俺と幼女とエクスカリバー

鏡紫郎

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第三章 恋する駄女神

第102話 事象変動魔法

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「……呪いの中和……だけじゃなく……属性の反転まで」

 っと、話を戻そう。このまま脱線し続けるのは、真面目な表情で思い悩む彼女に対して失礼すぎる。それに、あの時はあの状況を切り抜ける事に必死で考えもしなかったが、俺は天道を悪魔から天使に変えたんだよな。今までディアインハイトのことを単なる解呪魔法と捉えていたが、本質は違うのかもしれない。

「それについてなのですが、少々宜しいでしょうか」

 と、これから色々考察してみようと考えていたのだが……ここに居るじゃねぇか。コイツを俺に授けてくれた張本人がよ!

(ああ、むしろそれを待ってた。スクルド、説明を頼む)

「はい! トオル様がディアインハイトツアエーレと名付けた魔法なのですが、実はあれ、簡易版超事象変動魔法なんです。簡易と言うだけあって制約は多いのですが、契約者様の状態をトオル様の意のままに操ることができるんです」

「ちょ、超」

「……じ、事象」

(超事象変動魔法って、それ、かなりヤバイやつじゃねぇのかよ?)

 俺に頼られたためか、嬉々として話すスクルドの難解な解説。そいつに動じず詰まること無く言い切ってみせると、戸惑う二人から感嘆の声が上がる。俺からしたら超事象変動魔法とか別に言い難くもなんともないと思うんだが。そう考えると、聞いたこともない名称にあっさりと適応する精神面に対する評価か。

 そっちに関しても、セクシャルなコマンドアーツとか、等しく滅びを与える魔法とか、超異次元なスポーツとか、死にかければ死にかけるほど強くなる戦闘軍団とか、光速の動きで時を遡る仮面戦士とか、そういうもん見すぎてきたからなぁ。ヤバイってのがわかっててもこの程度の名称で驚けってほうが、もう無理。

「はい。だからですね、その。スクルド、頑張ったんです、よ?」

 たぶんこれは、彼女が俺のためにディアインハイトの使用許可を得た時の話をしていると思われる。そんなスクルドは、褒めてとせがむ子供のような表情で俺へと迫って来た。実際、今の彼女は幼女体型なのでまんまなのだが。

 今までの動向を見るに、天道以上にこいつを調子づかせたくないという思いはある。しかし、この魔法のために彼女が頑張ってくれたのもわかっている。それに、ディアインハイトには何度も助けられてるからな。ちょっとばかし不服もあるけど、ここは素直に礼を言っておくか。

(そう、だな。あの時は助かった。スクルド、ありがとな)

 ありがとうの言葉を聞いたスクルドは、頬を赤く染めテヘヘと口に出しながら照れ笑いを浮かべる。その表情が、凛々しいイメージの戦乙女とは到底思えない可愛さで……って、俺はチョロインか。いや、俺の場合は男だからチョロ男か。更にかっこよく呼ぶのならちょろいヒーロー、略してちょERO……何故そこで略した。

 ともかく、女の子の笑顔に弱すぎるのだけはもうちょっとなんとかならんのかね俺。

(それで、超事象変動という部分はともかく、契約者って?)

 俺が女の子大好きという話はひとまず保留だ。何やら他にも気になることを言ってたからな。契約者の意味は何となく理解できるが、意のままに操るの部分が気になって仕方がない。意味合いによってはエロ妄想が捗る……その場合、シャーリーに殺されかねないリスク付きではあるが。

 どちらにせよ、しっかりと理解しておかなければならないという事に間違いはないだろう。

「あっ、そうでした。その辺りについての説明全然してませんね。とても重要なことなのにすっかり忘れてました」

 スクルドの、とても重要なのにすっかり忘れていたという言葉に俺は悪寒を覚える。

 こういう天然が、頭が良くて機械や薬品の説明に回ると、説明不足だったり、知ってて当然とか考えて怖いんだろうな。と思う瞬間だった。

「まずはですね、ディアインハイトの力はトオル様との想いが近くないと発動しません。かなりの信頼関係、親友でも問題はありませんが理想は恋心を抱くぐらい、恋人であることが望ましいです。その条件を満たしていれば男女問わず効果はでますが、恩恵を一度でも受けると契約という形で縛られることになります。そこから先はやりたい放題、というのは冗談ですが、トオル様が願えばある程度の力のコントロールが可能となります」

(その説明だと、もし二人が洗脳マインドコントロールなんかで敵に回った場合、俺が力を使えばこちら側へと引き戻せるってことか?)

「厳密に言えば違うのですが、兼ねその認識で間違いありません。一時的な洗脳意外に絶対服従も可能ではありますが、それの使用には両者に深いリスクが生じる可能性があります。ですので、そちらは完全に最後の手段とお考えください」

 スクルドの説明を聞くに、少女を守るための力に絶対服従権があって、使い方によっては神にも悪魔にもなれるって……これなんてエロゲ? 

 なんて冗談はともかく、想像以上にやばい力だなこいつは。一歩間違えればシャーリーや天道にあんなことやこんなことを……はーい、アウトでーす。何考えてんだよ俺は。

 そもそも、無理やりって行為は一番嫌いなんだよ。そういう事は合意の上でしたいし、女の子にも気持ちよくなって……はい終わり! 終わりでーす。くっそ、思春期男子特有って言われる女の子に対する妄想が全くコントロールできん! 自重せよ、自重せよ。

「先輩! 私ならいつでも! 常時! 万事オーケーだよ!!」

 明確に何をと言葉には出していないが、手を挙げて迫りくる眩しいまでに輝く彼女の笑顔だけで、天道が何を考えているかはなんとなくわかかった。

(……絶対に使わんから安心しろ)

 それをお約束どおりに一喝してやると、トボトボと彼女はベッドの上へと帰っていく。

 全く、このサキュバスは……って、よく考えたらあいつ元に戻ってねぇじゃねぇか! くっ、意識したら目のやり場に困る。とにかく人間に戻さないと。

(天道君、そろそろ戻ったら如何かね)

 ……何だこの口調、動揺してんのバレバレすぎんだろ!

「あっ、本当だ。どうりでお腹がスースーすると思ったよ」

 どうやら本人も、俺が指摘するまですっかり忘れていたご様子。こうなってくると、人間とサキュバスのどっちが彼女の本質なのかわからなくなってくるな。どっちも天道なんだとは思うが、サキュバスモードで外を闊歩するのだけは止めていただきたい。不注意で催淫されるとか、被害者の皆様が不憫すぎる。

「それで~、先輩はどの辺りが目のやり場に困ったのかなぁ?」

 そして、俺の不甲斐ない感情を人間に戻った天道さんはやはり見逃してはくれなかった。しかし、そんな彼女の挑発に動揺することなく俺はスルーを決め込む。

(スクルド、話を続けてくれ)

 俺に相手にしてもらえず再び不満そうにする天道だが、今回はあえて心を鬼する。あいつがふざけているだけなのはわかりきっているからな。

 この数日でいったい何度誘惑されたと思ってるんだ。いくらサキュバス相手とは言え、これだけ良いように扱われたら流石に慣れる。慣れるし、付き合ってたら体がもたん!

「はい。それでは話を戻しますね。更にそこから使用回数や契約者様の重複により効果は大きくなっていきます。ですが、それは当然トオル様に掛かる負担も大きくなります。重複発動も可能ですがこちらもオススメはできません。契約人数の方も今のトオル様を見るに二人が限界、三人以上だと折れる可能性も考えられますのでどうかお気をつけください」

(折れるってことは……スクルド、そいつは俺に死の危険性があるってことか?)

「剣が折れること、それがトオル様の死に直結するのかは正直私にもわかりません。ですが、それだけのリスクを背負っているということだけは忘れないでください」

 強大な力にはそれ相応のリスクが伴う。使う度にある程度は感じていたが、ディアインハイトを使用した俺は正しく諸刃の剣って訳か。

「大切なところが曖昧だぞー、使えないぞ―スクルド―」

 ここに来て曖昧な説明を見せるスクルドに対し、天道が元気よく食って掛かるのだが、この女、どう見ても俺をからかえなかった事に対する逆恨みである。全く、情けない。

「しょ、しょうがないじゃないですか! トオル様の存在は正直なところイレギュラーなんです。あの時は気にも止めませんでしたが、あんな要望が何故通ってしまったのか、私にも不思議なぐらいなんです」

 そして、このスクルドの発言で俺の存在が普通ではないということが証明された。それならこれだけは確認しておかなければならない。

(スクルド、そのイレギュラーである存在の俺を、天界は放って置いて良いのか?)

「それがですね、天界もトオル様のことを認識していないんです」

(……はぁ? それってどういう?)

 スクルドのトンデモ発言に、俺は素っ頓狂な声を出してしまう。俺をこんな姿にした張本人が知らないってのはわけがわからんぞ?

「オーディン様にもお尋ねしたんですよ。そしたら、知らん、気にするなと言われまして。ディアインハイトについても承認した形跡が無くてですね、正直私も困惑してるんです」

 ちょっと待て、いったいどうなってやがる? スクルドの落ち込みようから察するに嘘をついてるとは思えないし。

「……スクルド……使えない」

「シャーロットさんまで!?」

 スクルドからの新たな情報に俺が戸惑っていると今度はシャーリーが、彼女に対して使えない宣言を繰り出した。しかも、先程の天道はおちゃらけついでの行動であったが、こちらは目が笑ってないのでガチである。

 どんな小さな事でも、俺の事となるとシャーリーが真剣になってくれるのはとても嬉しいんだが、真面目に解説しているのにちょっとわからないだけでこの仕打だと、流石にスクルドが不憫に思えて来る。

「えーっと、確かその話、先輩からシステムの誤認って聞いたけど……わかった! それ、ただの証拠隠滅だ!」

 そして、自信満々に言い切る天道の考えもありえない話じゃない。天界がお役所体質で威厳を保つことを最優先に考えているのなら、大きなミスを無かったことにしている可能性は十分にありえる。

 だが、この話そんな単純なものではなく、何か裏があるような気がする。二次元脳の俺にはそんな気がしてならなかった。とは言え、確証は一切ないし俺たちに不利益が無い以上放って置くが吉だな。無駄な軋轢は増やしたくない。

(今の俺が剣であることにはある程度納得してる。俺自身の不備でもあるしな。だから、その点は皆もあんまり気にしないでくれ。この体のおかげでシャーリーと出会えたようなもんだし。な)

「……トオル」

 スクルドからもたらされた情報。もちろん謎な部分も多くあったが、これだけでも十分な収穫だろうと俺はまとめる方向へと話を進め始めた。
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