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14 食事
しおりを挟む目が覚めると体が軽く、体に力がみなぎっている……というか湧いてくる……というかそういう不思議な感覚で、私はこんなに調子がいい日はいつぶりかと考えた。
やはり冬には体を温めて眠ることというのは、とても大切な事なのだろう。
……それにしてもこんなに違うなんて驚きですね。不思議ですけど……私はいつフォクロワ大陸魔法協会支部に送られるのでしょうか。
ベルガー辺境伯邸に来てから三日目、今日も普通に目が覚めて、一日が始まろうとしている。
三日目ともなると、自分の部屋にも慣れてきて体も回復している。
何かやった方がいいかとヴィンセントに声をかけようと思ったが、彼がやりたいことは多分、私の体を回復させることだ。
となると、座ってできる作業だとしても私に頼むことは少ないだろうし、忙しい人に仕事を見つけて欲しいと私みたいな人間が頼むのは負担になる。
魔法協会支部に送るために体調を回復させたいという彼の思惑はわかっているのだから私は休憩をとりつつ、魔法道具作成を続けた。
すると昼食の誘いが来て、調子も良いし人並みに食事が出来そうだと思えたので了承し、私はダイニングへと向かった。
「! よくきたね。今日は顔色が少し良くなってるみたいだ」
顔を合わせると彼は、開口一番そう言って笑みを深める。その人懐こい笑みに私も思わずほほ笑んだ。
「はい。昨日の夜にいただいた暖房器具のおかげです。寝具の中までとても暖かくてぐっすりと眠れた気がします」
「それはよかった、あれは眠るとき出来るだけそばに置いておくといいよ」
ローナが私を押して、テーブルの椅子が一つ抜かれている場所へと車椅子をつける。それから食事が運ばれてきた。
前菜が乗ったそのお皿は私とヴィンセントの前に丁寧に置かれて、彼が手を付けるタイミングで私もカトラリーを持つ。
「本当は君にはまだきちんと休んでいてほしいから、こうして昼食に誘うか少し迷ったんだ……迷惑だったら今後は断ってくれていいから」
そう言ってキッシュを口に運ぶ。
私も同じようにして食事を始めるけれど、迷惑というか、人よりあまり量が食べられない体質なので、私の方こそ一緒に食事をしても楽しくないと思わせてしまうと思っている。
「いえ、迷惑ということはありません。人と取る食事は良いものだと思いますし……ただ、私の体調によっては、中座することになってしまうかもしれないのでそれだけが心配で、今日は気分がよいので平気かとは思いますが」
「そう、それならよかった。俺は無理はしてほしくはないけれど、途中退席してもいいから一緒に食べられた方がうれしい」
「そうですか? 気分が悪くなりませんか」
「ならないよ。父は早くに亡くなって、母も忙しい人だったから、どういう状況だとしても人と食卓を囲むのはうれしいんだ」
そんなふうに会話をしていると次の料理が運ばれてくる。
屈託なくそういう彼は、私に気を使ってそう言っているというよりも本当に心からそういうふうに思っているように見える。
……私も幼い時からこんな体調でしたから、人と食事を出来るのはうれしいです。
それに、こういうふうに言って理解を示してもらえると心が軽い。
「……そうなんですね。なら、私がここにいる間にたくさん誘ってくださるとうれしいです。出来る限り食事を共にしましょう」
けれども私は彼の欲求にこたえるだけみたいな顔して、まるで親切でその誘いを断らないみたいな言い方をした。
それでも屈託なく「ありがとう。そうさせてもらう」とヴィンセントは言って、他愛もない話をして食事を続ける。
今のところ何も害がないせいか、ヴィンセントがとても良い人に見えてしまうのはどう対処するべきだろうかと心の中でひそかに悩んだのだった。
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