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第1巻 異世界でもギターしかなかった ~迷わずの森とバーウの村~
第3話「運命のライブ」
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――……ざわざわ……――
ステージの垂れ幕の向こうから、ライブを待ちわびる観客の息遣いが聞こえる。
スピーカーやマイクスタンド、それらに繋ぐケーブルなど、ステージを作り上げるのに必要なものが、雑多に置かれ足の踏み場もない道。
本番前のステージは薄暗く、気を抜くと何かに引っかかってしまいそうだ。
佐倉幸《さくらこう》は足元を見ながら、自分の持ち場へとたどたどと歩いて行く。
真っ先に出て行った大鳥は、ギターボーカル。
胸にかけたギターは“ホワイトファルコン”と呼ばれる流麗なフォルムの代物だ。
ステージの中心に立ちおどおどと歩く幸を手招いている。
「幸。
暗いからゆっくりで良いぞ。
ほら、暗幕の向こう、お客さんの声聞こえるだろ?
結構呼んだからな、100人くらいはいるんじゃないかな。
まだ誰も幸の事を知らないんだぞ。
みんな幸のプレイをどんな顔して見るのかな。
うしし!今から楽しみだ。」
もう50歳手前なオヤジがまるで子供の様に笑っている。
幸の演奏に対しての強い期待を持っている。
「うしし。
リッ、リハーサルの時は緊張してたけど、今はホントに、たっ楽しみで仕方がないんだ!」
幸も、楽しみな事は間違いない。
――ただそれと同時に信じられないくらい心臓が飛び跳ねている。
大鳥の笑い方をマネながら返すことで幸は気を紛らわせそうとしている。
「お!その意気だ!
でも、せっかくのライブなんだから。
今日はしっかり顔みえるようにしないとな!」
大鳥は幸の緊張に気付いているのかいないのか、手首に巻いていた輪ゴムで幸の鼻先くらいまであった長い髪を頭の上に束ねて結んだ。
「ほら、これで幸の笑顔がよく見える。
うしし!」
大鳥はニカっと幸に笑いかけた。ただ嘘偽りなく幸とのライブを楽しみにしているようだった。
幸は、ライブが終わってゴムを外すとき、めちゃくちゃ痛いんだろうなと思いつつ、自分の後ろにあるアンプに目をやった。
それは“JC”(ジャズコーラス)と呼ばれるアンプだった。
アンプとは、ギターの音を増幅し、大きな音にするものだが、それを作る会社によって、全く違う音が鳴る。
このJCは、ロックやポップス、ジャズなど様々なジャンルに使用されるアンプで、汎用性が高い。
その分、自分だけの音を出すのが難しいのだが、幸はこのアンプを好んで使う。
セッティングもこだわらない。(普通はアンプのつまみの微妙なニュアンスに時間をかける)
全部ハーフ。
つまりは全て真ん中で、1番オーソドックスな状態。
足元にギターの音を加工するエフェクターと呼ばれるものを置いていない。チューナーすら置いてない。(ギターのチューニングを合わせる機械)
普通ギタリストならTPOに合わせて様々なエフェクターが足元に並ぶ。
それでも幸のギターは、幸にしか出せない特別な音がする。
そろそろ幕が開く。
幸は「ドキドキ」という胸の鼓動が口から出て耳に聞こえて来ている気がする。
それすらも楽しいと感じている自分が居るのが分かる。
いい緊張状態だ。
――幕が開いた。
「「「「わー!キャー!!」」」」
どすの効いた男の野太い声や、黄色い声援が飛び交う。
超満員の客席。
普段は毛虫のように嫌われている幸も、ここでは羨望の目で見つめられている。
大鳥がマイクを持って喋りだす。
「どうもこんばんは!
birdsです!」
大鳥のMCが終わると同時に、ドラムがカウントを打つ。
メインギターのリフが唸りだす。
幸も同時にギターをかき鳴らす。
それぞれの音が重なっていき、爆音のロックサウンドが紡ぎだされていく。
音楽が客席に溢れ出す。
観客は降りかかる音楽を楽しそうに浴びている。
幸は、客の顔がみるみる最高の笑顔になっていくのを見た。
自分が誰かを幸せにする瞬間。
それはこんなにも楽しくって楽しくって仕方がない物なのか。
自分の出す音が波になって飛んで行くのが見える……気がするほどのハイな状態。
間奏中、大鳥がセンターから幸の方へやってきて、向かい合ってギターを合わせながらの演奏。
地獄にポツンと一人で耐えていた幸にとって一緒に演奏するのは今までにない感覚であった。
スポットライトに照らされて、幸はニヤニヤと笑顔が止まらない。
忘れてたはずの笑顔。
それは作るものじゃなくて、自然になるものだった。
今日は前髪を頭の上で結んでいるので、良く見える。
見ている客もつられておんなじ笑顔になっていた。
“♪~♪~♪~”
幸のギターソロが来た。
真っ白な天国のような眩い光の中で、幸せそうにギターを掻き鳴らす。
超絶技巧、運指が見えないほどのスピード。
客席へ光のシャワーのように音が溢れ出す。
激しくも優しい音色が降り注ぎ、客席にいる全ての人が聞きほれている。
この時、盛り上がりも最高潮に達し、幸は気持ちよくて楽しくて、夢の中に消えていきそうに感じていた。
自らが光の中心にいてどんどんまぶしくなって、次第に大鳥も、ほかのメンバーも観客も見えない遠くに消えていくのを感じた。
もっと、もっと、光の中へ……。
……。
…………。
………………。
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――……ざわざわ……――
ステージの垂れ幕の向こうから、ライブを待ちわびる観客の息遣いが聞こえる。
スピーカーやマイクスタンド、それらに繋ぐケーブルなど、ステージを作り上げるのに必要なものが、雑多に置かれ足の踏み場もない道。
本番前のステージは薄暗く、気を抜くと何かに引っかかってしまいそうだ。
佐倉幸《さくらこう》は足元を見ながら、自分の持ち場へとたどたどと歩いて行く。
真っ先に出て行った大鳥は、ギターボーカル。
胸にかけたギターは“ホワイトファルコン”と呼ばれる流麗なフォルムの代物だ。
ステージの中心に立ちおどおどと歩く幸を手招いている。
「幸。
暗いからゆっくりで良いぞ。
ほら、暗幕の向こう、お客さんの声聞こえるだろ?
結構呼んだからな、100人くらいはいるんじゃないかな。
まだ誰も幸の事を知らないんだぞ。
みんな幸のプレイをどんな顔して見るのかな。
うしし!今から楽しみだ。」
もう50歳手前なオヤジがまるで子供の様に笑っている。
幸の演奏に対しての強い期待を持っている。
「うしし。
リッ、リハーサルの時は緊張してたけど、今はホントに、たっ楽しみで仕方がないんだ!」
幸も、楽しみな事は間違いない。
――ただそれと同時に信じられないくらい心臓が飛び跳ねている。
大鳥の笑い方をマネながら返すことで幸は気を紛らわせそうとしている。
「お!その意気だ!
でも、せっかくのライブなんだから。
今日はしっかり顔みえるようにしないとな!」
大鳥は幸の緊張に気付いているのかいないのか、手首に巻いていた輪ゴムで幸の鼻先くらいまであった長い髪を頭の上に束ねて結んだ。
「ほら、これで幸の笑顔がよく見える。
うしし!」
大鳥はニカっと幸に笑いかけた。ただ嘘偽りなく幸とのライブを楽しみにしているようだった。
幸は、ライブが終わってゴムを外すとき、めちゃくちゃ痛いんだろうなと思いつつ、自分の後ろにあるアンプに目をやった。
それは“JC”(ジャズコーラス)と呼ばれるアンプだった。
アンプとは、ギターの音を増幅し、大きな音にするものだが、それを作る会社によって、全く違う音が鳴る。
このJCは、ロックやポップス、ジャズなど様々なジャンルに使用されるアンプで、汎用性が高い。
その分、自分だけの音を出すのが難しいのだが、幸はこのアンプを好んで使う。
セッティングもこだわらない。(普通はアンプのつまみの微妙なニュアンスに時間をかける)
全部ハーフ。
つまりは全て真ん中で、1番オーソドックスな状態。
足元にギターの音を加工するエフェクターと呼ばれるものを置いていない。チューナーすら置いてない。(ギターのチューニングを合わせる機械)
普通ギタリストならTPOに合わせて様々なエフェクターが足元に並ぶ。
それでも幸のギターは、幸にしか出せない特別な音がする。
そろそろ幕が開く。
幸は「ドキドキ」という胸の鼓動が口から出て耳に聞こえて来ている気がする。
それすらも楽しいと感じている自分が居るのが分かる。
いい緊張状態だ。
――幕が開いた。
「「「「わー!キャー!!」」」」
どすの効いた男の野太い声や、黄色い声援が飛び交う。
超満員の客席。
普段は毛虫のように嫌われている幸も、ここでは羨望の目で見つめられている。
大鳥がマイクを持って喋りだす。
「どうもこんばんは!
birdsです!」
大鳥のMCが終わると同時に、ドラムがカウントを打つ。
メインギターのリフが唸りだす。
幸も同時にギターをかき鳴らす。
それぞれの音が重なっていき、爆音のロックサウンドが紡ぎだされていく。
音楽が客席に溢れ出す。
観客は降りかかる音楽を楽しそうに浴びている。
幸は、客の顔がみるみる最高の笑顔になっていくのを見た。
自分が誰かを幸せにする瞬間。
それはこんなにも楽しくって楽しくって仕方がない物なのか。
自分の出す音が波になって飛んで行くのが見える……気がするほどのハイな状態。
間奏中、大鳥がセンターから幸の方へやってきて、向かい合ってギターを合わせながらの演奏。
地獄にポツンと一人で耐えていた幸にとって一緒に演奏するのは今までにない感覚であった。
スポットライトに照らされて、幸はニヤニヤと笑顔が止まらない。
忘れてたはずの笑顔。
それは作るものじゃなくて、自然になるものだった。
今日は前髪を頭の上で結んでいるので、良く見える。
見ている客もつられておんなじ笑顔になっていた。
“♪~♪~♪~”
幸のギターソロが来た。
真っ白な天国のような眩い光の中で、幸せそうにギターを掻き鳴らす。
超絶技巧、運指が見えないほどのスピード。
客席へ光のシャワーのように音が溢れ出す。
激しくも優しい音色が降り注ぎ、客席にいる全ての人が聞きほれている。
この時、盛り上がりも最高潮に達し、幸は気持ちよくて楽しくて、夢の中に消えていきそうに感じていた。
自らが光の中心にいてどんどんまぶしくなって、次第に大鳥も、ほかのメンバーも観客も見えない遠くに消えていくのを感じた。
もっと、もっと、光の中へ……。
……。
…………。
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