俺と幼女とエクスカリバー

鏡紫郎

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第三章 恋する駄女神

第163話 猛撃の合成魔獣

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 そんな俺の呟きに、一つ頷くシャーロット。

 薄々感じてはいたけど、この世界の生き物って俺達の居た世界と同じ名前のものが多いよな。まぁ、異世界系ラノベでも大半がそうだし、この世界でもその法則性が有効と考えれば違和感はない。それに、見方によっては、翻訳機能が正常に機能しているだけともとれる。

 んー……考え過ぎか。

「……大丈夫?」

 元居た世界とこちらの世界、双方の親和性に突如違和感を感じ、考え込む俺の事を怖気づいたと勘違いしたのか、シャーリーから心配の言葉を投げかけられる。

(ん……あぁ、問題ない)

「……ん」

 普段と変わらぬ俺のトーンに納得したのか、彼女は軽く返事をし、俺に魔力を注ぎ始める。

 徐々に満たされる俺と言う名の器、全身がシャーロットと呼ばれる極上の魔力に侵食される直前、その力を体外へと放出、光の膜へ変換し、刀身へと纏わせる。

 聖なる魔力を宿し、光剣となった俺を戦闘再開の合図と受け取ったのか、先手を取ったのは合成魔獣キマイラ。強面な口を勢いよく開き、喉奥で練り上げた火炎弾を俺達向けて吐き付ける。

 正面から飛来する強大な一撃を、姿勢を低くする事で回避したシャーリーは、低姿勢のままキマイラへと走り出す。右側面に蛇行しながら近づく彼女を、魔獣は左手で薙ぎ払い迎撃しようとするが、その行動を読み切ったシャーリーは空中へと飛び上がる事で回避、キマイラの手を足場とし二度目の跳躍を行なうと、前方へと一回転、全体重と加速を乗せた強烈な一撃をやつの額へとお見舞いする。

 輝く俺の刀身は、キマイラの顔面を縦に一刀両断、するはずだった。しかし、恐るべき皮膚の硬さと剛毛に阻まれ、俺の体は易易と弾き返されてしまう。その反動によって体勢を崩したシャーリーを喰らおうと、キマイラの巨大な顎が俺達の眼前へと迫った。

(くっ、シャーリー!)

 歴戦の勇士である彼女と言えど、空中では姿勢制御もままならず、俺達に逃げ場はない。そこでやむなしと、シャーリーは俺の体をつっかえ棒代わりとし、強引に魔獣の口内へ差し込むことを選ぶ。

 これでも俺は聖剣だ、簡単に砕ける事は無いだろう。実際、彼女を守る支えとして十分に機能している。とは言え、このままではどうすることも出来ない。

 それに、なんと言っても口の中が臭い。臭い、臭すぎる! 獣独特の口臭に鼻がひん曲がり、少しずつ力が抜け、魔力の定着が不安定になりかける。更に厄介なのは、こいつの歯の硬度だ。光剣が直接刺さっていると言うのに、まるで物ともせず、むしろ……こちらが削られている!? 

 まずい、まずいぞこれ。このままだと、本気で噛み砕かれる。そう意識すると同時に、刀身を覆う光の膜にヒビが入り始めた。それに気づいたシャーリーも、キマイラの鼻先へ必死に拳を叩き込むが、岩のようにびくともしない。

 正しく万事休す、これで終わりか。人間ってやっぱ、死ぬ時はあっさり死ぬんだな。そんな、諦めにも似た感情を抱いていると、突如大きな振動に襲われ、体と心に揺さぶりがかかる。上下から均等に噛み締められる感覚、それが弱まるのと同時にキマイラの口内から一気に引き抜かれ、俺は一命を取り留めた。

 その直前、何が起きたのかと辺りを見回すと、左手を前方に突き出すスクルドの姿が目に入る。どうやら俺は、またあいつに助けられたらしい。

「……トオル!」

 っと、感傷に浸る余裕はないか、まだ戦闘は続いているんだ。耳に響いたシャーリーの一括に、俺は意識を集中させる。

 後方へ距離をとったシャーリーが俺の体を振り抜くと、光剣と共に魔獣の唾液が振り払われ、ネバついた感触や痛烈な臭いから解き放たれる。続いて、すぐさま光剣を再展開し、首を振るキマイラの顔を睨みつけるが、スクルドの攻撃すら効果の程は感じられない。それどころか、楽しんでいるようにすら見える。

 強い。皮膚の硬さもさることながら、行動があまりにも的確すぎる。立ち回りを含めた戦闘力では、明らかにゴーレムより上手。下手をすれば魔神クラスの強敵だ。もう一度判断を誤ったら、次は本当に殺られる。

「トオル様! 尻拭いは私が受け持ちます! ですから、全力でぶつかってください!」

 苦戦する俺たちを見て、スクルドが激励の言葉をかけるが、そう簡単に動けないのが実情。くそ、尻拭いとか、気楽に尻尻言いやがって……それに、全力でと言っても相手に隙が無さすぎる。

 攻める時は当然とし、距離を取れば追いつかれ、体勢を立て直す暇も与えられず、必然的に攻め続けざるお得ない状況を作り出される。守れば守るほど追い込まれるこの感じ、まるで歴戦の傭兵を相手にしているかのようだ。

 格闘ゲームなんかで上手い人に当たると、こんな感じで一方的になって攻め時を塞がれる事がある。要するに、今は相手のペース。キマイラの俊敏な動きに振り回され、全力で行こうにもチャンスが無いのだ。

 何とか隙を作り出そうと、シャーリーも果敢に攻め立てるが、何度打ち込んでもことごとく両腕に弾かれ、まともにダメージを与えることが出来ない。こんなんじゃ拳を叩き込んでた方がましなんじゃ。

「……拳じゃ……だめ……コアに届かない」

 野獣と二人死のワルツを踊る最中、突然意識をシャーリーの瞳に奪われると、やつの体の中心に、巨大な歪みのようなものがある事に気付かされる。

(今のって……あいつのコア?)

 視界のリンクを切られた俺に、彼女は頷き肯定の意を示す。

「……皮膚を……貫くには……トオルが……必要」

 ギリギリの立ち回りを続けながらも、俺を頼ろうとしてくれる彼女の気持ちに報いたい。けれど、今の俺のじゃこれが限界だ。

(こうなったらディアインハイトで)
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