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第32話 「バスケットボールの音が、救いだった」
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私の中学校生活は、
特別、きらきらしていたわけじゃない。
授業中は、
いつもノートに落書きをしていた。
先生が黒板に書く公式も、
歴史の年号も、
私には、
どこか遠い世界の話みたいだった。
勉強は、苦手だった。
テスト前に教科書を開いても、
頭には何も入ってこない。
数字も漢字も、
全部、もやの向こうにあるみたいだった。
そんな私でも、
好きなものがあった。
スポーツ。
特に、バスケットボール。
昼休みや放課後、
体育館にボールの音が響くと、
私は自然に身体が動いた。
バスケ部に入ったわけじゃない。
でも、
自由参加の練習に、
私は毎日のように顔を出していた。
小さな手でボールを受け取り、
全力でドリブルする。
パスをつなぐ。
ゴールに向かって、
ひたすらボールを放る。
その瞬間だけ、
私は、自分のカラダのことも、
誰かの視線のことも、
忘れることができた。
汗をかく。
笑う。
大声を出す。
あのときだけは、
私は「女の子」でも「誰かに見られる存在」でもなかった。
ただ、
走って、
跳んで、
笑っている、
ただの"ナナ"だった。
バスケットボールの弾む音が、
私を救ってくれていた。
その音を聞くと、
ざわざわと暴れる心が、
少しだけ静かになった。
シュートが決まったとき。
仲間にハイタッチしたとき。
誰かと笑いあったとき。
ほんの一瞬だけ、
私は、
壊れる前の自分に戻れた気がした。
でも、それは、
ほんの一瞬だけだった。
体育館を出て、
制服に着替え、
スカートの裾を直すとき。
私はまた、
ふつうの顔を取り戻し、
壊れたまま、
日常の中に戻っていった。
バスケをしている間だけ。
走っている間だけ。
私はまだ、
「ふつう」でいられた。
そんな時間を、
私は心の奥で、
必死に守ろうとしていた。
──つづく。
特別、きらきらしていたわけじゃない。
授業中は、
いつもノートに落書きをしていた。
先生が黒板に書く公式も、
歴史の年号も、
私には、
どこか遠い世界の話みたいだった。
勉強は、苦手だった。
テスト前に教科書を開いても、
頭には何も入ってこない。
数字も漢字も、
全部、もやの向こうにあるみたいだった。
そんな私でも、
好きなものがあった。
スポーツ。
特に、バスケットボール。
昼休みや放課後、
体育館にボールの音が響くと、
私は自然に身体が動いた。
バスケ部に入ったわけじゃない。
でも、
自由参加の練習に、
私は毎日のように顔を出していた。
小さな手でボールを受け取り、
全力でドリブルする。
パスをつなぐ。
ゴールに向かって、
ひたすらボールを放る。
その瞬間だけ、
私は、自分のカラダのことも、
誰かの視線のことも、
忘れることができた。
汗をかく。
笑う。
大声を出す。
あのときだけは、
私は「女の子」でも「誰かに見られる存在」でもなかった。
ただ、
走って、
跳んで、
笑っている、
ただの"ナナ"だった。
バスケットボールの弾む音が、
私を救ってくれていた。
その音を聞くと、
ざわざわと暴れる心が、
少しだけ静かになった。
シュートが決まったとき。
仲間にハイタッチしたとき。
誰かと笑いあったとき。
ほんの一瞬だけ、
私は、
壊れる前の自分に戻れた気がした。
でも、それは、
ほんの一瞬だけだった。
体育館を出て、
制服に着替え、
スカートの裾を直すとき。
私はまた、
ふつうの顔を取り戻し、
壊れたまま、
日常の中に戻っていった。
バスケをしている間だけ。
走っている間だけ。
私はまだ、
「ふつう」でいられた。
そんな時間を、
私は心の奥で、
必死に守ろうとしていた。
──つづく。
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