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第1巻 異世界でもギターしかなかった ~迷わずの森とバーウの村~
第18話 「楽しい夜」
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日は完全に落ちていた。
迷わずの森に闇が訪れる。
月明かりは木々の青々に弾かれ、落ちては来ない。
電気も何もないこの森では、手に届く範囲すら真っ暗で見えなくなっている。
異種族混合村はだだっ広く拓かれており、月明かりがまるでスポットライトのようにそっと光を落としていた。
しかし、まだまだ暗い夜の中。
すると、"ソードマスター"のサイクロプスが凛とそびえる大木を一刀でへし折り、その太く大きな幹が地に着くまでに分割し、歪ながらキャンプファイヤーの大きな木枠を村の中心に設置する。
自重で落ちてくる生い茂る葉や枝は、それまた地に着くことなく、手に持つ棍棒で、細々と粉砕し、木枠の中に雪崩れ込む。
そして仕上げは"ハイマジシャン"のスライムが無詠唱で唱えた"フレイム"。
それは計り知れない超大な豪火球だが、スライムはそれを人間の赤ちゃんの親指程に圧縮し、【永遠に消えない種火】として、その木枠に放り込む。
月明かりだけが頼りだった村は、まるで「エジソンなんていらんかったんや」と言わんばかりに、一瞬で、煌々と彩られる。
…………。
……。
村中の魔物が当然の様に焚き火の前で、今か今かと待っている。
しかも、前回の演奏の時よりも魔物の数が明らかに増えていた。なぜそう言えるのかと言うと、ケンタウロスが2体いるから。
大蜘蛛もついになっているし、あっ…ゴブリンも。
そう、混合村外からも、魔物達が幸の演奏を聴きに来たのだ。
ざっと見て、80体程の魔物を前に、幸とキヨラとピーネは立っていた。
サイクロプスが夕暮れにさっと作ってくれていた、簡易の木の幹ステージの上。
キヨラは大量の魔物の前に、流石に白目を剥いて泡を吹き、ピーネは自身の心臓の"バクバク"との戦いの最中で上の空。
幸はと言うと、それはもう楽しみでしょうがないという風にニヤけているのだっだ。
“チャチャッ”
幸が、左手でミュート(弦を触り音が出ない様にする技法)しながら弦をピックで上下に掠める。
「楽しんで行こうよ。」
ピーネとキヨラの顔を見て、はにかみながら言う。
ピーネとキヨラの頬が真っ赤に染まり、目はハート。
しかし、嘘みたいに、恐れや緊張が解け、コンセントレーションのベクトルが重なり合わさっていく。
「じゃあそろそろ始めようか!
曲は……。」
幸がピーネのハープをチラリと見た。
「GM7 → F#7(♭13) → Bm7(9)」
”スッチャッチャチャ チャッ チャー”
幸が、"バッキング"と呼ばれる奏法で奏で始めた。
それはシンコペーション(繰り返し同じ音を弾くこと)し、一定のリズムを刻み縁の下支えとなり、他者を引き立てるものである。
キヨラがすぐさまに気づく。
これは曲と言うよりかは、ジャズのスタンダードなコード進行で、その場その場でアドリブで紡ぎ合うものであると。
そして、バイオリンを顎に挟み、ヘッドを月に突き刺すように高々とあげる。
“♪~♪~”
キヨラは、幸が定めたコード進行と言うルールに則り、自由に演奏する。
その演奏は伸びやかで、魔物達の目が優しく垂れ下がり穏やかにため息を吐く。
「美しい……。」
「色っぽい……。」
「天に登ってしまいそう……。」
魔物達が、キヨラや幸にも伝わる様に感嘆する。
“ペン ポパンポン ペン ポパンポン”
ピーネがそこに合わせてくる。
キヨラの演奏に寄り添い、一音一音、時にはキヨラのヴァイオリンを強調し、共闘するように……。
ピーネとキヨラが目配せし合う。
二人は気持ちを分かち合う。
“ジャジャッジャジャージャジャッジャジャー”
ここで幸のストローク(右手のピックの上げ下げのパターン)が変わる。
一括りのバッキングの後に"タンタン"と2拍分休符が入る、それが気持ちいい。
ここの意味もキヨラは直ぐに理解する。
「さぁ、ここからピーネ……。
君のソロ演奏だよ。」
幸がそう言っているようだ。
キヨラは、キーの音で一音綺麗に伸ばし続けながら、ピーネに目をやり、そして託した。
“♪~♪~”
ピーネも託されたことが判り、精一杯の自分のアイデンティティを誇示する。
その演奏は、少し曖昧で、ぶっきらぼうに音の粒が浮かぶ。
カラフルに染まるそれらは、耳心地良く、そして可愛らしい。
「ピーネやるじゃないか。」
「抱かれてー。」
「楽しい。」
魔物達が口々にピーネを賞賛する。
ピーネも口がニンマリとして、とても嬉しそう。
幸のギターの魔力の一つ。
【協奏】
幸と一緒に演奏するものは、幸の魔力を共有し、また、複数に増える事で、幸自体の魔法の力も増加する。
誰もが幸せに満ちている空間。
そして、ピーネとキヨラの関係はと言うと。
わだかまりなどなく、ずっと昔から一緒に暮らしている姉妹かのように笑いあって演奏しているのだった。
“♪~”
…………。
……。
3人の初めてのセッションは大成功に終わった。
**************************************
ライブも終わり、またも催される大宴会。
皆が"ルーコルア"を手に、わいわいと喋り出す。
幸は、魔物達に囲まれ賞賛の嵐。
しかし、前回と違い、おどおどとせず、魔物達一人一人と目を合わせて喋れている。
幸せそうだ。
…………。
……。
そして、キヨラとピーネはと言うと、しっぽりと二人で飲んでいた。
「はぁー……、何?
このルーコルア。
甘くて優しくてフワフワして最高。」
キヨラは初めて飲む、幸せの飲み物に感動している。
「ルーコルアだ!
どうだキヨラ!
最高だろう?」
ピーネは魔物の特産品を褒められ鼻高々。
「ピーネ。
……あなたの演奏も最高だったよ。
ハープ上手いじゃん。」
キヨラがハープを弾く振りをして讃える。
「だっ、だろ!!
俺も上手いだろ!!!
でもでも、キヨラもめちゃくちゃ上手かったぞ!!
俺もびっくりした!!
とっても感動したぞ!!」
ピーネは嬉しさを隠せないようで、せかせかと訴える。
二人は目を合わせて笑い合う。
そしてハグしながら。
「私達、」
「俺達、」
「「もう友達だ!!」」
そして、キヨラは続ける。
「友達なのは分かったけどさ……。
《幸の事》は……?」
悪戯っぽくピーネに目配せする。
「……あっ、ああ。
もちろん幸だって、キヨラとなら許してもいいさ。」
かなり名残惜しそうだが、妥協点らしい。
「許すって言うのはどこまでかなぁ~?
行くとこまで行っていいのかなぁ~?」
キヨラがまた悪戯っ子のように笑う。
「○×△☆♯♭●□▲★※!!!
だっだめ!!
それはまだダメ!!!」
ピーネはルーコルアを持ったまま羽根を大きく広げて威嚇する。
「はははっ!
冗談だよ。
でも幸から言い寄って来たら知らないからね~。」
最後に悪戯っ子はピーネのモチモチしたほっぺたをツンツンしながら言うのだった。
「ぜっ、絶対に最初は俺だから!!
幸の一番は俺だからー!!」
ピーネの精一杯の強がり。
そして、思い思いに楽しい夜は更けて行く……。
………………。
…………。
……。
**************************************
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