ナナはなぜ壊れたのか③——少女が、少女を脱ぎ捨てるまで

nana

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第66話 「好きって、こんなもんなんかな」

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付き合い始めて、
数日が過ぎた。

朝、教室で顔を合わせる。
廊下ですれ違うときに小さく手を振る。

放課後、
ちょっとだけ一緒に帰る。

特別なことなんて、何もなかった。

私たちは、
友達だった頃と、
何ひとつ変わらなかった。

周りが「いい感じやん」と囃し立てると、
彼は、
はにかみながら笑った。

私は、
つられるように笑った。

嬉しくないわけじゃない。
でも、
心の奥で、
小さな違和感が膨らんでいた。

──これが、好きってことなんかな。

ふたりで歩く帰り道。
彼が何気なく話す他愛ない話。

それを聞きながら、
私は、
どこか上の空だった。

ふと、
誰かの視線を感じる。

それは、
クラスメートかもしれないし、
知らない誰かかもしれない。

私は、
そちらに無意識に意識を向けてしまう自分に気づいた。

──見られていたい。

そんな欲望が、
また胸の奥から湧き上がってきた。

彼に向けるはずの意識が、
別の場所へ、
ふらふらと流れていく。

彼は、
優しかった。

私に無理をさせることもない。

重たく縛りつけようとすることもない。

でも、
その優しさが、
逆に、
私をどこか物足りなくさせた。

もっと、
ぐちゃぐちゃにされたい。
もっと、
心をかき乱されたい。

そんな、
どこにも向けられない欲望だけが、
私の中で静かに膨らんでいった。

彼と一緒にいるとき。
みんなと笑い合うとき。

私は、
自分の心が、
少しずつ、
空っぽになっていくのを感じた。

優しくされても、
好きと言われても。

どこか、
自分が透明になっていくような感覚。

それが、
怖かった。

私は、
まだ誰のものにもなれていなかった。

ただ、
誰かの隣に立って、
ただ、
そこにいただけだった。

──つづく。
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