言葉を尽くして説得をするべきだ。

「そんなわけでヨエルは、騙されたことが……トラウマ? というのか、そういうふうになっていて、母の死に目に間に合わなかったことも、ずっと根に持ってる」
「……」
「資源枯渇を乗り切った王族は一応誠意のある対応をして、すでにその時には降嫁の話は出ていたんだけど、王都にはもう二度と顔を出さないって啖呵を切って、それから図書館に引きこもったんだ」

 となるとある種、彼の行動は、王族に対する対抗ともとれるだろう。
 
 もう二度と騙されることがないように、知恵の無かったあの時の自分とは違うと誇示するように知恵の結晶である本を集めて引きこもり、彼らとは和解しない。

 ずっと今までその姿勢を崩さずにいた。

「この話は一応、王族とライティオ公爵家の秘密ということになっているから口外はしないで欲しい。ともかく、だからこそヨエルが王都に来たということは、と王族も父も早合点したね」
「ヨエル様が彼らを許し褒賞を受け取りに来たと、勘違いをしたという事でしょうか」
「そうそう、そういう事」

 ならば彼は今、その渦中にいて、どんな気持ちだろうか。嫌なことを思い出して苦しんではいないだろうか。

 なんせ、昨日レーナに教えてくれたのだ。

 レーナが心配で思わず来てしまったと。

 ならばヨエルはまだ彼らを許せていないだろう。

 それなのに……。

「……彼は今どこにいますか?」
「王城にいると思うよ、話をつける必要があるから」

 頭の中でレーナはどうするべきかと考える。ヨエルが心配で、可能性の中にはええいと王城に突撃してしまいたいという気持ちすらあった。

 しかしそれをやっては、多くの人に迷惑がかかるだろう。

 ……それに、あのサラ王女殿下がお相手です。万が一……いいえ、そんな些細な可能性ではなく、ヨエル様が心変わりする可能性も十二分にあるのではないでしょうか。

 美しく、高潔なあの王女の事を思い出す。

 とてもきれいな文章を書く人だ。頭もいいし魔法学園を首席で卒業している優れた人だ。

 そんな人との結婚の話はレーナとの結婚よりもよっぽど魅力的ではないだろうか。

 ……私のような足りないところがある人間よりもずっと良いと思うかもしれません。

 その可能性があるのに突撃しては、今まで良くしてくれた彼に対して不義理だ。

 そう思うのに、胸の奥がもやもやしてレーナは心臓が痛くなるような気がした。

 昨日優しく触れた、唇の感触が誰かに触れて、彼のほころんだ表情が自分ではない誰かに向けられるのかもしれないと思うとひどく心がざわつく。

 今までそんなことは一切なかったのに。

「大丈夫。そんなに心配しなくても問題ないよ。ここでゆっくりお茶でもしながら待ってよう」
「そうでしょうか」
「うん。大丈夫。なんて言ったって僕はヨエルのお兄さまだからね。信用してくれていい」

 柔らかな笑みを浮かべて自信満々といった様子の彼に、レーナもそこまで言うのならと気持ちを切り替える。

 もしヨエルがどんな選択をしてもレーナは受け入れるしつらい思いをしたのだと言えば、たくさん慰める。
 
 彼次第だと納得して、エリオットに合わせて少しだけ笑みを浮かべたのだった。



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