気持ち悪い令嬢

ありのある

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早くパンを食べろ

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城下町を出て、しばらく歩き、太陽が真上に登ってきた頃。
頭が痛い、頭痛がする、目の奥がズキズキする。これが今の私の状態。

「ねえファルメン、お腹すいた」

これがヤナギヤの今の状態。
私の今の状態はあまりよろしくないので、ヤナギヤには黙っていて貰いたかったのですが、中々難しい様子で。さっきからお腹が空いていることを主張してきます。
うるさく思いましたが、アレンの体が空腹を訴えているのはよろしくないので、一度昼食を挟むことにしました。
涼しそうな木陰があったので、そこに座りヤナギヤにパンを渡します。喜ぶと思いきや、ヤナギヤは不満そうに下唇を出し、溜息を吐きました。

「こっちに来てから、パンしか食べてない。あーあ。異世界ってもっと素敵なところだと思ってた。帰りたいな」
「帰ったら良いですのに」

ヤナギヤが居なくなっても、誰も困らないですし、帰ってしまえば良いのに。

「無茶言わないでよ。帰り方が分からないもん」
「はあ、そうですか」

頭痛が酷くなり、頭を押さえる。自分の分のパンも出していたけれど、食べられず袋の中に入れた。

「どうしたの?さっきから辛そうね」

私を心配する声に懐かしさを感じ、顔を上げるとそこにはヤナギヤの驚いた表情しかありませんでした。
少しだけ、アレンに似ていると思ってしまった自分を恥じます。
私は昔から頭痛持ちで、辛い時間を過ごすことが多かったですが、その度にアレンは優しく声をかけてくれました。

「頭が痛いの?撫でていれば治る?」

懐かしい。そうです、アレンは、よくこうしてくれました。

「アレン……」

あなたから王太子を奪おうとした時、あなたは何故かと問いかけてきた。周りの目があったので、真実を伝えずにいると、あなたはさめざめと泣いて、友達だと思っていたのに、と惨めな言葉を吐いた。
けれど、私は知ってました。あなたが望んでいない婚約を受けたことを。それを誰にも言えずに、一人で泣いていたことも。だから、あなたから王太子を奪ってあげようと思った。周りから非難されているのは知っていたけれど、あなたが自由になるためならば、どれだけ悪評に晒されても構わなかった。

「ファルメン、しっかり」

だけど、あなたは傷ついたと思う。だから、出てきてくれないのだろう。

「もう大丈夫です。あまりベタベタと触らないでください」
「ごめん、苦しそうだったから」
「パンを食べ終わったのなら行きましょう」
「あ、待って。まだ食べ終わってないの」

さっきから私の額をベタベタと触り、長々と構ってくるものだからもう食べ終わったと思っておりました。
確かによく見れば、ヤナギヤの左手には一口だけしか齧られていないパンがあります。
自分の行うべきことを遂げていないのに、何故私に長時間構っていたのでしょう。じっと見つめていると、ヘラヘラと笑っていたヤナギヤの眉毛が段々と下がり気味になっていき、最後は謝りながらパンを頬張りました。








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