ナナはなぜ壊れたのか③——少女が、少女を脱ぎ捨てるまで

nana

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第78話「壊れた夜、晒したかった私」

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帰り道、
彼とは駅で別れた。

「またな。」

手を振る彼の横顔を、
私はまっすぐ見ることができなかった。

笑えなかった。

あの日、
全部を許したあの夜。
私だけが、
あんなにも必死だった。

──重い。

彼の、何気ない一言が、
何度も頭の中で反響した。

私は、
必要とされていなかった。

そんな事実が、
身体の奥まで突き刺さっていた。

家に帰るなり、
私は制服を脱ぎ捨て、
ベッドに倒れ込んだ。

声も出なかった。

ただ、
心の奥が、
ぐちゃぐちゃにかき回されていた。

何かを埋めたくて、
私は、
無意識に手を伸ばした。

スカートの中に。

これまでも、
ひとりで慰めたことはあった。

でも、
この夜は、
違った。

私は、
はっきりと妄想した。

──大勢の男たちに、見られている自分を。

部屋に誰かがいるわけでもないのに、
私は、
まるで、
何十人もの視線を一身に浴びているかのような錯覚に溺れていった。

制服のシャツを無理やり胸元までたくし上げ、
乱れた下着のまま、
ベッドの上で膝を立てる。

まるで、
見せつけるように。

恥ずかしいポーズをとる自分に、
全身が震えた。

冷たい空気に晒された肌。
ピンク色に膨らんだ胸。
湿った太もも。

それを、
誰かが覗き込んでいる妄想。

何十人もの男たちが、
無言で、
ニヤニヤと笑いながら、
私を眺めている。

──もっと、見て。

──もっと、私を、覗いて。

羞恥が、
私を追い詰める。

けれど、
それと同じくらい、
甘い快感が、
脳を溶かしていった。

私は、
自分の指で、
自分を慰めながら、
あえぎ声を必死に押し殺した。

「……あ……みないで……やだ……」

口ではそう呟きながら、
心では、
必死に求めていた。

もっと、もっと見て。
私のこんな姿を。

だれかに、
汚される妄想。

無数の視線に裸をさらしながら、
私は、
ひとりで、
果てた。

カラダがびくびくと跳ねた。

涙が滲んだ。

でもそれは、
悲しみの涙じゃなかった。

快感と屈辱と孤独が、
ぐちゃぐちゃに混ざった、
倒錯の涙だった。

荒い呼吸を繰り返しながら、
私は、
ベッドにしがみついた。

乱れた制服。
晒した胸元。
むき出しの太もも。

鏡に映る自分が、
信じられないくらい淫らだった。

でも、
私は、
そんな自分から目を逸らさなかった。

──これが、今の私や。

壊れた夜。

私は、
もう、
普通には戻れなかった。

誰にも愛されないまま、
誰にも抱かれないまま。

見られることに溺れて、
ひとりで堕ちていくしかなかった。

──つづく。
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