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タイムリミットが迫ってる……らしい。3

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 私は最近自分の正体がバレバレだという話を聞いたのだが、私の固有魔法については、まだまだ謎ということになっている様子だった。

 ただし、利用の方法についてバレてしまうのは危険がつきまとう。だからこうして、リーダークラスの時に使うのであれば、集合場所に集まる前に事前に魔力を入れてもらっている。

 ぐるぐると目が回るような圧迫感と相変わらずなんだかひんやりしているようなクリスティアンの魔力に、体が底冷えするような心地を覚えながら、同じクラスのリーダー達と共に西倉庫へと向かう。

 クリスティアンは魔力を注ぐのを割とゆっくりとやってくれるので、体調は悪くならないのだが何せ時間がかかる、予鈴がなっているので、移動しながらの魔法の起動だ。

 魔力が体の中をぐるぐる駆け巡り、視界が斜めにスライドし始める。おでこを抑えつつトコトコ足を動かしていると、ディックがふとそばへと寄ってきてくれる。

「大丈夫? なんか辛そうだけど……」
「平気。ちょっと時間なくて、ねクリスティアン」
「そうだねぇ、転ばないようにだけ注意していてね」
「うん、ありがと」

 彼はエスコートするように手を差し出す。ありがたくその手をとる、こういうところは紳士的で好感が持てるのだが、今朝のように隙あらば、ベタベタとしようとしてくるのさえ無ければなと思う。

「あー! 君、またうるさい彼氏にくどくど言われるよ? いいの?」

 ディックが小学生のように、私の事を揶揄う。手を貸してくれているだけだというのに茶化さないで欲しい。

 ……まぁ、確かに、サディアスの方は知ったら、くどくど言ってくると思うけど。

「いいの! ディックの方こそ、オスカーに怒られるように仕向けちゃうぞ」

 オスカーは割と嫉妬というか、独占欲が強いのだ。ディックを抱きしめでもしておけば、のちのち彼に怒られるに決まっている。私がいたずらにそう言えば、ディックはスススっと離れていき「そんなの全然効かないもんね!」と大口を叩く。

 効かない人間の行動じゃない事は確かだが、わかりやすいディックの行動に少し笑って、グラウンドに到着する。魔力がやっと溜まって魔法が起動した。先程と打って変わって体が軽い。

「ところで今日はなんでまた、借りようと思ったの?」

 借りるとは、固有魔法の事だ。わざわざ口に出すのは、はばかられるので少し分かりづらい質問になってしまったがクリスティアンに聞いてみる。彼は私に魔法玉を返しながら、笑顔で返答をする。

「今日が、団体戦前最後のポジション別クラスだからね。魔力の測定があるんだよ、前回の説明を聞いていただろう?」

 確かに前の授業の時に測定をすると言っていたような気がするが、団体戦前最後の授業だと言うのは初耳だ。まだ団体戦まで半月ほどあるというのに、随分早くからポジション別クラスは無くなるらしい。

 でも、よく考えてみれば、その方が自然だ。団体戦はチームで戦うのだから、団体戦前のこの時期には、戦術や立ち回りを個々に練習するよりも、チームの全体練習をした方が勝率も上がるだろう。

 けれど、最後と言うのと測定はなにか関係があるのだろうか?そもそも魔力の測定って測ってどうするというのだろう。

「うん、何か結果を残すと、いい事あるの?」
「……基準値というものがあるからねぇ、下回ると、少しだけ面倒事がある」

 口ぶりからして、下回ってはいけないものなんだろう。少しの面倒事なんかでは無いと思う。しかしクリスティアンは今年は私で誤魔化しても、来年も魔力量は変わらないだろう。

「…………それって……クリスティアン、来年はどうするの」
「どうにでもするよ?今年は君でどうにかするのだしねぇ」

 彼は少しも悪びれずに微笑んで、リーダークラスに合流していく。

 彼は、アウガスの貴族連中へと声をかけた。相変わらず、ローレンスとは別派閥らしいのだがこういう場面でしか、それを感じる事も少ない。

 それに、今や貴族派は勢いを無くしているとサディアスは言っていた。それもこれも……。

 視線をさ迷わせてローレンスの姿を探す。その傍には、シャーリーの姿があり、彼女は扇子を広げて口元を、隠しつつ朗らかに微笑んでいる。

「……やっぱり、嫌なもの?」
「何が?」
「……殿下のお心変わり。それに君、シャーリーには痛い目に合わされていたでしょ?」

 なんだか既視感のある会話だなと思いつつ、ローレンス達から視線を離さずに言う。

「別に、ララもそんなに気にしないんじゃない?」

 私も気にはしない。それに、シャーリーに狙われ続けるかもしれないのが正直一番怖かった。

 記念祭の日、私はまんまと罠に嵌って公開試合に出ていた。

 その間に、チェルシーとシンシアは危険な目に遭わされて、そして、反撃によって、元同級生であった、リアちゃんを殺してしまった。

 それ以降、いろいろと、サディアスは後処理なるものに追われていて、私はチェルシーとシンシアの心のケアに教会に通ったり、時には同じ部屋で過ごして忙しい時間が続いた。

 ただ、事を仕組んだ張本人である、シャーリーはリアちゃんとの繋がりなどの証拠は一切出す事も無く、単純に私には試合で負けていたけれど、私のチームメイトの心に酷い傷を負わせるという事には成功していた。

 これ以降、公開試合でシャーリーを負かしてしまった手前、今度はどんな事をされるのかと不安だった。

 ただその不安は、最近になって解消された。
 
「正直安心してるよ、ローレンスに陶酔してくれて、メロメロって感じだもんね。あれなら、刺激しなければ何もしてこないだろうし」
「まぁ、そうか。そうだよね、しかし殿下もさすがだよね。クリスティアンにも負けないんじゃない?」
「流石って……人心掌握術的なこと?」
「うん、確かに魅力的な人だと僕も思うけど、タイミング的にあの人を味方につけるって狙ったとしか思えないよね」
「……」

 ローレンスは、近寄って来たララと二言、三言、話をして、それなりに機嫌が良さそうな笑顔を浮かべる。ララはシャーリーと一瞬視線を交わすが、あからさまに無視して去っていく。

 シャーリーが何か気を引くような事を言ったのか、ローレンスはシャーリーの方を振り返り、それから、ララに向けるのとは違う笑顔を浮かべて、ふとシャーリーが伸ばした手を避けるような仕草をする。

 シャーリーは行き場を失った自らの手を見つめて、それでも、焦らされているようなそんな、甘美な表情を浮かべて、ローレンスを恋しそうに見つめる。

 ローレンスは、それをどうでもいいような笑顔で、見つめ返しながら話を続けていた。

 傍から見ても、シャーリーがローレンスに惚れ込んでいることは、明白で、手を繋ごうとしたり、髪に触れようとするシャーリーをローレンスがのらりくらりと交わしている様子だ。

 割と軽くあしらっている感じがあるのに、シャーリーは既にローレンスの事しか見えていないようで、確かに人心掌握と言えば、人心掌握だ、それもだいぶ規格外の。

 ……こんなに短期間で、あんなに惚れさせるってどうやるんだろ。

 まったく分からないが、私の中での脅威がやっと去ってくれて良かったという思いもある。けれど、ローレンスが好きという顔をして彼のそばにいる彼女がとても居心地良さそうで、嫉妬しないわけでは無い。
 
 ララだったらまるで何も感じないし、気軽に話しかけれもすると思うが、彼女だと見ていることすら少しイラつく。

 先程、ディックに全然気にしないといったはずなのに、シャーリーが一人だけ先に春の季節にいるようなふわふわとした雰囲気に、目を逸らした。あまりイラつくと、クリスティアンがびっくりしてしまうだろう。



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