異世界でもギターしかなかった

bbbcat

文字の大きさ
1 / 28
第1巻 異世界でもギターしかなかった ~迷わずの森とバーウの村~

第1話「俺のことと地獄の日々のこと」

しおりを挟む
**************************************
------------------------------------------------------------------------------------------------   
   
―――君の生きる世界はどんな色をしてる?
   
      
 ……いや、実際に見た感じビルが多いから灰色だとか。
今、たまたま黒猫が横切ったから黒色とかそういう話じゃなくて。
   
 簡単に言ったら、楽しい時は明るい黄色。
悲しい時は深い青。
恋をしている時は桜のように淡いピンク……とかね。
もちろん感じ方は人それぞれだけどさ。
   
 例えば、俺の場合は音楽が好きだからさ。
  
 楽しい時はレゲェの神様、ボブマーリーのような陽気な黄色。
 悲しい時はコールドプレイみたいに、一音一音の無数のリズムの針の穴に、一曲通して外すことなく精密にメロディの糸を通していくような繊細な青。

 あとは……そう。

 春の淡い恋みたいにふわふわしたピンクのモーツァルトとかね。
   
 まぁなんでもいいんだよ。
ようは、「気持ちで世界は鮮やかに彩られるはずだ」って事を、
言いたかったんだ。

 その色は、毎分毎秒みんなの心の動きに合わせて、
「クルクル」と変わっていく。
それが人の生きる世界の、日常のありようってやつだと思うんだ。
   
 でも俺の世界は、普通の人の言う毎日とは、かけ離れてると思うよ。

 結構。
……いや、かなり極端にね。

 例えば、天国と地獄みたいにさ。
生きてる日々の殆どが地獄みたいな、
真っ黒いヘドロみたいな色をしてる。
何故だかはまぁ、すぐにわかると思うけど。

 だけど、「殆ど」って言うからには、少しは幸せに感じることもあるわけだ。

 ……それはギターを弾いてるときだね。

 ギターを弾いているときだけ天国のラッパが鳴ってるみたいな幸福感でさ。
音楽に触れている時だけは、
ピンライトに当てられて光の真っ白の中にいるみたいな気持ちになって、
地獄を忘れられる。

 まぁ実際にスポットライトに当てられてるわけじゃないけどね。
……ライブとかしたことなかったし。
自分だけでがむしゃらに弾いてるだけなんだけどね。
それでも十分に鮮烈な白を感じられる瞬間。
  
 あの白い世界で、天国みたない気持ちでずっとずっと生きていけたらなぁ。
ホントにそれだけで幸せなのになぁ……。


  ……。

  …………。

「―――おい、幸ちゃんよぉ~……。」
  
  …………。

  ……。

 あぁ、俺の地獄の世界から呼ぶ声がする。


   
「―――いつまで気絶してんのよ?
 椅子がプルプルしてたら本が読みにくいだろうがよぉ~」

    
          ――意識が地獄に引っ張られる――
   
------------------------------------------------------------------------------------------------
**************************************

 意識が戻ると、地獄でもなんでもなかった。
空の一番高い所に太陽は昇っている。
   
 ここは、星城高校の屋上。

そして、“佐倉幸《さくらこう》”は椅子になっていた。

 その椅子に座っているのは三年生の番を張っている“毒巻”という生徒である。
「お~い、幸ちゃん。やっと起きたかよぉ。
 先輩の世話するのが後輩の役目だろぉ?
 誰が寝て良いって言ったよ。
 ちゃんと椅子になってないとダメだろぉ?
 なぁ、おい。教育が必要だよなぁ。
 ……左尻なw」
   
 毒巻がそう言うと、毒巻の取り巻きAみたいな生徒が、半笑いで、手も足も出ない、佐倉幸の学生ズボンとパンツをガッと引き降ろした。
   
「……はははっ。
 ちっ、ちょっと先輩達、やっ、やめてくださいよ。」
生気のないひきつった笑い顔で、ひどく小さな声で幸は訴える。
もう一年以上同じような昼休みが繰り返されている。

 抵抗することが無意味なことを幸は知っていた。
   
 そして、取り巻きBのような生徒が手に持った煙草を幸のお尻に押し当てた。

「……!?!
 あっ熱、熱い!痛い!」
佐倉幸は反射的にその激痛を声にだす。
   
 取り巻きBは煙草を幸から離さない。

    「ジュ~……。」

 皮膚が焼ける音がする。
700度の温度が少しずつ皮膚を溶かして入っていく。
   
「幸ちゃんよぉ、これは教育だから俺達も仕方なくやってるんだよ。
 お前が立派な後輩になれるようにな。
 でも、厳しいことばっかりが、先輩の教えってわけでもねぇよなぁ?」
毒巻は四つん這いになっている幸の背中の上で、最近話題の異世界ファンタジー小説を片手に説いてくる。
   
「……幸ちゃんよぉ。
 異世界にもし俺達が転生されたとしたら、何が一番重要かわかるか?
 当たったら、根性焼き止めてやるよ。」
幸の涙も出ないような痛みを、弄ぶようにどうでもいい話を問いてくる。
   
「……っつぅ。
 ……い、異世界?
 んっ……、なっ、何者にも負けない……。
 あっ、圧倒的な強さ……。」
あまりに今の状況とかけ離れている異世界。
幸の答えは、とりあえずはこの現実世界で、幸が全く持っていないモノである。
   
「それもまぁ大事だけどよぉ~。
 バッカだなぁ!お前はw
 ラッキースケベに決まってるだろうがよぉ!」
しょうもない答えを毒巻は高らかに叫んだ。
   
「「おおぉ!さすが毒巻さん!」」
取り巻きA、Bは声をそろえて賛同した。
   
「ジュ~……。」

 結局取り巻きBの持った煙草の火は幸のお尻の皮膚を焦がしつづけ滔々と消えた。
   
「っつ……。」
   
 幸はもう痛みに反応も出来なかった。
   
**************************************
------------------------------------------------------------------------------------------------

 ……これが俺の日常。
イジメってやつだね。
   
 俺の場合は、全校で一番の人気者で、カリスマみたいなやつに、一回だけ小突かれたことがあってさ。
それが突撃のラッパの合図みたいになってさ。
全学年の全員が急に辛く当たってくるようになったんだ。
  
 まぁその人気者の奴"矢倉臣是《やぐらただおみ》”は、
ホントにあの時の一回だけなんだけど。
やっぱり影響力って凄いね。
それ以降みんなのサンドバックみたいになっちゃった。
   
 ---たったその一回の出来事で?---
   
 ……いや、きっとそれだけじゃないよね。
俺は運動もめちゃくちゃ音痴だし、勉強も全く出来ない。

 恋人なんかも出来た事ないしね。

 いろんな才能が全然ないんだ。
……まぁ1つだけ自信のあるものもあるけど。

 とにかく何にも出来ない俺は、
他の奴らからは一人だけ色が違うように見えたんだと思う。
違う色してたらさ、排除したり差別したり、攻撃の対象になるのは当然だよね。

 ……きっと。
   
 それに、生きてるだけで、嫌なことなんて降って湧いて来るんだから。
俺はみんなのはけ口にちょうど良かったのかもしれない。
   
 みんなから色々されるけど、毒巻っていう3年の先輩からの仕打ちが、一番辛いかな。
 昼休み学校の屋上に連れ出されるんだ。
それも毎日ね。
   
 先輩は根性焼きが好きでさ。
たぶんいつも読んでる異世界物の小説と同じくらい好きなんだ。

 ……あの本も毎日読んでるからなぁ。
【異世界でもリア充でありたい】ってラノベ。

 高校生が急に異世界に転生されて、勇者になって、女の子にモテモテでついでに魔王も倒して栄光を謳歌する冒険譚。
 もし俺が異世界に行ったら簡単に魔物に殺されちゃうだろうな。
なにせ何も才能がないから。
   
 まぁありもしない異世界の話は置いといて。
このイジメが始まったのは、一年の梅雨が明けた頃からだったと思う。
  
 背中とかお尻とか、穴だらけだよ。
頭もところどころ10円禿になってるしね。
乾いて来るとカチカチの穴になって、まぁ痛みはなくなるんだけど。
それまでは、ずっとジュクジュクしてジンジンして熱い。
 でもまぁ、見えないとこにばっかりつけてくるから。
制服とかも穴開けないしね。

 ……そこだけは助かってる。

家族にはバレたくないんだよね。

 イジメられていること。
   
 毒巻先輩達以外は、ひそひそ話でなんかひどい事言ってたり、机が落書きされてたり、上靴に画鋲が入れられてたりって感じかな。

 いやそりゃ言い切れないくらい他にも色々あるよ。
 有り過ぎて忘れちゃいたいくらいにさ。
   
 なんでみんなそんなに酷い事するのかなぁ?
はけ口にしては酷過ぎやしないかい?

 俺に当たることが、みんなの楽しいや、
嬉しいや、幸せなのかなぁ?

 そんなことがって言ってしまえる人生って何?
みんなの目には世界はに映ってるんだろう?
   
 毎日毎日。
おんなじ日常が俺を責め立てるんだ。
 俺は高校2年生なんだけど、学校生活がこう苦しくっちゃ、どこで息していいのか分かんない。

 もうずっと地獄の中にいるように感じちゃうんだ。
   
 笑い方なんかもう忘れちゃったよ。
 どういう時に笑うんだっけ?
 どういう風に笑うんだっけ?
   
 俺の顔がずっとへらへら笑ってるのが気にくわないって、みんながいうから、あんまり顔が見られないようにって、前髪をかなり伸ばしてるんだ。
  
 鼻ぐらいまで伸びてるよ。

 まぁ隠したところでイジメは当たり前のように襲ってくる。
だから、みんなの前ではついびくびくしちゃって、何も喋れなくなっちゃった。
  
 ……好きなバンドの事とか、ギターの事とか喋りたいことは沢山あるのになぁ。
   
 学校にいる時は本当に辛いんだ。
なんでなのかな?
俺は誰かを傷つけても、全然楽しくも嬉しくもないよ。
その逆だよ。俺は俺の力でみんなを楽しませたり、嬉しくさせたいよ。
  
 ……俺のギターでさ。
   
------------------------------------------------------------------------------------------------  
**************************************
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

唯一無二のマスタースキルで攻略する異世界譚~17歳に若返った俺が辿るもう一つの人生~

専攻有理
ファンタジー
31歳の事務員、椿井翼はある日信号無視の車に轢かれ、目が覚めると17歳の頃の肉体に戻った状態で異世界にいた。 ただ、導いてくれる女神などは現れず、なぜ自分が異世界にいるのかその理由もわからぬまま椿井はツヴァイという名前で異世界で出会った少女達と共にモンスター退治を始めることになった。

転生貴族の領地経営〜現代日本の知識で異世界を豊かにする

ファンタジー
ローラシア王国の北のエルラント辺境伯家には天才的な少年、リーゼンしかしその少年は現代日本から転生してきた転生者だった。 リーゼンが洗礼をしたさい、圧倒的な量の加護やスキルが与えられた。その力を見込んだ父の辺境伯は12歳のリーゼンを辺境伯家の領地の北を治める代官とした。 これはそんなリーゼンが異世界の領地を経営し、豊かにしていく物語である。

テンプレ最強勇者に転生したら魔女が妻になった

紡識かなめ
ファンタジー
七つの大陸、それぞれを支配する“七大魔女”── 魔力あふれる世界《アルセ=セフィリア》は、魔女たちによる統治と恐怖に覆われていた。 だが、その支配に終止符を打つべく、一人の男が立ち上がる。 名はルーク・アルヴェイン。伝説の勇者の血を引く名家の出身でありながら、前世はただの社畜。 高い魔力と最強の肉体、そして“魔女の核を斬ることのできる唯一の剣”を手に、彼は世界を平和にするという使命にすべてを捧げていた。 ──しかし、最初に討伐した《闇の魔女・ミレイア》はこう言った。 「あなたの妻になります。魔女の掟ですから」 倒された魔女は魔力を失い、ただの美少女に。 しかもそのまま押しかけ同居!? 正妻宣言!? 風呂場に侵入!? さらには王女や別の魔女まで現れて、なぜか勇者をめぐる恋のバトルロイヤルが始まってしまう!

スーパーの店長・結城偉介 〜異世界でスーパーの売れ残りを在庫処分〜

かの
ファンタジー
 世界一周旅行を夢見てコツコツ貯金してきたスーパーの店長、結城偉介32歳。  スーパーのバックヤードで、うたた寝をしていた偉介は、何故か異世界に転移してしまう。  偉介が転移したのは、スーパーでバイトするハル君こと、青柳ハル26歳が書いたファンタジー小説の世界の中。  スーパーの過剰商品(売れ残り)を捌きながら、微妙にズレた世界線で、偉介の異世界一周旅行が始まる!  冒険者じゃない! 勇者じゃない! 俺は商人だーーー! だからハル君、お願い! 俺を戦わせないでください!

異世界ビルメン~清掃スキルで召喚された俺、役立たずと蔑まれ投獄されたが、実は光の女神の使徒でした~

松永 恭
ファンタジー
三十三歳のビルメン、白石恭真(しらいし きょうま)。 異世界に召喚されたが、与えられたスキルは「清掃」。 「役立たず」と蔑まれ、牢獄に放り込まれる。 だがモップひと振りで汚れも瘴気も消す“浄化スキル”は規格外。 牢獄を光で満たした結果、強制釈放されることに。 やがて彼は知らされる。 その力は偶然ではなく、光の女神に選ばれし“使徒”の証だと――。 金髪エルフやクセ者たちと繰り広げる、 戦闘より掃除が多い異世界ライフ。 ──これは、汚れと戦いながら世界を救う、 笑えて、ときにシリアスなおじさん清掃員の奮闘記である。

異世界でぺったんこさん!〜無限収納5段階活用で無双する〜

KeyBow
ファンタジー
 間もなく50歳になる銀行マンのおっさんは、高校生達の異世界召喚に巻き込まれた。  何故か若返り、他の召喚者と同じ高校生位の年齢になっていた。  召喚したのは、魔王を討ち滅ぼす為だと伝えられる。自分で2つのスキルを選ぶ事が出来ると言われ、おっさんが選んだのは無限収納と飛翔!  しかし召喚した者達はスキルを制御する為の装飾品と偽り、隷属の首輪を装着しようとしていた・・・  いち早くその嘘に気が付いたおっさんが1人の少女を連れて逃亡を図る。  その後おっさんは無限収納の5段階活用で無双する!・・・はずだ。  上空に飛び、そこから大きな岩を落として押しつぶす。やがて救った少女は口癖のように言う。  またぺったんこですか?・・・

異世界転移から始まるハーレム生活〜チートスキルを貰った俺は、妹と共に無双する〜

昼寝部
ファンタジー
 2XXX年、X月。  俺、水瀬アキトは戦争の絶えない地球で『戦場の悪魔』と呼ばれ、数多の戦で活躍していた。  そんな日々を過ごしていた俺は、ひょんなことから妹と一緒に異世界へ転移することになった。  その世界にはダンジョンが存在しており、ライトノベルなどで登場する世界観と類似していた。  俺たちはその世界で過ごすため女神様からチートスキルを貰い、冒険者となって異世界での生活を満喫することにした。  これは主人公の水瀬アキトと妹のカナデが異世界へ転移し、美少女たちに囲まれながら異世界で無双するお話し。

処理中です...