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妬けつく心
しおりを挟む初めて知った、身も心をも焼き尽くすような嫉妬心。
俺が水澄を好きで、水澄も俺が好き。
それ以上があったとしても、それ以外があるなどと疑うことなど無かった。
文化祭二日目。
教室は体育館でのステージ発表だ。
正直、退屈な予感しかしない。
学年、クラス毎に列に並んで座り、ステージで催される発表を見ているだけなのだから。
特段仲の良い奴とか知り合いが出てる訳でもないそれを、どういう心持ちで鑑賞するというのだ。
初日はクラスの模擬店もあったし、午後からは水澄と一緒に過ごせただけに、『来て良かった』なんて感情すら生まれた。
しかしながら今日は……
正直、来る理由がある訳でもなく、なんとなく昨日のノリといった感じで来てしまったことを、早くも後悔すらしていた。
間もなく、二年生のステージ発表が始まった。
ありがちなベタな演劇やダンス、グループに分かれてダブルダッチやリズマーに漫才なんかをするクラスもあった。
それらを列の最後尾でぼんやりと眺めている。
それなりに楽しんでいる奴もいれば、徐々に飽きてきたのか近くの奴らと雑談を始めたり、スマホを触り出す奴もいた。
休憩を挟んで、有志発表が始まった。
軽音部のライブに被服部のファッションショーと続いて、生徒達は徐々に盛り上がっていく。
そして迎えた今日最後の催しは、大路高名物と謳われている生徒会主催のミスターコンテストだ。
これこそ、心底どうでもいい。
何が悲しくて野郎の女装を見なきゃならないのだ。
それでも名物というだけあって、体育館内のボルテージは更に上がっていくばかりだった。
「まぁ、今年もグランプリは海津で決まりじゃね?」
「言えてる。海津、マジで美人だもんな」
「美しいし、妖艶なのよね」
「勝てる奴いねぇだろ、本人もミスコンに命掛けてたりしてな」
「つーか、海津のクラスの奴全員ガチだろ?
衣装からメイクまで、気合い入りまくりだろうな。」
生徒会長のアナウンスで件のショーが始まった。
一年生から順に各クラスから一人ずつ様々な衣装を纏った男子が入場してくる。
歓声が飛び交う中、俺はぼんやりとステージを眺めていた。
暇潰しの参考書でも持ってくれば良かったなと考えを馳せていると、一際大きな歓声が上がった。
「あの一年生、めっちゃ可愛くない?」
「ヤバい、マジお人形さん!」
「えー!?あんな可愛い子、初めて見た!」
「いたらすぐわかりそうなのにね」
「ヤベェ、惚れそう」
「海津は美人系だけど、あっちは可愛い系だよな」
「しかも、エスコート役もイケメンじゃない?」
「わかるー!お似合いだよね」
周囲の騒ぎにつられてステージに目を向けた俺は、執事姿の男子にエスコートされる形で入場してきた姿に目を疑った。
フリフリのドレスを着せられ、目元を隠すように伸ばされていた前髪はスッキリ纏められて眼鏡も外している。
そう、その人物は紛れもなく水澄だ。
まさかそんなこと、一言も話していなかった。
きっと本人の意思は置いてけぼりで、周りの勢いに抗えず出場が決まってしまったのであろうことは優に予想がつく。
そして目のことを考慮されて付き添いが認められているのだろう。
執事役に手を引かれてステージに備え付けられた階段を下り、ランウェイを進んでくる。
トップまで来ると、執事役は水澄を姫抱きにした。
そうして一周回って見せると、また水澄の手を取りもう片方の手を腰に回してランウェイを引き返し壇上へと戻っていく。
なんだろうか。
腹の奥底から湧き起こる、えもいわれぬような感情。
誰よりも水澄の事を、俺しか知らない水澄の顔さえも、知っているのは俺だけだと思っていたはずなのに……
そこにいるのは俺の知らない水澄の姿だった。
喉の奥を焼かれたかのように、息をする事すら苦しい程に妬けつく感情。
水澄の姿があまりにも衝撃的に目に焼き付いてしまい、その先のショーの様子など全くもって入ってこなかった。
海津が和服姿で登場した時に、今日一番の歓声が上がっていたような。
いつしか終わっていたショーの結果は、優勝確定と言われていた海津がグランプリ、準グランプリには水澄が選ばれたことだけは辛うじて覚えている。
そんなことよりも。
この後どんな心持ちで水澄と顔を合わせれば良いのだろうか。
当の水澄はどんな顔で俺と対面するのだろうか。
悔しいけれど、あの二人が似合って見えたのは確かだ。
あんなに近くで水澄に寄り添って。
自分以外の誰かが水澄に触れることに、こんなにも感情を掻き乱されるなんて。
そして水澄が可愛い事が全校に知れ渡ったのだ。
ましてや水澄のクラスの奴らともなれば?
更に言うなれば、水澄の手を引いていたアイツは…?!
今までに誰かを好きになったことなんか無かった。
そんな俺が水澄を好きになったのだ。
他の誰かが水澄を好きになっても何らおかしくないことに、何故考えが至らなかったのだろうか。
水澄が俺だけを見ていると信じて疑うことなんてなかった。
その慢心が崩れていくように、水澄の隣に居るのが俺であるべき理由なんて、わからなくなってしまった。
今日は久しぶりに一緒に帰ろうと誘うつもりでいたけれど。
出しかけたスマホを再びポケットに仕舞い、足早に校門を後にして走り出した。
可愛い水澄。俺だけの妖精。
水澄が自分の力で道を切り拓いていくことを望む気持ちとは裏腹に、俺という檻の中に閉じ込めてしまいたいなんて、独占欲にも似た止まらない感情。
これが嫉妬心というものなのか。
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