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40 完璧じゃなくても
しおりを挟むしばらくすると、父が来るという連絡を受けて、レーナは母に視線を向けた。
テーブルの上にはたくさん作った花冠が置いてある。それからヨエルの作った魔石も。
二人は魔石の中にきらめいている光を太陽にかざしてぼうっと眺めており、シュールな光景である。
「ヨエルくん。この中の光を星やハートの形にできたりはしないの?」
「やったことがないし、やろうとも思ったことがない」
「出来たらきっととってもかわいいわ」
「可愛いか?」
「可愛いわ」
「そうか」
ローゼの言葉を受けてヨエルはぱっと自分の手元にあった魔石を握りこんでそれからぐぐっと力を籠める。
すると魔法の光が、キラキラとあたりに舞い散り、最終的にパンと音が鳴って魔石が砕け散った。
「……無理だな」
「そう、残念ね。出来たらちょうだい?」
「出来たらな」
適当に笑ってローゼに返すヨエルは、もうずいぶん母に慣れている。最初はあんなに驚いていた様子だったのに彼は適応が早くてありがたい。
しかしそろそろ父が来るというのなら、レーナたちは父に場所を交代した方がいいだろう。
「ヨエル様、そろそろ、父が来るそうです」
「おう、もうか。案外早く話がついたんだな」
彼は意外そうにそう言ってレーナに視線を向けた。しかし早かったといってももう二時間ほどは経っている。
話を纏めるのには十二分な時間だ。
こうして過ごす時間が楽しいと思ってくれたからあっという間に感じたのだろうかと考えるけれども、わざわざ指摘をすることもなくレーナは頷いて、ローゼに一つ聞いておきたいことがあって彼女を見た。
「……お母さま、私たちはそろそろ行かなければならないようです」
「え!? 駄目よ、もっとたくさん遊びましょう? ほらまだお日様だって高いし……」
「いいえ、この後、もう一人お母様に会いたい人がいるんです。……お父様のこと覚えていますか?」
万が一のことを考えてそう問いかけてみる。レーナのことを覚えているのだから忘れていることもないだろうと思うのだが、今日の彼女との会話では一度も登場しなかった。
なので少し不安に思いながら聞いた。
すると彼女は「お父様って、オーガストのこと?」と唇を尖らせて聞いてくる。一つ頷いて返した。
「覚えてるも、許さない。私はあの人の事大っ嫌い! 本当に許さないの」
「……でも待ってたんじゃないのか? さっきレーナのおばあ様がいっていただろ」
ローゼの言葉と、今までに見せなかった剣幕に驚いてヨエルはつい、口をはさんだ様子だった。
するとローゼは深く頷いていう。
「そうよ。待ってる、ずっと私、あの人が……会いに来るまで許さない。私のこと、一生大切にしてくれるって言ったんだから、ちゃんと迎えに来るまで許せない」
「そう、ですか。じゃあ、存分に今までの気持ちぶつけてあげてくださいね」
「もっちろん!」
ローゼは拳を握って頷いた。
レーナはこの場所の入口になっている庭園と繋がっている小道から、おじい様に連れられたオーガストがやってきていることを視界の端でとらえた。
席を立って、今まで以上に老いを感じる様子になっている父に目を合わせた。
彼はレーナに気が付いて、多少なりともしゃきっとする。
「では、私たちはいきますね。お母さままた会いに来ます」
「ええ、絶対よ! ヨエルくんも一緒にね!」
「おう」
ヨエルは母とがっしりと手をつないで元気よく別れた後に、父とすれ違う。
「お父さま、頑張ってくださいね」
「あ、ああ。心配をかけたな。大丈夫だ」
彼は父らしくレーナにそう言うが足取りは重たく、厳しい顔で父の方を見つめているローゼにたじろいでいる様子だ。
おずおずと近づいていく情けない父を応援するつもりで、レーナは腰に差している杖を取り出した。
それから魔法を使って一振りする。
ざあっと風が吹いて、野花の花弁が舞い上がる。青い空にカラフルな花が舞い散ってとても美しい。
父の背中を押せただろうか。
「……綺麗だな」
「はい。行きましょうか、ヨエル様、今日は付き合ってくださってありがとうございます」
「いいや、楽しかったぞ。またこよう」
笑みを浮かべてそう言ってくれる彼に感謝しつつも、彼らの行動を見て、少し幸せな気持ちになった。
結局は母、怒った様子だったけれども、ぷんぷんとしながら父の元へとずんずんと歩いて行って、ぐっと体を押し付けるように抱きしめる。
父はすぐに彼女を抱きしめ返していた。
これでやっとレーナの抱えていた問題は、解決したことになるだろう。
滞っていた時間を進めることができる。
ヨエルがレーナに寄り添って手をつなぐ。
まだまだ気恥ずかしくて、レーナは自分から愛情表現をするのは得意ではない。けれどもきっと大丈夫だ。
すれ違っても、間違っていても取り戻すことができる。家族も、父と母もそうであったように、完璧でなくてもいい。
そう、思えるから。
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